第4話終演

暗闇の中


雑音がうるさくて目を覚ました。


「起きなさい」


重い瞼を上げる浩介




目の前には過去に聴取を受けた時の二人の刑事が険しい顔をして、浩介を見ていた。


音楽の巨匠達が廊下を走り回っていて、ドアに取調室というネームプレートが貼られている。


周囲を見渡す浩介、周囲は灰色の壁で覆われていた。


机の上にはノートパソコンが置かれていた。


「ここは?」


眼鏡をかけた男が顔を崩さないまま、声をかけた


「随分、楽しそうだったね」


思い出したように笑いだす浩介。


「今ね、ひどい、言いがかりをつけられてたんですよ」


眉を顰める眼鏡をかけた刑事


「それはどんなのかな?」


「勝手に自殺したのに俺のせいだって、責任転嫁してくるんですよ」


「君に全く、非はないのかな?」


肩を竦める浩介。


「全然」


上目遣いで浩介を見る相棒、ノートパソコンの画面を浩介に見せる。


映像にはさっきサエが妊娠した不安で自殺を告白した映像が流れていた。


驚きの表情を浮かべる浩介


眼鏡をかけた刑事が浩介を見つめる。


「これでも、そう言うのかな?」


目を細め、映像を眺める浩介。


「ここは何の世界なんですか?」


眼鏡をかけた刑事が淡々と話す。


「あの海の場所が特殊な磁場を作っていてね、所謂、次元空間みたいなものだ」


「陽太と朱里がサエのことについて話したのはどうですか」


「彼女の恨みと彼らの恨みがベクトルは違えど、一時的に共鳴してしまったから発生してしまったようなものだ」


「へえ、僕は死んだんですか?」


「うーん、死んではないかな」


「僕は帰れるんですか?」


「帰れるよ」


胸を撫でおろす浩介


「よかった」


眼鏡を掛けた刑事がじっと浩介を見る。


「というよりは君と居たくないと言った方がいいかな」


楽しそうに笑う浩介


「異次元世界にも嫌われちゃった」


怪訝顔で浩介を見る眼鏡をかけた刑事


「何が楽しいのかわからないけど」


相棒が口を開いた。


「反省する気はあるのかな?」


フンと一蹴する浩介


「まさか、変に責任転嫁をされたこっちの方が被害者ですよ」


フーンと珍し気な顔で浩介を見る相棒


「取り調べは以上だ」




世界が暗転する。




賑やかな声で目を覚ます浩介




部屋の中は大理石の壁に覆われていて、裁判所のようだ。


傍聴席には浩介の他に音楽の巨匠が静かに鎮座していて、陽太と朱里の姿が見える。


裁判官席にバッハが厳格な顔をして、座っていて、その手にはガベルが握られている。そして、傍聴席から見て、右の当事者席にはにはサエがうなだれて座っている。




浩介は動こうしたが、席に固定されていた。




ガベルが鳴り、バッハが重々しく、口を開ける。


「被告人証言台へ」


サエが証言台に移動する。




バッハがサエを一瞥する。


「避妊をしなかったことについてはどう思いますか?」


「浩介さんに嫌われたくない一心で後先のことを考えず、行動してしまった子を深く反省しております」


「自殺してしまったことについては?ご家族が大変、悲しんでおりましたが?」


泣き出すサエ、傍聴席の陽太と朱里も泣き出す。


「後先、考えず行動してしまったことに深く反省してます」


バッハはサエを睥睨し、ガベルを降ろす。


「被告は賽の河原で石積みの刑に処する。被告の赤ん坊は被告人はこの世界で転生、寿命は天寿を全うするまでまたは心臓は被告が石積みを止めるまでとする、開始はこの裁判が終わってから」


