第11話 彼女…………演技だけど

「…………少しですよ?」


「っ!!!!!」


俺は水葉さんの笑みを直視できず、目をそらしながら息を呑んだ。


まさか、まさかオッケーしてもらえるなんて。


嫌われるのも引かれるのも想定内で、もう通報されるまでは覚悟してたのに……。


「ちょっとなら、良いです…。」


頬を赤くした水葉さんがそっぽを向いてそうつぶやいた。


あらやだ何この子!!! 可愛すぎなんですけど!!!!!!!


神様は罪なものだ!!! 俺と彼女を同じ生物的分類に値する生命体に生まれさせるなんて!!


「ありがとうございますっ!!!」


俺はゴシゴシとシーツに頭をこすりつけて感謝する。


心からの陳謝を!!!!!! 猛謝を!!!!!


「…………恥ずかしい…。」


ぼそっとつぶやきつつ、水葉さんは体を起こした俺の左手を触る。


「お願いします!!」


俺は身動きがとれないので土下座の代用として、魂を込めて言った。


本当にネトゲで負けを確信したときのあのけだるげさマックスの声と、この全身全霊マックスの声が同じ声帯から出るなんて、我ながら信じられないぜ。


「じゃっ、じゃあ行きますよ?」


緊張しているのか少し震えた声で言う水葉さん。


ヤベェ嬉しすぎて昇天しそう……。


でもこれを聞き終えるまでは死ねない!!

俺は死んでも死なないぞぉ!!!!


笹野ささのくんどう?気持ちいい?」


オイルで濡れた俺の左腕(無毛)をもみもみしながら俺を見上げる水葉さん。


…………………樂園ユートピアはここにあったのかもしれない…。


俺はなにか反応を示そうとするが、もうその素晴らしさに頭がショートして声を出すことすらまともにできなかった。


「君は最近頑張ってるからね。彼女である私が癒やしてあげるよ。」


耳からは彼女の声 CV.水葉さん

腕は上から下へとマッサージさへる感触。


………………もう、さいっこう!!!!


「……………。」


人間本当に感動すると何も言えなくなる。


ヤバい、最高、死ぬ。

その三つ以外の語彙が死ぬのでだ。


まぁとにかく、ヤバくて最高で死にそうなのだ。


「ほらほら、私は君の彼女なんだからそんな緊張しないの! リラックスリラックスー。」


「………ヤバぃ……」


脳内フィルターを通さずに俺はただただ感動の声を漏らした。


…………ヤバぃ…


「ふふふふ、どう気持ちいい?」


はいっ!!! と全力で叫びたくなるのをグッとこらえて俺は無言を貫く。


こんな人生に一度とない機会。

味わわなくては、脳内メモリーに二重三重に記憶せねば!!!


「気持ちよさそうだね。ふふふ、私達付き合ってるんだから、これくらいいつでもやってあげるよ?」


僕が何も言わないのを察してくれてから、水葉さんはまるで俺が反応しているかのように話をしてくれる。


マジでヤバいっす。その気遣いありがたすぎる。


てか、水春さん手慣れてる?

こういうのよくやるのかな?


いやそんなのどうでもいいんだ、今はこの快楽の暴力に見を預けて欲望の限り堪能しなければ。


俺は謎の使命感とともに感覚を研ぎ澄ませて、彼女の声と感触を片っ端から記憶していった。





……………我ながらに、気持ち悪いぜ!!!

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