第12話 俺は、とんでもない難問に、気づいてしまったのかも知れない…?

「…………これくらいでいいですか?」


赤面した顔を両手で隠した水葉さんが、その指の隙間から僕をちらっと見て言う。


いやだから、仕草がいちいちクソかわいいんよ。

なんなの? 俺を殺しに来てるわけ?

受けて立つよ。3秒もかからずに転召する自信があるぜ!!!


「本当にっ!! ありがとうございます!!!」


俺は土下座までは行かなくても座ったまま頭をできる限り下げた。


本当に、一生に一度の思い出でした。


「………恥ずかしかったですけど、少し楽しかったです。では、次のマッサージに行きますね。腰を揉むので足に乗りますから、痛かったら言ってください。」


もうやめと、まくし立てるように水春さんが言う。

うぅ、照れてるところもかわいいですなー……。


少し経ってうつ伏せになった俺の足のあたりにポスンと軽い音とともに、重さが伝わってきた。


うわぁ軽い。

本当に俺と同じ人類なのだろうか。


この人だけが『水葉人』とかの異星から来たとか言っても俺は全然納得できる。


「ではいきまーす。」


そんな水葉さんの声とともに腰に圧を感じる。


おぉこれは中々……。


元々ここには肩と腰がこるからきたんだ。

俺のバッキバッキだったはずの腰が、水春さんが触るたびにほぐれていく。


やっぱプロってすげー……………。


「けど、本当に似てますね。」


俺はプロフェッショナルの技術に感動しながら、さほど考えずにそんなことを言う。


「何にです?」


腰の骨と骨の間を触りながら水春さんが聞き返してきた。


「ミズハChannelとです。俺の最近ハマってるASMRのチャンネルなんですけど、水葉さんと声が瓜二つなんです。」


俺は話のネタになればと話をした。


こういうのの待ち時間ってちょっと気まずいからね。

美容室とか言っても、あちらが振ってくれる話題が全部オシャレすぎて俺じゃついていけんのよ。


なんだよ駅前のパンケーキって。

なんだよ最新のファッションの流行って。


こちとら万年白米の万年白シャツ紺のパンツだっつーの。


まぁあちらとしては気を利かせてくれてるつもりなんだろうけど、俺みたいなのには逆効果なんだよなー。


「…………ソ、ソウナンデスネー。ソンナグウゼンアルンデスネー。ハハハ」


かなりの長さの沈黙。それこそ俺が美容師トークを繰り広げるくらいには長い沈黙の後、水葉さんが明らかにさっきまでとは違った声色で言う。


棒読みだし、機械的だし、ビブラートも抑揚もついていないしなんなんだろう。


いきなりボーカロイドごっこでも始めたのかと思ったよ。


あれ? ちょい待てよ…………。


「…………水葉さん。このチャンネルの名前もミズハ………。」


あれれー? おっかしいぞー!?


名前が同じで声も似ている…………。

あれれれれれーー?

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