第12射 3人の美少女、そのなな


「あの魔物はぁ、ゴブリン勇者ですねぇ……」


「ゴブリン勇者……はぁ、絶対ヤバいやつじゃん……って! キュっ、キュピィちゃん!?」


「は〜い、どうにか復活しましたぁ」


 茫然自失のキュピィちゃんだったけど、どうやら自力で我に返ったみたい。もしや、暗殺者スキル?

 でもそうなると、当然2人の様子も気になるわけで……うん、まだちょっと無理そう。

 こうなったら、俺とキュピィちゃんの2人だけでゴブリン勇者と戦って勝つしかないな。といっても、こっちは既に満身創痍なんだけどね……


「あのさ……疲れてるとこ悪いんだけど、あのスキルってまだ使える?」


「あのスキルぅ、ですかぁ……? あぁ〜『遊幻闘舞』のことですねぇ? 残念ですがアレは無理ですぅ

。1度使うと次は3日後になりますからぁ」


「えっ、マジで!? そんな待つの!? そりゃ確かに『とっておき』だわ……って、呑気に話してる場合じゃねぇだろ俺っ!」


「うふふぅ、ハラさんって面白い人なんですねぇ。最低なクソ野郎ですけどぉ」


「ぐばはっ!」


 未だに俺の評価は地に落ちてるようだ……けど、そんな底辺の俺がアイツを倒したら、きっとみんなからの評価は鰻登りのはず。

 そう考えた途端、満身創痍の身体に鞭打って歩き出してた。ははっ、なんか俺ってば単純だったみたい。


「まぁ、今んとこ新魔法の反動はきてないし、やれるだけやってみっか!」


 やる気に比例して足取りが軽くなる。それは多分、ゴブリン王にソロで勝てたことが自信に繋がっているからだろう。

 てなわけで、ゴブリン王戦と同様、ただ真っ直ぐにゴブリン勇者を見据えながら歩を進めていくと、俺を見てたアイツも徐ろに歩き出した。


 ……その後、あと少しで相対する手前、奴が右手に持つ武器につい目が向く。何故か無性に気になったのだ。

 その武器とは、前世でよく武器妄想でお世話になったあの片刃でスリムなやつ……そう『刀』である。

 でも、そんなレア武器を奴は一体どこで……? と、当然の疑問が浮上。すると、突然神様から悪い知らせが届く。


「……ろぐいん……ぼおなす……」


 ……は? ログインボーナス? あの刀が? ……はぁぁぁっ!? ざっけんなジジイィィィッ!! あんな通路脇なんかに用意すっからこうなったんだろうが! 取られて当然なんじゃボケェェェッ!! はぁはぁ……と、取り敢えず、奴を倒して刀を取り返さなきゃな……


「……たのむ……」


 ……ちっ、そんなしおらしく頼まれたらなんも言えねぇじゃん。まっ、たとえ頼まれなくても取り返すのは決定事項なんだけどな。

 とまぁ、イイ感じで収まったとこで、裏ボスのゴブリン勇者と相対することとなった。



「よう、勇者様」


「……」


「無視かよ……これじゃあ、俺が悪者みたいじゃねぇか」


「……」


 無言のまま俺を見据えるゴブリン勇者に対し、何を考えてるのか全く読めねぇ……って思ってたら、奴の内面に潜む、冷たく突き刺すような殺意を『超感覚』が知らせてくれた。

 その事実を知って、正直逃げ出したいくらいビビってるけど、あのゴブリン王を前にしてチビらなかったし、今回もきっと大丈夫なはず。そう思ってどうにか耐えてる状態だ。


「ふぅ、初っ端はどうするか……」


 ゴブリン王に仕掛けたように速攻で行くか、相手の様子を窺って隙を突くかで迷ってる。ただ、相対して分かったが、どっちを選んでも無駄な気しかしない。てか、そもそも勝てる気がしない。というか、ただただ怖い。

