第9射 3人の美少女、そのよん
「……冷静に何かないか、冷静に何かないか、冷静に何かないか……」
冷静さを保ちつつ? 何か策を考える俺。
本音はさ、先のゴブリン戦みたく『超感覚』でビジョンが視えればすっげぇ助かるんだけど、そんなポンポン視えたらチートすぎるし人生ヌルゲー化しちゃってつまんないもんな。だからこそ「今回は俺の頭脳だけで策を考えてみせる!」そう決心して引き続き策を考えたところ……
「……ダーメだ、なーんも浮かばん……」
……結局、この窮地をどう乗り切ろうかと思索したものの、全く以って策が浮かばず。
そいつは単に、知識不足・経験不足・寝不足の三大不足が原因で、俺にはその全てが足りてなかったのだ。
因みに、夜の営みで失敗する理由もこれらが原因であることが殆ど。あとは技量不足とか愛情不足とか成長不足とか色々あるけど……
閑話休題、実を言うと俺にはたった1つだけ秘策が残されていた。それは……
「はぁ……しゃーない、神頼みすっか!」
そう、神頼みである。てなわけで早速「カミえも〜ん! ピンチを救う魔法をおくれよぉ〜っ!」と、心の中で頼んでみた。すると……
「……たわけめ……まぁよい……ほれ……」
……えっ? マジで魔法をくれたの? ありがと神様っ! あとで肩揉みしてあげっから!
取り急ぎ、神様から貰った魔法を確認しようと俺自身に『ショルダーハック』を掛けた。さて、一体どんな魔法をくれたのやら……
【窃視『ショルダーハック(use)』『ヤカンミール(use)』】
【時間『クイクイック(cool)』『オキザリン(cool)』『イソガバマワーレ(new!)』】
【治癒『カイフック』『リラックミャー♡』】
【睡眠『アンミーン』】
【避妊『ピール』】
……おっ、時間魔法だ! こりゃ期待できるな! って、感心してる場合じゃねぇし。とりま、詳細を見てみるか……
【イソガバマワーレ:時間魔法。
……なるほど、確かに期待値は高いけど時間稼ぎが必須のやつだな。これはみんなに協力を仰がないと。
でも、一体どう伝えれば……って、まごついてたら先にペコラちゃんが口を開いた。
「ねぇ、ゴブリン何匹いる? こっちは25いるんだけど」
「こちらもぉ、25ですねぇ」
「私のところは23です」
「あっ、お、俺んとこは……28……だな、うん間違いない」
「分かった、101匹ね。多分ダブリもいるからそれよりは少ないはずよ」
「101匹ゴブリン……」
「あの、もしかして全員武器持ちですか? こちらは20匹とも武器持ちなんですが……」
「こちらもですねぇ」
「こっちもそうね」
「あ、こっちもだ」
「やっぱり……はぁ、嫌になっちゃいます。私はか弱い非戦闘員なのに」
「え? か弱い? 誰が?」
「は? 何か文句でも?」
「い、いえ、なんでもござーせん……」
(こっわ! どこがか弱いんだよ……)
「はぁ、失礼なんだから全く……で、誰か策はありますか?」
「「……」」
か弱い? アーネちゃんの的を得た問い掛けに皆無言となる。
この時、本当は新魔法の件を伝えたかったけど、やっぱ伝えづらいからやめたんだ。だって、魔法が完成するまで俺を守ってくれなんて口が裂けても言えないだろ? それでどうしたもんかと思い始めたらさ、すぐにキュピィちゃんが名乗り出たんだよね。
「あのぉ、私がイッてもいいですかぁ? 沢山ヤッてきますのでぇ」
おぉ、なんかすっげぇ卑猥に聞こえる……ハァハァ……って俺のエロバカ野郎っ! というのは一旦置いといて、キュピィちゃんがどう動くのか正直読めないけど、戦闘経験1回の俺よりも彼女の方が遥かに信頼できるのは確かだ。つまり、ここは任せるが吉ってこと!
「ああ、頼む! 2人も、ここは彼女に任せよう!」
「「了解!」」
「けど、何もしないわけにはいかねぇよな……」
そう小さく呟いた俺。
その直後、キュピィちゃんは腰から抜いた2本のナイフを両手に持ち、背中合わせの状態から抜けて正面のゴブリンに迫りつつ、両隣にいるゴブリンの心臓を狙ってナイフを投擲。
止まることなく正面のゴブリンに接近し、再び腰から抜いたナイフでゴブリンの頚動脈を斬る。
続けて返り血を浴びるよりも速く左隣へ移り、胸部にナイフが刺さったゴブリンの面前まで行くと、刺さったままのナイフを握って『回転斬り』で心臓ごと斬り裂く。
回転後、左側からゴブリンによる棍棒の振り下ろしがくると即座に気づき、バックステップで振り下ろしを躱すと、透かさず距離を詰めて左目の奥までナイフを突き刺す。
間を置かずに周囲のゴブリン数匹による強襲を察知し、突き刺したナイフを引き抜きながら素早く後退しつつ、両手に持ったナイフを投擲して武器を投げようとするゴブリン2匹の額を狙い撃つ。
そのまま後退してゴブリンとの距離を取り、一瞬でスカートの裾を捲し上げると「あっ、あれは! あの時の水色シルク!?」って驚く俺を無視して、むっちり太ももに隠してある小型ナイフ数本を両手に持ち、ショットガンの如く『散弾投擲』でゴブリン共にダメージを与えて牽制した……と、頭ん中で『超感覚』が教えてくれた。
「キュピィちゃん、つよ……」
普段の姿からは想像できないほど速く凄烈な動きに唖然とする俺。まさかこれほどまでの技量をキュピィちゃんが備えてるなんて夢にも思わなかったからだ。まさに嬉しい誤算ってやつ。
