第11射 3人の美少女、そのろく


「……」


「えっと、どう……ですか? や、やはり私達だけで戦うことになりそう……ってあの、話聞いてます?」


「……」


 求められた答えが見出せず、未だ口を開けずにいると、不安と焦燥に耐えかねたアーネちゃんが再び意見を求めてきた……が、今の俺には何も言えるはずもなく、ただ口を噤むことしかできずにいた。

 そんな時、このなんとも心苦しい状況を更に追い込むかの如く、例の魔物の迫りくる足音が。幾ら歩みが遅めとはいえ、今の俺達には死刑宣告を迫られているように感じられて……



「ーー!! ハっ、ハラさん! 魔物がすぐそこまでーー」


「ーー俺が行くよ」


「あっ、漸く喋った! って、えっ!? 1人でですか!? そ、そんな……1人では無理です! 勝てるはずない! それなら私もーー」


「ーー勝てる!! 1人でも勝てるさ……だって、俺にはアレがあるから……」


「アレ……? あの、アレとは……あっ……」


 アーネちゃんの言葉を待たずして、魔物の元へと歩き出す俺。ただ真っ直ぐに魔物を見据えながら。

 本音はチビりそうなくらい怖いけど、そんなカッコ悪いとこ彼女には見せられねぇからな。

 そう強がりつつも、魔物への恐怖を断つかのように、左手に持った剣を1度だけ振るう。そして……



「やっぱデケェな……3メートルくらいか……?」


「グガァァァッ!!」


「げっ、ヤる気マンマンじゃん……」


 ……間もなくして、俺と魔物は相対することとなった。

 魔物の全身を隈なく見ると、まるで鎧のような筋肉を纏ってるのが一目で分かる。しかし、それでも怯まず戦うことに。


「さてと、初っ端から仕掛けてみるか……」


 魔物の体躯では素早い動きに対応できないとみて、ハナからスタートダッシュをかまして接近し、武器を持つ手とは逆サイドにダッキングしながら回り込む。

 案の定、素早い動きによって左脇腹に隙ができ、透かさず「ここだ!」と剣を逆袈裟に振ってヒットさせる。

 魔物の身体に刃が触れた瞬間「よしっ!」と心の中でガッツポーズをしたが、それは誤りだったとすぐに気づく。


「……なっ!? う、嘘だろ……刃が通らない!?」


 魔物の分厚い皮膚は傷痕すら許さず、まるで何事もなかったかのよう。

 てっきり余裕の笑みを浮かべてるかと思ったけど、相変わらず無表情のままだ。


「こ、この野郎……なんもなかったってツラしやがって……!」


 驕りや慢心のない表情を見て、向かっ腹を立てると同時に、得も言われぬ不気味さを感じたわ。

 でも「そんなの関係ねぇ!」っつう気概で、とにかく斬って斬って斬り捲った。なんとしてもあの能面ヅラを崩したくてさ……って、全然斬れねぇし!

 で、斬るのに集中しすぎて隙だらけになったのか、気づけば大剣が振り下ろされててーー


「ーー危なっ!? ぐっ! う、うおぉぉぉっ!! なっ、なんちゅう重てぇ攻撃……!」


 間一髪のとこでどうにか剣で受けられたけど、マジで攻撃が重すぎて、パリィどころか微塵も動けねぇでやんの。しかも、既に手足が痺れて悲鳴まで上げてやがるし。

 てかさ、こんな重攻撃ヘビーアタックをよく防げたなって思うよ。俺自身を褒めてやりたい気分。だけど、そんな悠長なことしてらんないみたい……もうさ、手足が悲鳴上げすぎて限界が……