泣き出すサエ


ガベルが振り下ろされる。


傍聴席に居た陽太と朱里が消えて、証言台に現れた。




バッハが二人を一瞥する。


「避妊をしなかったことについてはどう思いますか?」


下を俯き、涙を流す、陽太と朱里


「興味があって、やってしまいました」


「高い代償が付きましたね」


泣き出す朱里、それに連れて陽太も泣き出す。


泣きながら顔を上げる陽太。


「僕が石積みをしますから、朱里は許してあげてください」


陽太を一瞥するバッハ


「何、言ってるんですか?」


目をみはり、バッハを見る陽太


「あなたは女性と赤ちゃんの子供の命を飛び込むことで奪ったんですよ


そんな軽い刑で済むわけないでしょう」


ガベルが鳴る。


「女性は賽の河原で石積みの刑に処する。被告の赤ん坊は被告人はこの世界で転生、寿命は天寿を全うするまでまたは心臓は被告が石積みを止めるまでとする、開始はこの裁判が終わってから」


陽太を睨むバッハ、軽蔑の光が宿っている。


「被告は物資の採掘を行なうこと。女性の命は被告の動きが止まったら、尽きることになる


開始はこの裁判が終わってから」


愕然とする陽太と朱里。




ガベルが振り下ろされる。


傍聴席に居た浩介が消えて、証言台に現れた。




浩介を睨みつけるバッハ


「貴方は困っている女性を見捨てたことについて、どう思います?」


ハハッと笑う浩介


「僕との仲を繋ぎとめるための嘘だと思ってました」


毅然とした顔で浩介を見るバッハ


「実際に亡くなったんですけど、どう思いましたか?」


含み笑いをする浩介


「まさか、本当になくなるとは思ってませんでした」


ざわめく、室内


「僕に連帯責任をさせようとしても無駄ですよ、僕はやりませんからね」


目を丸くして、浩介を見るバッハ


「貴方の刑罰は既に決まってますよ」


バッハの言葉に一瞬驚く浩介


「どんな刑なんですか?」


「刑というよりは褒美を差し上げます」


怪訝顔でバッハを見る浩介


「永遠の命を差し上げます」


ざわめく場内


ガベルが力強く振り落とされる。


「静粛に」


喜びを爆発させる浩介


「悪も突き詰めると褒美をもらえるんだ」


憐れみを込めた目で浩介を見るバッハ


「貴方は可哀そうな人ですね」


喜びから一転、バッハを睨みつける浩介


「どういう意味ですか?」


浩介を憐れみがこもった眼で見つめるバッハ


「人の痛みが分からない可哀そうな人ですね」


バッハを睨みつける浩介


「お前、俺を見下しただろ」


目を背けるバッハ


「これ以上、あなたの顔は見ていたくありまん」


ガベルが力強く振り落とされる。




世界が暗転する。




波の音で目を覚ます浩介、まぶしい太陽が網膜に焼き付き、目を閉じる


「ここは?」


携帯を開けて、時間を確認する。


サエと出会った日にちの朝、8時だった。


夢だったのかな?




Vineを見る浩介


そしたら、朱里と陽太の名前が消えていた。


「夢じゃなかったんだ」


この時間じゃ学校に行っても間に合わないな、サボるか


そんなことを考え、歩き出すと一台の黒い車が停車していた。


側面と後ろの窓にはカーフィルムが貼られていて、内部が見えないようになっていた。


小躍りする浩介


「永遠の命か、そしたら何でもし放題じゃないか」


車を通り過ぎた後


「ちょっと、いいかな?」


呼び止められて、振り返る浩介


「何だよ」


黒い服を着た男が立っていた。


「ここで何をしていたのかな?」


怪訝顔で男を見る浩介


ダルそうに欠伸をしながら


「あー、昼寝だよ」


「数か月前にここで人が飛び込みしたみたいなんだけど、それを調べててね」


「あー、その事ね」


「何か知ってるの?、理由は何かな」


「妊娠して、悩んでたいよ」


「ヘぇ」


「因みに相手は僕ですよ」


男の顔に笑いが浮かぶ。


「これから先は取材料金をいただきますよ」


男の口角が上がる。


「必要ないよ」


浩介の顔が間の抜けた顔になる。


「えっ」


ドスッという鈍い音がなり、浩介の腹は次第に熱を帯びて、痛みに変わった。


倒れこむ浩介


男は笑いながら、浩介を車に担ぎ込んだ。




暫く走行していたら車が停車した。




車から担ぎ出される浩介。




浩介は腹を押さえながら、呻き声を上げる。




男は笑いながら浩介を見た。


「すげぇ、まだ生きてる」


男は浩介の腹を蹴り、笑い声をあげた。


「若さって素晴らしい!!」


浩介は呻き声を上げながら、男を見上げた。


「何で、こんなことを」


男は優越感に浸りながら、浩介を見た。


「自殺した娘さんのお父さんから頼まれてね」


浩介は舌打ちをする。


(このままじゃ、死んでしまう、あっそうだ!!)


