第13話 架空存在学会
駅から五分ほどの位置にあるビルの中に、その貸し会議室はあった。
会場には雑多な人物が行き交っていた。
様々な年代の、さまざまな服装の、さまざまな男女。
ある人物は陰陽師らしい直衣を着ており、またある人物は沙也加と同じく和服を着回している。またある人物は袈裟を身に纏った僧形であり、ある人物はカソックを纏いキリスト教徒の神職のようでもある。
そういういかにもな服装以外にも普通にスーツを着こなす人物もいたりして、千差万別であった。
会場は100人くらい人が入れそうな広さ―――大学で言えば教養講義で使われるくらいの教室―――であった。
ひとつにつき五人くらい座れる長机が左右に10ずつ並べられている。
前方には大きなプロジェクターのスクリーンが垂らされている。本日発表を予定している人物がPCとプロジェクターを繋げて調整と確認をしていた。
いまPCの接続をチェックしている人物も独特の服装をしていた。服装は黒いカソックのようなものを着ているが、その上から和風の羽織を着ている。羽織には家紋のような記号が刺繍されている。ただ、それは家紋というには文字のようだ。
「あの方ですよ」
「うん?」
「
「え。ああ、分かった」
彼女はそう言うと、僕を置いて芦屋美智蜜氏の元へと行く。
なぜ僕を同行させないのだろう。疑問に思った。
しかし準備は準備でしておかなければならない。彼女の言うとおり、PCを立ち上げてファイルの準備を始めた。
とはいえ、二人がどういう会話をしているのかは少し気になる。
遠目に二人の様子をうかがっていた。
沙也加は芦屋の元へ進む。何やら挨拶をしているようだ。芦屋はなにやらニタニタとした笑みを浮かべていた。
それに対する沙也加の表情は分からない。ただ、楽しそうでは無いように思う。
芦屋は沙也加と会話していたのだが、やがて彼は視線を沙也加から外し―――僕に視線を合わせてきた。
相変わらず、表情は笑みを浮かべている。視線はまっすぐに、瞬きすることなく僕へと注がれている。
何かを見透かすような、小馬鹿にするような表情は快いものではない。
つい、視線を外したくなった。
同時に、こちらが視線を外す道理も無かった。
そんなことをすると、なんだか負けたような気分になる。
何と勝負をしてるのか、と問われると弱いのだが。
僕は男の目を見ながら、軽く会釈を返す。
そうこうしている内に、芦屋は興味を失ったのか、僕から視線を外した。
―――別段彼とにらめっこをしたいわけでは無い。だから僕としては構わないのだが。
しかし、この視線の邂逅は何だったのだろう、と釈然としないものを感じる。
やがて、沙也加は僕の隣に戻ってきた。
「何話してたの?」
「……なんでです?」
彼女は僕の質問に質問で返した。
いや、あの芦屋という男の様子が変だったし、僕に妙な視線を寄越してきているので気になった、というだけなのだが。
「……あー。そういうことですかぁ?」
「急に何を納得した」
「分かりました。ズバリ嫉妬ですね」
「君の読解力が心配になってるよ僕は」
「あなたの知らない陰湿エセ陰陽師と私が会話しているところを見て不安になったのでしょう?セキくんったら本当、かわいいところがありますよね」
などと、うざい小悪魔もどきな会話ペースで何かを誤魔化そうとした。
そう、誤魔化そうとしているようにしか見えない。
「安心してください。私はセキくん一筋20年です」
「おっと、時空の歪みがここに現れたぞ?半重力エンジンの開発も近いな」
「世紀の大発見ですね。おめでとうございます」
結局、彼女の誤魔化しに乗ってしまう僕も僕なのだが。
こうしていつもどおり、僕が感じた違和感は意味の無い会話の渦に飲まれていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます