第2話冴戸さん

教室で会話を楽しんでいる生徒の声が所処、聞こえてくる。




席に座ると陽太が声をかけてきた。




「おい」




陽太を見る浩介、陽太は恨みがましい目で浩介を見ていた




「どうだった?」




少し、イラッとした口調で


「お前、ふざけんなよ」




肩を竦める浩介




「おー怖」




チッと舌打ちをする陽太




ニヤリと笑う浩介




「あの後、どうなったんだよ」




照れ始める陽太




「結局、二人ともお互いに必要だということが分かって」




もじもじする陽太、そんな姿を見た浩介は軽い嫌悪感を覚えた




「キモイよ」




肩を落とす陽太、気を取り、先ほどの会話を続けようと浩介を睨む。




「全く、一時はどうなるかと思ったんだぜ」


「やりすぎたかな」


「そうだぜ」


「今度、何か奢るよ」


「朱里と二人分な」


「マジかよ」




チャイムが鳴り、戻ろうとしたら


陽太が一言




「あの冴戸さんに告白できるわけないだろ、俺じゃ釣り合わねえよ」


「冴戸さんっているのか?」


「名前もでたらめかよ、てか、冴戸さん知らないの?」


「えっ?」




担任が入り、号令がかかったので、話は終わった。




チャイムが鳴り、待ってましたとばかりに机に弁当を出す陽太。




浩介が陽太に体を向ける。




朝のことが気になってた浩介は尋ねてみた。




「そういえば、朝言ってた冴戸さんてどんな人だ?」




目を丸くする陽太




「マジで知らないのか?」




浩介は若干イラッとしつつも聞いてみることにした。




「ああ」


「吹奏楽部で、その上、可愛いときてる冴戸さんを?」


「マジかよ、10年に一人とどっちが上?」


「そりゃあ、冴戸さんだろ、てか、もう何人も振られてるらしいぜ」


「マジかよ」




終わりのチャイムが鳴る。




鞄を持って、教室を出る、陽太と浩介




校内放送が


テスト期間中だから、帰って勉強するようにと促している。




携帯を見る陽太、浩介が陽太を見る。




「悪い、今日は帰らなきゃ」


「そうか、じゃあな」




消波ブロックに打ち付けられる波、潮の流れに漂う海藻。


波の音がシューッと鳴り、塩辛い海辺の空気




その光景を横に浩介は自転車をシャーッという快音を鳴らしながら漕いでいた。


暫く、走っていると後ろから陽太が急いで自転車を漕いできた。




「待ってくれよ」


「どうしたんだよ」


「やっぱり、用事はなくなった」


「ふーん」


「いつもの所、行こうぜ」


「おう」




浩介が先に行き、その後を追う陽太、


波の音がシューッと鳴り、口角を釣り上げて笑う陽太


陽太が走った後の道路に轍ができた。陽太の自転車は濡れていた。




いつもの通いつけの飲食店に行く浩介と陽太




レジで注文をする




店員はメニューを差し出すが浩介は目を通さず




「ハンバーガーセットを下さい」




陽太、浩介の肩を叩き、ニヤリと笑う。




「俺も同じの」




怪訝な顔をする浩介




陽太は呆れた顔をする


「奢ってくれる約束だろ」




はっとしたように上を見る浩介




「そうだったな」




「ハンバーガーセットをもう一つ」




店員はそんな様子をじっと見つめていたがニコッと笑い




「商品が出来上がりましたら、席までお持ちしますね」




4人掛けの席に座る陽太と浩介


陽太は朱里の自慢話を始め、またかと思った浩介はあることを思いついた。




「なあ、例の件って嘘だろ」




えっと驚いた顔をする陽太




「大変申し訳ございません」




声をかけられて、横を見ると店員が眉に皴を寄せ、笑いながら立っていた。




「ただいま、ポテトを調理中ですので提供差し上げるまでに暫く時間お時間をいただいてしまうのですが、よろしいでしょうか?」




陽太、眉間に皴を寄せる。




そんな様子を見た浩介は仕方がない奴だと思ったが、一応聞いてみることにした




「一人分はできますか?」




店員は動揺して




「えっ?」