「……あ、もう無理……このままじゃ真っ二つ待ったなしだ……」


 遂に限界を迎え、感覚を失った俺の手足。正座して痺れたとかそんな次元じゃない。ただ、それでも少しは耐えたんだ……けど、どうやらここまでらしい。


「くそっ、もうちょっとやれると思ってたんだけどなぁ、今の俺でも……って、マジもう無理っ! 早くアレをやんねぇと!」


 限界を迎えても、残りのチカラを振り絞って大声でアレを発動させる。


解放リリースっ!!」


 その直後、そこに俺の姿はなく、少し離れた場所まで瞬時に移動していた……いや、移動したんだ。俺自身の足で。

 これには本人である俺も驚いたけど、すぐに魔物の方がより驚いてるって分かった途端、なんだか嬉しくなって「ははっ、やっと能面ヅラが崩れた! ざまぁ!」って小馬鹿にしてやったよ。

 んで、これで勝機が見えんじゃね? って思ったら、本当に『超感覚』が勝機を視せてくれたんだ。


「……!! キっ、キタァァァァァーッ!! それに手足もマシになってきたし! くくくっ、これはもう勝ち確だな!」


 テンションが上がりすぎた結果、声を上げての勝利宣言。けどこれは、決して嘘やハッタリなんかじゃない。なんせ、勝利へのビジョンが視えたんだからな!

 つーわけで早速、右足を後ろに退き、前傾姿勢となり、地面を踏み締め、剣を持ち手とは逆の腰に据える。要は、エア居合いの構えを取ったってわけ。


「……おろ? この構えってなんか、必殺技っぽくね?」


 辺りが静寂に包まれるなか、真面目な顔して不真面目なことをぬかし、続けて「まぁいいや、勝てんならなんでも」と小さく呟き、地面を蹴って反撃に出た。


「うおっ!? 速すぎだろこれっ!?」


 距離があったにも拘らず、あまりの速さに身体の制御が追いつかずに魔物を通り過ぎてしまう。脳内で視た動きと実際の動きとの誤差がありすぎるからだ。

 しかし、次に地面を蹴った瞬間、魔物の身体には斬撃による傷と出血が。


「すっげぇ! これが『超適応』のチカラか! もう速さに慣れちまった!」


 驚き燥ぐ俺。すると、今まで傷一つ負うことのなかった魔物は怒り、そして怒号を上げる。


「グガァァァァァーッ!!」


「うっせぇ! てかもうテメェの負けだ! 黙ってくたばれ!」


 魔物の怒号にも怯むことなく超高速移動を続け、地面を蹴る度に奴の身体に斬撃を与えていく。

 やっぱ速さは重さだな。こんだけ速いスピードなら絶対に斬れると思ったんだ。まぁ、唯一不安があるとすれば、倒すまでに武器が保つかってことと俺の身体も保つかってことなんだけど……あ、唯一じゃなかったわ……

 てなことを考えてたら、急に魔物が武器を振り回して暴れ出した。つまり、ブチギレたってこと。

 でもさ、こん時は流石にちょっとだけヒヤッとしたけど、蓋を開けてみても勝敗の結果は変わらなかったみたいで……ーー




「ーーこれでラストだぁぁぁぁぁーっ!!」


「ブッ、ブガァァァァァーッ……ーー」



 ーー目にも留まらぬ速さで魔物を討伐。剣も俺もどうにか保ってよかった。

 その後、魔物の断末魔が響き終えると、全身の力が抜けるほどの安堵と共に何か決め台詞を言わねばという衝動に駆られてしまい、咄嗟にあのキメ台詞を吐く。


「ふっ、つまらぬモノまで斬ってしまった……」


 ……って、あれ? なんか違くない? これじゃ、余計な何かまで斬ったことになるのでは……? って考えてたら、遠くから聞き覚えのある3人の声が飛んでくる。


「……う、うそ……あれってまさか……」


「うふふぅ、目が腐りそうですねぇ」


「アンタ、本当につまらないモノ斬ったわね……」


 3人の方を振り向くと、いつの間にか元気になってる2人の姿が。その元気そうな姿を見れて嬉しい反面、ドン引きしてる表情に「なんで?」ってなった。

 そんなんまるで、俺がなんかやらかしたっぽく見えるんだけど……つーか、3人して何見てんだ……?

