いろいろやこうぜ

「さて、一旦注文に入りたいのだが……食べたいものは見つかったか?」

 私を挟んで顔を見合わせている。そしてフリーズ、からの再起動。

「わかんない……」

「まよっちゃう……」

 なるほど。興味は示せても、量が多くて選びきれない……といったところか。

「二人とも、大丈夫だ。こういう時の良い呪文がある」

「……じゅもん?」

「ゆうしゃさま、なにをとなえるんですか?」

「何って……

 『おまかせ』で――と、店員に一言伝えるだけだが?」





「よし、タレの用意をしておこう。

 醤油ベースは甘口に、辛口……は置いといて、あと一般的スタンダードなのは……塩ダレ、レモン、和風おろしかな。どれから使う?」

「まの、しおがいい!」

「じゃあぼく、おろしにする!」

 初手からさっぱり系とは……二人とも、なかなか資質があるかもしれない。

 さて、私は私で用意させてもらうか。

「あれ? それ、ふつうのおしょうゆ……?」

「ゆうしゃさま、なにしてるの?」

「何って、醤油にワサビを溶かしただけだが?」

「「わさび」」

「他のタレも美味しいが、ワサビ醤油もなかなか合うんだ。

 ふたりは……ワサビ、食べられる?」

「おすしやさんでママの、ちょっとたべたんだけど……おとなのあじでした」

「はな、つーんってしたよね!」

 私も、小さい頃はダメだったな……懐かしい。

「ゆうしゃさま、すごいなあ……!」

「おとなだぁ……!」

 ……ちいさなことだけど、私も成長レベルアップしてるんだなあ。



「二人とも、間に野菜も食べるようにな。

 私みたく――……あむ」

「……ゆうしゃさま、はっぱもりもりたべてる!」

「なんで!?」

ふぁんえって(なんでって)――。

 ……サンチュに肉を包んだだけだが?」

 食べながら喋ろうとしてしまった。いかん、教育に悪い。

「「さんちゅ?」」

「この葉っぱだ。ほら、これを開くと……」

「おにくだ!」

「おにくはいってる!」

 さっきから、ちょいちょい包んで食べているのだが……もしかして、肉に集中するあまり、包む過程を見ていなかったのか。気持ちは分かる。

「そうだな……今のが焼けたら、ふたりも一緒にやってみようか」

「やる!」「やります!」





「ゆうしゃさま……まの、おトイレ」

「そうか、じゃあ私も付き添――いや、幹也をひとりにしてしまうな……」

 二人一緒に連れて行くべきだろうか。でもまだもぐもぐしてるし、肉も微妙に火が通っていないし……。


「このワタクシめにお任せを」


「詠!」

「空いたお皿の回収に来たんだけど――まだ無さそうだし、代わりに真乃ちゃん持っていくね」

「洒落のつもりでも言い方がだな」

「や、ごめん……世界滅ぼしそうなオーラ出すの止めて? 焼肉屋さんに居ていい魔王は芋焼酎おさけとカルビクッパだけ」

「全て喰らう。芋焼酎アルコールもじきに滅ぼす。そして私が君臨する」

「ソフトクリームおごるんで勘弁してください」

「「ソフトクリーム!?」」

「食後にな。……詠、三人分だぞ」

「サー、イェス、サーッ!」

「じゃあ火の面倒もあるし、詠は幹也を見ていてくれ。変なこと」

「しませんッ!」

「よし。――真乃、待たせたな。抱っこだ、マッハで運ぶぞ」

「やったぁ!」

「……いいなー」

「幹也は帰りにな。ああ、詠、それから――」


「なんかごにょごにょしてる」「してるね」



「戻ったぞ」「ただいまー!」


「お帰りなさーい。……あ、魔王さま、手はず通りに」

「ご苦労。下がっていいぞ」

「はっ! ……しゅたっ」

 助かった。さすが詠、多少ふざけてはいるが……あれで仕事はこなす奴だ。私が頼んだ事とは別に、しれっとおしぼりの交換やタレの補充まで行われている。

 幹也のことも見てくれたし、そのうち私もおごってやろう。

「まの、みてみて!」

「なぁに?

 ……わぁ、あみがぴかぴかになってる!

 ゆうしゃさま、どうして!?」

「どうしてって……店員よみに交換をお願いしただけだが?」

「こうかんできるの!?」

 そこのポスターにも書いてあるんだが――あ、漢字か。

「ぼくみてたよ! あのね、よみちゃんがね、トングでつかんでかえてくれたの!」

「いいなー!」

 なんでも羨ましがりそうだな、この二人は。見ていて飽きない。

 他に喜ばせてやれそうなことは――まあ、後で考えよう。

「次は一緒の時に頼もう」

「やったあ! ……あっ」

「どうした?」

「こんなにぴかぴかなら、もうこげこげにならないかも……」

「あ、もうよごれてくれないかも……!」

 やれやれ、そんなことか。それじゃあ、絶対にして唯一の解を教えてやろう。

「二人とも、私の作戦を聞いてくれるか?」

「「きかせてください!」」

「――たくさん焼いて網を焦がそう。他に食べたい物はないか?」

 ふたりの表情かおがぱあっと輝く。

 新品の網にも負けないくらい……というのは、比喩として少々チープか。


「「さすがゆうしゃさま!」」

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