第10射 3人の美少女、そのご


「くっそぉぉぉっ!! くんなって言ったのにぃぃぃーっ!!」


「「グゲッグゲッグゲッ……」」


 汚い笑い声を上げながら、俺のとこにだけ群がってくるゴブリン共。要は、それくらい俺をナメてるってことだ。他の3人は俺でも襲いたくなるほどの美少女なのに、何故か俺だけ標的にされて……げ、解せぬ。

 でも同時に、標的にされたのが俺でよかったとも思ってる。何故なら、俺が狙われることであの美少女達が傷つかずに済むのだから……



「ーーってことは、やっぱやるしかねぇってことじゃねぇか! うおぉぉぉっ!! どんとこいやぁぁぁーっ!!」


「うるさい!」


「暑苦しいです!」


「……チッ……」


「ぐはぁっ!」


 くっ、効いたぜ……まさか味方から口撃されるとはな……しかもキュピィちゃんってば、敢えて舌打ちすることで普段とのギャップ差を利用して大ダメージを与えてくるなんてさ……へへっ……

 そんなしょうもないことでダメージを喰らいつつも、ゴブリン数匹を相手に立ち回る俺。思った以上に動けてることに俺自身も驚いてる。とはいえ、それでも徐々に身体は傷ついてるわけで……



「ぐあっ、いってぇ! 今ザクッていった! サクッじゃなくてザクッて! ふっざけんな! お婿に行けなくなんだろうが!」


「「グゲッ?」」


「グゲッ? じゃねぇよ! テメェら、覚悟はできて……ん? あれ……?」


 おっかしいなぁ……いつもならここで美少女達の野次やツッコミが入るはずなのに、今回は誰も入れてこないぞ? もしや、なんかあったのか……?

 そう思ったら居ても立っても居られず、立ち回りながらも周囲を見渡す。すると、ペコラちゃんとキュピィちゃんが力なく項垂れていることに気づく。

 ま、まさか、魔力切れ!? いや、体力の方か!? 焦りと共に心拍数も上がっていく。

 だが幸いにも、ゴブリン共は距離を取って警戒してる様子。恐らく、状態異常『ビビリ』が継続されてるからだろう……が、それも長くは続かないはず。いかに低脳なゴブリンでも、今が好機であることに気づかないわけがないんだ。

 このままじゃヤバいと感じ、ゴブリン共が気づく前に2人に呼び掛けようしたその時、俺以外の声が洞窟内に響き渡る。


「グガァァァァァーッ!!」


「うわっ!? なっ、なんだよ今の怒号は!?」


 声のした方を振り向くと、そこには奥で目を光らせてたあの強キャラ感漂う魔物の姿が。

 互いの距離が離れてるから全貌までは視認できてないが、少なくとも俺よりデカいのは分かる。縦も横も。

 だけど、問題はそこじゃない。さっきの怒号を聞いたゴブリン共が、突然血相を変えて一斉に襲い掛かってきたんだ。勿論、あの2人の方にね。

 更には全滅を避けるためなのか、2人の前方180度に散開してから攻め込むなんて戦略を取る始末。

 まさか、あの低脳なゴブリンにそこまでの知恵があるなんて……

 そんな信じられぬ光景を目にした俺の脳裏には、ゴブリン共に嬲られてる2人の姿が不意に浮かぶ。するとその瞬間、顔を歪めて無我夢中で叫んでいた。


「やっ、やめろぉぉぉぉぉーっ!!」



 ……俺の悲痛な叫びも虚しく、ゴブリン共の勢いは止まらない。寧ろ、嘲笑うかの如く勢いづいていく。しかし、それでも2人は微動だにもせずに項垂れたままだ。そして、とうとうゴブリン共の凶刃が2人のことを捉えて……ーー




「ーーうっ!? な、なんだこのプレッシャーは……!?」


 ゴブリン共の凶刃が届く寸前、前触れもなく2人を中心に謎の圧力波が放たれる。

 その圧力波をまともに浴びたゴブリン共は、漏れなく後方へと吹き飛ばされていった。

 一体何が起きている? 2人はどうなったんだ? そんな疑問が脳内を駆け巡っていると、神様が静かに口を開く。


「……とらんぷ……すきる……」


 ……トランプスキル? トランプって、カードの? ……あっ! もしかしてそれって、切り札的な意味か!? ゲームでいう『とっておき』みたいなやつ!


