第34話 超流派の依頼

 坂田比良金は壇上に現れて開口一番、集まった面々に礼を言った。が、その後はあくまで事務的な説明に終始することとなった。語られる内容は芦屋が語った発表をより分かりやすく、かつ癇に障らないよう調整したものである。


 シールドオブスターなるカルト組織が架空存在―――この場においては「怪異」という言い方をしていたが―――を発生させた事例が確認されること。

 その組織が保険金詐欺を企んでいる形跡があったこと。

 彼らの教義のたどり着く先が、どうやら死であるらしいこと……


「―――そして、この事例を監視していた芦屋美智蜜の報告によると、いよいよXデーが予告された、ということだと。本来、Xデーの指定は大きなリスクを伴う。某帝国しかり、リンゴ送れCの事例しかり、予告したときがピークで、後は萎んでいくというのが普通だ。それにも関わらず予言したという事実。つまり、彼らは何らかの予言の実行手段を有すると考えられる。我々架空存在学会は、この事例を『法と退魔の越境事例』であると判断し、よって退魔師の皆様には超流派による対処を依頼したいと告知させていただいた。改めて、どうかご協力を賜りたい」


 坂田は普段の粗暴な様子は也を潜めて、極めて冷静に会場の人物たちへと頭を下げる。その様子を会場の人々は神妙に眺めていた。

 僕の知っている坂田比良金とは違う様子が、否応にも緊急事態を感じさせた。


 その後は割り出されたポイント―――過去の組織に関連するUFO目撃事例や、チャネリングが行われた場所など―――の解説や状況説明などが行われた。

 この間言った舎利浜もそこには入っている。なんというか、因果を感じてしまった。沙也加とオカルトを享受するということは、どうしても次の仕事の伏線となってしまうらしい。


 それを承けて協力を約束した退魔師たちの配置や割り振りなどが話し合われることとなった。基本的には各流派ごとにどのスポットを巡回するか、何人出すかといった内容だった。 シールドオブスターの規模は50人前後と、実のところそう大きな組織では無い。しかし当日は一カ所にとどまってUFOの到来を待つ……というような感じではないとのことだった。


「スターオブシールドが発行しているメールマガジンがある。お告げが下ったので、皆に報告する……ってな内容だ。今から抜粋して読み上げる。『○月○日、この星にいよいよアセンションの手が伸びる。関東各地にプレアデス星団より無数のUFOが降り注ぎ、信じるものたちの魂を救い去る。約束の日、私たちは各地のアセンテッドポイントで救世の時を待ちましょう』……この後は各地で待つ班決めについての案内と、このイベントに予約するためのURLが続いてる。つまり、だ。いくつかの班に分かれて各地でアセンションしましょうっていう趣旨であるらしい」


 つまり、関東各地で何個かの班に分かれてUFOを待つということらしい。


「このイベントについては現在、芦屋美智蜜が参加希望を出してる。が、どうやら全体像を共有するようなことはしてないとのことだった。応募しても、どこそこで集合しましょうという案内が届くだけらしい」


 そうなると、本当に手がかりが少なくなる。

 ただ、坂田が言うには全く分からないと言うこともでないようだった。


「保険金が掛けられている人物の特定は出来ているが、彼らがどの場所に配置されているかまでは分からねぇというのが現状だ。ただ、報告によると芦屋が指定されたのは過去のチャネリングにも使われていた場所らしい。また、会員数が50数名であることから考えて、ポイントは10まで絞れると判断した。俺たちが調べた巡回スポットを元に当日は動いて貰おうと思う。今後も詳しいことが分かり次第、人員配置やスポットの変更などをお知らせする。各位は情報の更新に努めて欲しい」



 会が終わり、解散の運びとなった。が、会場にはまだ人が残っている。流派ごとに固まりつつも、情報交換や日程の調整などといった交流会のような状態になり始めた。絹葉女史は付き添いで来ていた二人を連れて挨拶回りに出ていく。


「では私たちは架空存在学会の方で打ち合わせをしてきますので」


 沙也加はそう言って女史たちとは別行動を始めた。

 特にそれについて何も言われることは無く、あっさりと「じゃ、しっかりね」と送り出されていく。


「なんだか意外な気がする」

「何がです?」

「君、円藤家の跡取りってことなんだろ」

「押しも押されぬ次期頭首ですが」

「あっちについて行かないんだな。絹葉さんの知り合いに挨拶回りしたりとか」


 僕の疑問に沙也加は「そのことですか」と特に面白そうな様子も無く答える。


「基本的に架空存在学会のメンバーは嫌われてますからね」

「そうなの?」

「ええ。特に伝統的退魔の家系からは。母様が挨拶するような相手と顔を合わせたところで『道理を介さぬ愚か者がノコノコ面を見せてきおったぞ』などと嫌みを言われること請け合いです」

「妙に具体的だな」


 過去にそう言われたことでもあったのだろうか。確かにそんなことを言われれば嫌にもなるだろうけれど。

 が、沙也加はその僕の感想を意に介さずに「それに」と話を続ける。


「この件は架空存在学会主導です。学会員たる我々が情報交換するべきは同じ学会員です。具体的に言えばカナさんと……甚だ不本意ですがこの件に誰よりも詳しい芦屋さんに」

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