 でもさ、やらなきゃやられるだけなんだし、やれるだけやってみようと思う。だって、俺は男なんだから……



「……よしっ、決めた! 当たって砕けろだ!」


 小細工なしの真正面から最速最短で接近し、中段の構えから最遅最小の動作でバレないように突きを繰り出す。

 剣術素人の俺が無い知恵を絞って編み出した、まさに虚を突く突きだ。これが通用すれば少しは勝ち目も出るのでは? そう考えていたのだが……



「……なっ!? 軽くいなされた!?」


 難なく刀でいなされてしまった。それも、表情を全く変えることなく俺を見据えたまま。

 その直後、流れるような動きで奴が刀を横に振ると、赤色の衝撃波が発生し、咄嗟に剣で受けたら後ろに吹き飛ばされ、それをキュピィちゃんが受け止めてくれた……けど、威力が強すぎて2人とも吹き飛ばされたんだ。

 で、尻餅をついた俺に、キュピィちゃんがある策を耳打ちしてきたよ。奴には悟られないようにって。

 さっきの衝撃波で両手が痺れてるのも悟られないよう装いつつ、俺はすぐさま立ち上がって速攻で駆け出す。

 初っ端と同様の動きで真正面から奴に接近し、突きと見せかけて剣を振り上げてからの素早い袈裟斬り。


「ーーッ!?」


 急に変化する俺の攻撃に、ゴブリン勇者は小さく驚く。しかし、この攻撃は綺麗に空振りする。というよりも、わざと奴の手前で空振りしてみせた。

 その瞬間、頭1つ分だけ右側に流れた俺の頭のすぐ左側を通過し、見事にゴブリン勇者の顔面を捉えた1本の小型ナイフ。

 だが、それだけじゃ終わらせない。今こそ好機とばかりに、透かさず横一文字に剣を振るう。


「もらったぁぁぁぁぁーっ!!」


 これはイケる! そう思いながら渾身の一撃を繰り出した……が、その一撃はいとも簡単に防がれてしまう。それも刀ではなく、生身の片腕で。


「……は? そんな細腕で……?」


「ーーーーッ!! ーーーーッ!!」


 現状を理解できずに唖然とする俺。まさかあんな細腕に渾身の一撃を防がれるなんて……

 奴との実力差にショックを受け、完全に足と思考を止めてしまい、更には後ろから叫ぶ声すらも耳に入らず……ーー




「ーー避けてってばぁぁぁーっ!!」


「……!! えっ?」


 漸く耳に入ってきたペコラちゃんの大声に「ハッ!」と我に返り、咄嗟にゴブリン勇者に目を向けると、小型ナイフを歯で受け止めてる奴の顔と共に、その振り上げた刀が瞳に映る。


「あ、死んだわ俺……」


 不思議と死を受け入れられ、抵抗の意志も湧いてはこない。それは、奴に勝つのを諦めたのもあるが、何よりも奴自身を憎めないからだ。

 その理由は至って簡単。奴からすれば、勝手に家の中に侵入され、武器を奪われ、そして大勢の仲間を殺されたのだから。そうなると、俺達は恨まれて当然だし殺されても文句は言えないだろ? ってわけ。そりゃ憎むも何もないよな……だって、100パー俺達が悪いんだからさ……


「……神様、すまねぇ……」


 そう呟いた後、静かに瞳を閉じた。

 続けて「せめて痛みは控えめで……」って心の中で呟いた……でも、いつまで経っても斬られる様子がねぇ。

 ……あれ? おかしいな……? と思って瞳を開けると、何故かゴブリン勇者が右腕を抑えて距離を取ってんだ。そんで、状況が分からずキョトンとしてたら、突然左側から水鉄砲が幾つも飛んできたよ。それも、すっげぇスピードでさ。


「いぃっ!? な、なんなんだ今のは……!?」


 急な展開に驚きながらも左側を振り向くと、そこにはバスケットボールほどの大きさで綺麗な水色の可愛らしい『スライム』がいた。

 えっ!? な、なんでこんなとこにスライムが!? って更に驚いた途端、突如として遠距離攻撃の応酬が勃発。

 例のスライムは水鉄砲を連射し、対するゴブリン勇者は衝撃波を乱発しての撃ち合いで、互いに攻撃を紙一重で躱しつつ攻撃の手も休めないって感じの激しいやつ。

 でさ、ついアツくなって「スライムやったれ!」って応援したら、いきなりゴブリン勇者が俺に向けて衝撃波を撃ってきやがって、慌てて剣で受けたらまた吹き飛ばされて今度は地面を転がったよ。

 そしたら丁度、みんなが集まったとこに行き着いたから「た、ただいま?」って仰向けで挨拶したら、急に視界が真っ暗になったんだ。しかも、唇に柔らかい感触を残して。

 放心状態になった俺だけど、視界が戻るとすぐに正気も戻った。だって……



「ペコラちゃん……」


「バカ、こっち見ないでよ……でも、生きててよかった……」


 大粒の涙を零す彼女を見て、胸が痛むほど愛おしく感じたんだ。そりゃ正気も戻るよな。

 てか、事情はどうであれキスしてくるなんて、もしかしてペコラちゃんも俺のこと……

 なーんて、TPOを弁えずに胸ドキしてたら、いきなりアーネちゃんの悲痛な叫びが響く。


「きゃぁぁぁぁぁーっ!! スライムさぁぁぁーん!!」


 その叫び声に反応して咄嗟に起き上がる俺。何故なら、スライムが倒されたら次に狙われるのは俺達だからだ。みんなもそれを理解してるようで、さっきまでのロマンスムードは既に消えている。

 因みに、当のスライムは衝撃波が直撃したらしく、壁に激突して「ビチャッ!」って潰れてたよ……



「こうなったらぁ、みんなでヤるしかないですねぇ……」


「そ、そうね……やるしかないわね……」


「そうですね……」


「だな……」


 ……と、窮地の中でやる気を搾り出すと、ペコラちゃんが先制して火魔法を放つ。


「お願い! 当たって!」


 長杖を翳して火球を連発。ゴブリン勇者に向かって次々と飛んでいく……が、全て躱されたうえに反撃で衝撃波を撃たれてしまう。


「俺が止める!」


 即座に前へ出て剣で受けると、三度吹き飛ばされ……はせず、どうにか踏み留まれた。それは、3人の美少女が俺の背中を支えてくれたからだ。

 しかし、ホッとしたのも束の間、突然「ビキビキパリンッ!」と根元まで砕け散る片手剣ショートソード


「うっそ!? 剣が砕けた!?」


 武器を失ってマジで焦ってたら、狙ったかのように次の衝撃波が俺達に襲い掛かる。

 こうなりゃ俺の身体を盾にしてみんなを守るしかねぇ! って、腕をクロスさせて防御体勢を取った。するとその時……



「今度は私が! この超反発枕で!」


 俺より前へ出て、両手に持った純白の枕を突き出すアーネちゃん。

 それにより、その枕に衝撃波がぶつかって2つの間で鬩ぎ合いが始まると、俺達3人でアーネちゃんの背中を支えて耐えることに。


 ……少しの間鬩ぎ合った後、2つのチカラが相殺して同時に破裂。その場にいる全員があまりにも響く破裂音に驚き、更には身体を硬直させて動けなくなる。無論、ゴブリン勇者も含めて。

 だが、そんな状況でもたった1人だけ動ける者がいた……それは俺だ。奴にバレないようこっそりと壁際へと近づき、壁に向けて魔法を放つ。


「お前だけが頼りなんだ……頼む! 復活してくれ!」


 壁に向けて放った魔法は実は壁にではなく、スライムに向けられたものであり、その魔法も高位の回復魔法のため、見事に回復したスライムは元のプルプルした姿に戻ることができた。そして……


「よっしゃぁぁぁーっ!! 勝負はまだ終わってねぇ!!」


 勝負はまだこれからだと言わんばかりに吼える俺であった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る