 そう疑問を感じながら、ふと3人の視線の先に目を向けると……


「……!? はぁぁぁぁぁっ!? なっ、なんでこんなモノが落ちてんの!?」


 この時、俺が目にしたモノ……それはなんと、ゴブリン王のナニであった。緑色でゴツゴツした、ほぼ根元からのご立派なやつ。どうやら調子に乗りすぎて、大事なモノまで斬り落としてしまったらしい。


「こ、これは確かにドン引き案件だわ……なんかごめん……」


 同じオスである魔物には同情するよ……と言っても、斬り落としちゃったの俺なんだけどね。

 そういや、コレもアイテム扱いになるんかな? 例えば、オークの睾丸みたいに精力剤の素材になるとかさ。

 なーんて、ついラノベ思考でいたら、いきなり猛ダッシュでこっちに向かってくるアーネちゃん。


「ま、まさか、俺を心配して……?」


 勝つ自信があった俺とは裏腹に、勝てると思わなかった彼女はきっと気が気じゃなかったはず……あっ! もしや、その時に俺への恋心に気づいて……

 そう考えたら急にアーネちゃんが愛おしくなって、気づけば両腕を広げてハグ待ちしてたよ。


「ハラさん!」


「アーネちゃん!」


 ……んん? 名前を呼んでも拒否られない? えっ? これマジでイケんじゃね? っていう、調子の良い想像してたんだけど……


「邪魔です! どいてください!」


「へ……?」


 邪魔者扱いされて唖然とする俺を余所に、アーネちゃんはその勢いのまま、俺の足元に落ちてるご立派なナニを拾い上げる。


「すっ、凄い! ゴブリン王のぺ○スなんて生まれて初めて見たわ! 凄すぎてもう興奮しちゃう!」


 フスフスと鼻息を荒げながら魔物のナニを眺めるアーネちゃんのすぐ隣では、彼女の行動を見て我に返ったと同時に引いてる俺がいた。

 そんななか、ふと彼女の言葉を思い出すと、ある2つの疑問が浮上する。それは……


「……ん? ゴブリン王? ゴブリンキングじゃなくて? つーか、そんないきなり遭遇するもんなの? コイツって……?」


 ……である。それらの疑問は全て、大好物の2次元から得た知識がベースだ。ただまぁ、魔物の名前からしても、転生初日に遭うような輩じゃないけどな。

 でさ、それらの疑問をアーネちゃん……じゃなくて、いつの間にかすぐ後ろにいたペコラちゃんが答えてくれたんだよね。


「ゴブリンキング? そんな魔物いないわよ? ゴブリン王はゴブリン王、それ以上でもそれ以下でもないわ。あとね、本来ならこんな初級ダンジョンに現れるような魔物じゃないはずなんだ……け、ど……」


 ……ふーん、なるほどねぇ。ゴブリンキングをゴブリン王って呼ぶのがこの世界じゃ常識で、普通ならこんなとこにゃ現れないってことだな。よし覚えた! 次からはちゃんとゴブリン王って呼ぼう!


「あっ、教えてくれてサンキュ……って、あれ? ペコラちゃん? なんか様子が変だ……それに2人も……一体どこ見て……なっ!?」


 ペコラちゃんのみならず、アーネちゃん、キュピィちゃんまでもが茫然とし、皆何故か空間の奥を見据えたまま。釣られて俺も見てみると、そこには1匹の魔物が佇んでいた。


「う、嘘だろ……なんで第一ステージに裏ボスなんかがいんだよ……こ、こんなん鬼畜ゲーすぎんだろ……」


 その場に佇む魔物を見て、一瞬で理解させられる。さっき討伐したゴブリン王よりも確実に強キャラだってことが。

 この事実は俺だけじゃなく彼女達も気づいてる様子で、完全に茫然自失と化していた。けど、それでも……


「アイツは一体、何ゴブリンなんだ……?」


 こんな時に、こんなことを口走る俺であった……

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