「……そのとおり……せかいの……ちょうあいを……うけしもの……」


 ……世界の寵愛を受けし者? 称号か何かか? つまり、それがあると『トランプスキル』が使えるようになる……?

 つーか、世界に意思なんかあるわけねぇだろ? ……ったく、馬鹿馬鹿しいにもほどがあるっての。


【……ありますよ……それから……ばかでは……ありません……】


 ……えぇっ!? クールビューティー!? えっ!? えっ!? 世界の意思ってアンタなの!?


【……そうです……それから……クールビューティー……よびな……でしょうか……】


 ……そ、そうなんだ……クールビューティーが世界の意思……けどそれって、この異世界が彼女自身ってこと? それとも何か別のーー


【ーークールビューティー……よびな……ですか……】


 ……げっ、なんか怒ってらっしゃる? クールビューティーについて説明しなかったからか? なんか面倒な人だなぁ……ん? 人ではない……のか? ならなんてーー


【ーークールーー】


 ーー分かった! 分かったから! はぁ、クールビューティーってのはさ、知的で落ち着きのある素敵な女性のことを指すから別に呼び名とかじゃないよ! ……って、なんかどっと疲れた……あ、頭痛が……


「……きのせいじゃ……」


【……こだまですね……】


 ……う、うっさいわ! 確かに頭痛は気のせいだけど……って、木霊っ!? 木の精ってこと!? 上手いこと言ってんじゃねぇ! ……っと、今はこんなくだらねぇやり取りしてる場合じゃなかった! あの後2人はどうなったんだ!?

 神様とクールビューティーを放置し、急いで2人に目を向けると、タイミング良く2人が『とっておき』を使うとこだった。



「「世界の寵愛を受けし者として、世界の害悪を討ち果たさん!!」」


 2人が呪文のような台詞を唱えてすぐ、謎の圧力波は鳴りを潜め、代わりに2人の周囲に高密度のエネルギーが集まり出す。

 その高密度のエネルギーは不可視だが、視界が歪むほど濃密で重厚。上手く言えないけど、とにかく物凄い感じ。

 そんな物凄い感じがピークに達した時、2人は同時に『とっておき』を発動。


永遠とわに燃やせ! 紅蓮ぐれん不治矢ふじやっ!」


「踊りますよぉ! 遊幻闘舞ゆうげんとうぶぅ!」


 長杖を高々と天に翳すペコラちゃん。すると周囲には赤黒く怪しい光を放つ火矢が次々と出現し、寸刻で50本近くまで増やすと、透かさずゴブリン共に向けて長杖を振る。その直後、約50本の火矢は一斉に飛んでいき、およそ半数のゴブリンが火達磨と化す。


