第42話 彼のこれまでの行動
後に聞いた話である。
坂田比良金は知り合いのネット番組のプロデューサーを引き連れ、シールドオブスターの教祖である男性の元へと強行取材を敢行したのだという。
教祖の男性の当日の足取りは事前には分からなかった。メーリングリストからは参加人数やその集合場所などの情報を得ることが出来たが、運営側の人物の足取りは隠されていた。また、チャネリングの会に関しては関東という広い地域で分散して行われてもいたため、どこに教祖が現れるか、そもそも現れるのかすら掴めない状況が続いてた。
だが、芦屋美智蜜の行動により、教祖の場所の特定が出来た。坂田率いる撮影クルーは芦屋の案内に従って行動を開始した。
当日、芦屋は指定された場所でのアセンションに参加したという。途中まで、あくまで普通に。だが彼には一つの切り札というか、禁じ手とも言うべき力がある。
架空接続による呪術行使である。
退魔師、とりわけ架空存在学会において、呪術・魔術などの架空接続能力の積極的行使はグレーゾーンであるという。あくまで架空存在の意味を否定し、怪異を駆逐・減少・抑制するのが架学会のモットーである。僕たちの用いる呪剣も白よりのグレーという怪しい場所にある。残る結果が架空存在の解体のみであるため見逃されているに過ぎない。
さて、その点から言って芦屋の用いる術は黒よりのグレーだ。神代文字を用いたまごう事なき呪術を用いる人物だからである。
いわく、この業界には退魔師と対立する概念として呪術師というものがあるのだという。魔を祓う手段ではなく、他者を呪い、害することを目的として用いる者……それを呪術師と呼ぶ。
実際はそこまで綺麗に区分けされている訳でも無いらしい。退魔師を兼業する呪術師もいる。ゆるやかに存在する区別と言ったところか。
そんな中でも架空存在学会派はそうした積極的な呪術行使を嫌う傾向が強い団体である。そして」芦屋はそんな団体に所属しているのに積極的に呪術を用いる退魔師であった。
学会に参加した際の芦屋の扱いを思い出す。そうした点が、彼が忌み嫌われる理由のひとつだった。
さて、芦屋は呪術を用い、教祖の動向を知る構成員を捕まえて強制的に口を割らしたらしい。そこで得た情報はすぐさま坂田の元へ届いた。坂田班と芦屋は合流して教祖を捕縛、詰問した結果……あっさりと保険金詐欺を認める発言をしたという。架空接続を用いた妨害などは一切なかった。教祖にはUFOを呼び出す術など無かった。彼の行った予言は外れるべくして外れるものでしか無かった。
この結果に芦屋は「がっかりした」とのこと。
「だってねぇ、君。わたくしめとしては妄想と欲望が入り交じってぐっちゃぐっちゃになった事件かと期待していたんだよ?それがこんなんじゃ、もう期待外れもいいところなんだよね」
が、そんな中で彼は吉報を受けた。霊視持ちのメンバーから茨城県の海岸でUFOらしき物体が視えた、という報告を受けたのだという。僕たちにはギリギリまで見えなかった銀色の円盤は、視るものが視ればすぐに感じ取れるものであったらしい。
その報告を受けて、次の瞬間には芦屋は撮影班の車を乗っ取り走り出していた。都心から車で飛ばして約二時間。そうして彼は、舎利浜へとたどり着いた。
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