浩介は呻きながら


「手際が慣れてたけど、結構、同じことしてたんだろ」


男は笑いながら


「そうだよ」


「なあ、俺について、もっと楽しいことしない?」


男は眉を顰めた。


浩介の意識が霞始めた。


「実は俺、不死身なんだよ」


笑う男


「死ぬ前におかしくなっちゃたの?」


苦笑いする浩介


「いいや、本当だよ、それか暫くして待ってみたら?」


考える男


「僕と楽しいことしようぜ」


男は笑い、浩介も笑う。


「時間がないから駄目、もうすぐ人が来ちゃうから」


ポカンと口を開ける浩介


「えっ」


「君を隠して、証拠隠滅しなきゃいけないから」


「僕と楽しいことは?」


男は憐れんだ顔で浩介を見た。


浩介は眉を顰めた。


「可哀そうな人」


目をかッと開く浩介


「何だって?」


「僕と一緒で他人の不幸にしか喜びを見いだせない人なんだね」


「一緒にするんじゃねえ、俺の楽しみは、、、」


言葉を詰まらせる浩介。


(僕の今までの楽しみって、、、)


そこで口が動かなくなった。


男は浩介を無機質な顔で見つめた。


「不死身なんてあるわけないんだよ、そしたら、僕は喜びを見出すことはなかったんだから」


浩介を担ぎ上げて、機械の中に投げ入れた。


男は居なくなった。




暫くして、大勢の足音が鳴り、太い声で話し合っている男たちの集団が浩介に近づいてきた。


「早く始めるぞ」


「はい」


浩介は声を出そうと口を開けるが声帯が機能しなかった。


(早く、喋らないと)


何かしようとあがいているうちに浩介の上に砕石が落ちてきた。


「あっ」


工場の男達の一人が振り向く


「何か聞こえたような」


「おい、早くしろよ」


怒鳴り声に体を一瞬引き攣らせた。


(気のせいだよな)


砕石はその後、アスファルトと混ぜられ、高温で熱せられ、トラックで運ばれた


全身がアスファルトと一体化してしまった浩介。


(苦しい、何も見えない、何も聞こえないどうなってるんだ


まさか永遠の命って肉体がなくなっても、永遠に生き続けるってことじゃ)


浩介を絶望が襲う。


「嫌だ、誰か助けてよ」


暗闇で音もない世界の中、浩介の声は誰にも聞き取られることはなかった。




警察署では眼鏡をかけた刑事とその相棒が飯を食べている。


眼鏡をかけた刑事は相棒を眉を顰めながら、ご飯を食べている


相棒はそんな、しかめ面の刑事を見澄ました。


「どうしたんだよ、飯に何かあったのか?」


表情が和らぐ


「いいや、自殺の子の件を考えててな」


視線を落とす相棒。


「あの件な、最近の若い子は怖いな」


「評判を聞いてみたら、普通の成績で人付き合いも悪いわけでもなく、犯罪を犯すでもなく


普通の子だったな」


「ああ」


「俺たちが高校生の時は喧嘩はあったけどな、今回のは」


「そんなこと言ったら前の世代は俺たちの時代がって言いだすぜ」


「悪意が形を変えてやってきてるだけなのかもな」


「俺たちの仕事ってなんだろうな」


「さあな」


相棒が飯を食い終わる。そして、首を傾げる。


「今、俺達なんの話してたっけ」


眼鏡をかけた刑事が固く目を結んだ。


「何だっけな」




飲食店で店員が揚げ終わったポテトを箱に入れている。




「あの少年、一人で喋ってたけど、大丈夫か」


目を丸くする店員


「あれ、何考えてたんだっけ?」




賽の河原


石を積み続ける、サエと朱里。


採掘場では陽太が石を背負って歩いている。




モーツアルトがレクイエムを引き出した。






≪終≫

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恋人達の結末 郷新平 @goshimpei

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