「「グッ、グゲェェェェェーッ……グ……ゲ……」」


 紅蓮の炎は今もなお燃え続け、それはゴブリン共が朽ち果てた後でも変わることはない。

 2次元知識だけど、多分この炎は消えないやつ。だって、黒炎が混じってるから。

 それに『超感覚』が「この炎には絶対に触れてはいけない」って警鐘を鳴らしてるんだ、煩いくらいにね。



「「グゲェェェーッ!?」」


「ーー!? 今度はなんだってんだ!?」


 燃え続ける炎に魅入ってたら、今度は別のゴブリンが叫び声を上げ出した。

 何事かと振り向くと、そこには質量を得た残像を纏いながら、次から次へとゴブリン共を斬り捨てていくキュピィちゃんの姿が瞳に映る。

 彼女は鬼神の如く勢いで斬り捲り、気づけば残り半数はいたはずのゴブリンがたった3匹に。


「三匹のゴブリン……」


 ……で、何よりも驚かされたのが、あの質量を得た残像の存在だ。あまりにもリアルすぎて、本人と区別ができなかったほど。

 しかも残像が消失する時、結晶化した何かがキラキラ舞っててめっちゃ綺麗だったし。


「2人ともパねぇな……」


 衝撃的過ぎて思わず口から零れたよ。

 まぁ何はともあれ、これで一気に形勢逆転だ。つっても、俺は活躍してないけどね……って思ってたら、残りの3匹が奥へ逃げ出しやがった。

 急いで追いかけようとしたけど、その必要はなくなったみたい。何故なら、例の魔物が3匹のゴブリンを全て斬り殺しちまったからな……



「グガァァァァァーッ!!」


「うわっ!? また怒号っ!?」


 再び怒号を放った後、例の魔物は重い足音を立てて近づき始める。その足音だけでも奴が強キャラ確定なのが理解でき、万全を期すことを余儀なくされた。


「奴との距離は……よし、充分あるな。それなら……」


 早速だが、周囲を見渡してあることを確認する。それは、俺達の現状についてだ。

 特に、ペコラちゃんとキュピィちゃんには『とっておき』使用による代償があるとみてる。例えば、弱体化とか状態異常とか自らもダメージを負うとか……えっと、あと他にはーー


「ーー反動で身体が動かせないようですね……」


「そうそう! 反動で身体が動かせなくなるとか! って、えぇっ!? アっ、アーネちゃん!? い、いつの間に!?」


「……は? アーネちゃん? 随分と馴れ馴れしいですね? 私達、出逢って間もないんですよ? こういう時は普通、苗字から呼びませんか?」


「うぐっ……ご、ごめん……」


 て、手厳しいぃぃぃっ!! うえに辛辣すぎるぅぅぅっ!! ってか、異世界じゃ名前で呼ぶのが普通なんじゃないの!? ココも前世みたいに苗字からじゃなきゃダメってこと!? これからアーネちゃんのことサンダースさんって呼ばなきゃ嫌われちゃう……!? い、嫌だ……そんなの絶対に嫌だぁぁぁーっ!!

 ……と、一頻り悶え叫んだ後、平静を装ってアーネちゃんに話し掛けることに。


「ゴホンッ……サ、サンダースさん?」


「はい、なんですか? ハラさん」


「ぐはっ!」


 そっ、想像以上に効いたゼ……少しは仲良くなれたと思ってたけど、とんだ勘違いだった……こんな近くにいるのに、あの魔物より遠くに感じるなんて……ごふっ……

 精神的ダメージを負って脳内で吐血する俺。そんな弱ってる時でも、平然とアーネちゃんは話し掛けてくる。


「それで? 何か話があるのでは? ……まぁ、言わなくてもいいですけど」


「……」


 俺の言わんとすることを察してるかのような口振りのアーネちゃん。多分……いや、絶対に理解してるな。俺がみんなの現状を把握しときたいってことをさ。まっ、それならそれで話は早く済むし、説明する手間も減るから助かるけどね。

 つーわけで、話はせずにそのまま現状把握に移るとしよう……



「……うーん、こいつはマズいな……」


 現状把握に移って早々、ペコラちゃんとキュピィちゃんの状態が予想よりも悪いことが判明した。

 それは、2人の疲弊度が半端ないってことだ。明らかに『とっておき』使用の代償だろう。

 俺とアーネちゃんは同時に顔を見合わせ、それと同時に思考も合致。あぁ、今の2人ではこれ以上の戦闘は無理だ……と。


「ど、どうしますか? こうなったら私達だけで……」


「……」


 不安と焦燥に駆られたアーネちゃんは俺に意見を求める……が、その答えを見出せずに俺は口を開けずにいた……

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