陽太を軽く、睨みつける。




「ですよね」




浩介、呆れた顔で陽太を見る




「ちょっと、待ってろよ」




顔が引き攣る店員




揚げ物用の鍋がピーっとなり、店員は笑顔を作り直す。




「少々お待ちください」




そそくさと立ち去る店員




「何言いだすんだよ、店員さん困ってただろ」




目をパチクリさせる陽太、全くしょうがない奴だと思いながら、


さっきの会話を続けることにした。




「冴戸さんって、吹奏楽の知り合いからは聞いてないぞ」




陽太、目を丸くする。


困っている陽太を楽しそうに眺めている浩介、


どう切り返すのか陽太の反応を見ている二人の横に人が立った。




「お待たせ~」




びくっとする浩介と陽太


そこには学生服姿の朱里が立っていた。




「何~酷くない?」




そこには笑いながら二人の様子を眺めている朱里の姿があった。




尿意を感じる浩介、トイレに行こうか迷ったが陽太を追い詰めたことを確信した浩介はこれがすんでからと思い、耐えることにした。ニヤッと笑う、浩介その様子を見て、顔を引き攣らせる陽太と朱里




「浩介、気持ち悪いんですけど」




無理にまじめな顔に戻した浩介




「朱里って、冴戸さんって知ってる?」




目を丸くする朱里




「え」




浩介、ハハッと笑う




(居るわけないよな、陽太はどんな反応するんだろ?)




「冴戸さん、知らないの?」




浩介は目を丸くする




「えっ?」




居るはずない存在だと思っていたものを肯定された浩介




(嘘だろ)




「男子の間では有名だよ」




動揺する浩介




「そうなんだ」




店員がハンバーガーセットを二つ持ってくる。




「お待たせしました」




何かを思い出したように口を開ける朱里




「そういえば、奢ってもらえるんだよね」




陽太を恨みがましく見る浩介




「もう、報告したのかよ」




へへっと笑う陽太




陽太を眉を顰め見る浩介




「何がいいの?」


「同じの」


「ハンバーガーセットね」


「うん」


「ちょっと買ってくるわ」




先ほどの店員が笑顔でレジに立っている。




「ハンバーガーセットを一つ」




変なものを見るように笑顔を引き攣らせるで店員


「えっ」




店員の対応にイラッとした浩介は、早くこの場を去ろうと思い




「連れが待ってるんで、早くお願いします」




慌てて、準備をする店員、会計が終わった後、足早に席に戻った。




陽太が朱里の横に座り、イチャイチャとしている。




テーブルにはハンバーガーセットが手を付けずに放置されていた。




急かしてでも、ポテトを催促していた陽太を浩介は不審に思いながら


「なんだ、食べないのかよ」




目で申し訳なさそうに合図する陽太、朱里が会話を止めて、浩介に向き直った。




「浩介、本当に佐伯さん知らないの?」




浩介は戸惑いながら、頷いた。




「誰だよ?」


「学校が終わったら、音楽室からピアノの音が鳴ってるのは知ってる?」




浩介はそんな音してたか、考えていると朱里が驚いた顔をしているので


カチンときた浩介は




「そういえば、聞こえてたな」




胸に手を当てる朱里




「よかった~流石に知ってて」




ハハッと苦笑いする浩介




(全然、聞こえなかったんだけど)




尿意を我慢していたので小刻みに震える浩介、そんな浩介の様子に気づいた陽太




「大丈夫か?」


「ちょっとトイレに行ってくる」




席を立つ浩介




用を足してから、席に戻ったら




陽太と朱里の姿は無く、ハンバーガーセットを持った店員の姿があった。


携帯の着信が鳴り、Vineに着信があったので確認してみると朱里に急な用事ができたから、


付いていくために帰るというメッセージがついていた。


残されたハンバーガーセットを見る浩介、店員からトレーを受け取り、黙々と食べ続けた。

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