わたしにまかせろ

「えっと――。

 さむ、ぎょ……ぷ、さ、る……おねがいします!」



「お待たせしました、サムギョプサルでーす」

「うわぁ!」

「でっけー!」

 インパクト抜群の豚バラ一枚肉。カットせずに提供されるのは、こうして見た目で客を楽しませる狙いがあるのだろう。

「ゆうしゃさま、どうやってやくの?」

「これはな、まず……」

 トングでしっかり肉を掴む。落とさないように、大胆かつ慎重に。

「――このまま網の上に乗せる」

「ほぁー……」

「おぉー……」

「あとは普通に、片面焼けたらひっくり返して――またしばらく焼いて、火が通ったらおいしく食べる。少し時間掛かるから、休憩タイムだな」



 さて、そろそろ返す頃合だろうか。

 トングを用意して、ハサミ……はまだいいか。それから――。


「あっ……」

「おにくが……!」


 一瞬にして火柱があがる。

 落ちた脂が引火してしまったのだろう。ごうっと音が立ちそうな勢いで、肉全体を炎が包む。

 ともかく、落ち着いて対処しよう。氷は――。


「ゆ、ゆうしゃさま……」

「こわい……」


 ……駄目だ、手をのばすには幹也に動いてもらう必要がある。

 動物は本能的に火を怖がる、という話もある。好奇心旺盛なふたりといえど、ここで恐怖が勝ったって不自然なことはない。

 怯えてすがってくる様子もまた愛らしい、なんて思うはずもなく。

 一刻も早く、二人を安心させる手段といえば――。

「……仕方無い」

 これはあまり使いたくないんだが――!



「な、なに……!?」

「ゆうしゃさま、すごくきらきらしてる……!」



 腹の底から気力エネルギーが満ちるのを感じる。

 二人を護るんだ。今の私にできないことなど、何ひとつありはしない!



「――説明しようッ!」

「「よみちゃん!」」

「アイはその身に秘めし能力チカラを解放することで一時的に無敵チート全開・スーパー勇者としての能力スキルをめちゃくちゃ発揮することができるのだ!」

「つえー!」

「かっこいい……!」



 希望に溢れた未来を信じる、強き意志持つ勇者の力・・・・。そして――身を賭し平和りそうを叶えようとした、心優しき魔王の力・・・・

 二人の想いチカラを受け継いだ私が、果たして――大事な二人を護れぬ道理があるか?



「――否!」



「二人とも、勇者アイを応援してあげて!」

「……ゆうしゃさま、がんばれー!!!!!」

「がんばれぇ~~~~!!!!!」



 世界なんて大それた規模じゃないけど、ほんの小さなものだけれども。

 ……護ってみせる。

 二人の平和も、笑顔も、美味しいお肉も――!



「わぁ、もえてたが……!」

「すごい、トングにすいこまれちゃった……!」



「……よし。二人とも、もう大丈夫だ。怖がらせて悪かったな」

 呆然としている。

 あんなに怯えていたんだ。もしかしたら、気が抜けて泣いてしまうかも――。


「ゆうしゃさま、つえー!」

「すごい、さいきょう……!」


 私はただ、偶然持って生まれた能力を当たり前に発揮しただけだが……それでも、不思議と悪い気はしない。二人の危機を救えてなにより。

「ほら、お肉がちょうど良い具合に焼けたよ。早速いただくとしよう。……あの能力は腹が減るんだ」

 これにて一件落着。

 さて、サムギョプサルを取り分けて――。

「……え!?」

「なにしてるの!?」

「何って……焼けたサムギョプサルをハサミで切り分けているだけだが?」

「ハサミでおにくきっていいの!?」

「ぼ、ぼくもやりたい……!」

「いいぞ。でも危ないから、一度取り出して……よし。お皿の上でカットしよう」

「ゆうしゃさま、ありがとう!」

「つぎ、まののばんね!」

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