んで、そういう期待が膨らんでつい独り言を言っちゃうわけで……
「よし、これなら(もう魔法を使わなくても)イケるかも……」
そんな俺の独り言が聞こえたのか、ペコラちゃんは呆れ声で話し出す。
「バカねぇ、そんなわけないでしょ? 寧ろこれからが大変なんだから」
「お、おう……」
本当にバカだ、俺は。ペコラちゃんに言われるまで己の浅慮さに気づかないなんて……ほら、よく見れば肩で息してるじゃん、キュピィちゃん……それによ、無傷のゴブリンは全員殺気立ってるし……はは、こんなんでよく「イケるかも……」なんて言えたもんだよな、ホント……
という具合で1人落ち込んでると、今度はアーネちゃんが神妙な声で話し出す。
「あ、どうやら動き出すみたい……って、ゴブリン全員とか嘘でしょ……!? はぁ、こうなったら私も戦うしかなさそうですね……この、選ばれし武器で!」
非戦闘員であるはずのアーネちゃんは戦闘の意志を見せ、例のポシェットからある武器を取り出した。
その武器は黒く刺々しいうえに頭でっかちで、女性が持つにはあまりにも不恰好で不釣り合いな代物。
だけど、この場にいる誰よりも強そうに見えるし、ゴブリン共をビビらせるにはもってこいなのかも……
「……ん? ってことは、もしかしてアーネちゃんより俺の方が狙われるんじゃ……?」
大正解、まさにその通りだった。
どうやら俺達の中で1番弱そうに見られたのは俺らしく、ペコラちゃんとアーネちゃんの正面にいたゴブリンのうち何匹かは、俺に爪先を向けてヨダレを垂らし出す。
仲間がやられてキレてるはずなのに俺を見てナメるってどんだけ情緒不安定なんだよ……なんて、落ち込みつつも引いてたら、ゴブリン共が一斉に襲い掛かってきやがった。
「……!! 来た! もう捕まるなんて絶対いやっ!!」
そう言ってペコラちゃんは長杖を天に翳す。すると、長杖のグルグル頭から何発もの火球が順番に放たれてゴブリン共を襲う。
その火球は野球ボールサイズで1発の威力はそこまでじゃなさそうだけど、直撃すると火が燃え移るみたいで、当たったゴブリンは叫びながら地を転がり始める。それを見て「魔法だ! すっげぇ!」って驚いてたら、急に大声が上がってきた。
「「無詠唱っ!?」」
「「グゲゲッ!?」」
「えっ? なんだ急に? みんなどしたん……?」
1人だけズレてる俺。あの頭の悪そうなゴブリン共でさえ驚いてるのに。
てか、無詠唱ってそんなに凄いことなん? ラノベじゃ当たり前になってっから正直ピンとこないんだよね……あっ、でも、無詠唱できんのは強キャラばっかの設定が多いし、今回もそのパターンってこと? だから強キャラに見えないペコラちゃんが無詠唱できたことに驚いたのか? うん、そうだ! そうに違いない!
てな感じで勝手に納得してると、急にゴブリン共の足が止まる。何やらペコラちゃんの無詠唱にビビってしまったらしい。
まぁ、そりゃそうだ。無詠唱ってことはさ、またいつ魔法が飛んでくるのか分からないってことだもんな。
多分だけど、ゴブリン共が今までに戦った魔導士はみんな、魔法使う時に詠唱してたんだと思う。それで今回みたく詠唱なしで魔法使われてビビったんだ、恐らくね。
そう推察したら「今度はイケるかも……」って思いはぐったけど、そこは己を戒めて「いや、まだまだだ!」と考えを改めた。
ただ、ゴブリン共がビビってるのは確実だし、これを機に少しでも多く倒してやろうと俺達は攻撃を仕掛けることに。
「グ、グゲェ……」
ビビるゴブリン共に対し、キュピィちゃんは一息入れてから再び凄烈な動きで翻弄しながら斬っていき、ペコラちゃんは長杖を前に突き出して火炎放射器のような火魔法で次々と燃やしていく。
一方、アーネちゃんは「えいっ! えいっ!」と武器を振り回してひたすら牽制を。
そして問題の俺はというと……はい、滅茶苦茶攻撃されてます。
しかも、こっちの攻撃は空を斬るだけなのに奴らの攻撃は捌き切れずに傷を負って更に奴らを調子づかせるっていう負の連鎖状態。
で、そんな俺を見兼ねたペコラちゃんが戦闘中にも拘らず叱咤してきた。
「ちょっと! アンタ何やってんのよ!」
「あぁっ!? 何って見りゃ分かんだろ!? 戦ってんだよ!」
「そうじゃないこのバカ! そんなトロい動きじゃやられて当然って言ってんのよ! だからもっと速くしなさい!」
「くそっ! 好き勝手に言ってくれちゃって! 俺にも事情ってもんがあんの!」
「知らないわよそんなこと! とにかく速く動けばいいの!」
「あぁもう! 取り敢えず俺を信じろ! 今言えるのはそれだけ! 以上っ!」
「何よそれ! 私の気も知らないで! はぁ、もういいわ……骨は拾ってあげるから好きにしたら?」
「……」
ちょっと強く言い過ぎたかも……って思わなくもないけど、ゴブリン共には絶対に知られたくないことがあるんだ。話せなくて悪いけど、コレさえ上手くいけばきっとこの窮地も一気に好転するはず。だから……
「うおぉぉぉっ!! 掛かってくんなぁぁぁーっ!!」
「えぇっ!? そこは普通、掛かってこいやぁ! でしょ!?」
なんて、アーネちゃんにツッコまれながらも必死に時間を稼ごうとする俺であった……
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