第6射 3人の美少女、そのいち
「うぅ〜、うぅ〜……」
唸りながら前屈みで歩く俺。理由は察してほしい。
現在、気絶してる女のコの元へ向かってるとこなんだけど、異様に遠く感じるんだ。距離は短いはずなのに……あ、着いた。
「ふぅ、やっと着いた……さてと、まだ気を失ったままだし、俺が着せてもいいよな? いや、流石にそれはマズいか? うーん、でもなぁ……」
仰向けの体勢で気絶してる全裸の女のコ。その目の前で2つの意味で立ちながら自問自答を繰り返していると、ふと別の考えが浮かぶ。
「あ、ヤリてぇ……」
ヤバッ、思わず呟いちまった……けどさ、しょうがなくね? だって、目の前に全裸のコが無防備な姿を晒してるんだよ? 無抵抗確定なんだよ? そんなん男なら誰だって同じこと思うに決まってるし!
なんて、自分を正当化していたら……
「何をやりたいのですか?」
「ぬおぉぉぉっ!?」
完っ全に油断してたわ……俺のすぐ右隣から眼鏡っ娘が声を掛けてきたんだけど、接近されてることに全然気づかなかったよ。しかも、畳み掛けるように神様まで声を掛けてきやがった。
「……すけべい……」
はい、あとでコロ助。
「……すまん……」
うん、分かればよし。
てか、神様とのこんなくだらないやり取りなんかより、今は眼鏡っ娘への弁明をどうにかしないと……よし、ここは上手く誤魔化すしかねぇ!
「あ、え、えーっと……じ、実は、このコに服を着せてやりてぇなぁ〜って思った次第でして……」
気絶してる女のコの顔に目を向けつつ、そんな言い訳をしてみる。
俺自身、胡散臭いのは分かってんだ。でもな、それでも本当のことを言うわけにはいかないんだよ。何故かって? そりゃ、もし言ったら虫を見るような目で見られちゃうだろ? そんなことになったらって考えると絶対に無理だって! そう、無理なんだよ……興奮を抑えるのがさ! ハァハァ……っていう変態じみた妄想の後、恐る恐る眼鏡っ娘の顔を覗いてみると……
「ふふっ、優しいのですね? そういう男性はとても素敵だと思います」
「……え? あ、あはは……あ、ありがとう……?」
あ、あるうぇ〜? おっかしいなぁ〜? 全っ然疑われてないぞぉ〜? かなり胡散臭かったと思うんだけどなぁ〜? ……ってそれより! 否定しないってことは俺が服を着せてもいいってこと!? 本当にいいの!? じゃ、じゃあ遠慮なくーー
「ーーですが、流石に見ず知らずの人に着させるのはちょっと……何か目も怖いですし……」
「ぐはっ! で、ですよねぇ……」
眼鏡っ娘の口撃により、心にダメージを負った……が、その後も眼鏡っ娘の口撃は続く。
「はい。そういうわけですので、服を着せるのは私達に任せて今すぐ後ろを向いてください。あ、勿論、私達も服を着ますので、決してこちらを覗かないようお願いしますね?」
「ぐふっ! は、はい、分かりました……」
また心にダメージを負うも、眼鏡っ娘に衣服を渡して後ろを振り返る俺。
そんななか、思ったことが一つだけある。それは、どうやら眼鏡っ娘は辛辣な女性のようだ……と。
「お待たせしました。こちらを向いても大丈夫ですよ?」
後ろを振り返ってから10分くらいは経っただろうか……着衣を終えた眼鏡っ娘から振り返りOKの許可を得る。だがすまん……今は振り返れそうにない。愛棒が完全に出番と勘違いしてしまっているのだ。
何故なら、背中越しに聞こえる「んっ……」とか「ふぅ……」っていう甘い吐息や、衣服と柔肌が擦れる生々しい音を聞かされ続けたんだからな!
「……どうしました? 服は着ていますので振り返っても大丈夫ですよ?」
再度、眼鏡っ娘から振り返りOKの許可を得る。しかし、まだ無理だ。
一体どうすりゃいい? このままじゃ、女のコを無視するドイヒー野郎だと思われちまう……くそっ、どこかに逆転スキル『起死回生の一手』が発動するアイテムでも落ちてないか!?
「……んなもの……ないわ……」
うっせぇ! んなもん分かっとるわ! そんじゃあ逆に聞くけど、なんかいい手でもあるんかよ!? あぁん!?
「……まえ……かがみ……」
……は? 前屈みだと? またアレをやれって? はっ! 冗談は顔だけにしとけ! ……って思ったけど、確かに今はそれしかないような気がしなくもない。てか、それしか思いつかん。
はぁ、しゃーない……もっかいだけ隠蔽スキル『前屈み』を発動させてみるかぁ……
てな感じで、取り敢えず前屈みになってから振り返ってみたんだけど……
「あの、前屈みになっているのは何故ですか?」
「……えっ? えへへ、な、なんででしょうねぇ……」
おいコラジジイ! やっぱ全然ダメやんけ! どう落とし前つけてくれんだおぉんっ!?
「……すこし……まて……」
なにぃ? 少し待てだとぉ? そりゃあ一体どういうーー
「ーーもしかして、お腹が痛いのですか?」
「……ふぇ? あ、あぁ、そうなんです、お腹がちょっと痛くて……アーイタイナー……」
「たっ、大変だわ! 毒キノコでも食べてしまったのでは!? くっ、今持ち合わせが……あっ! 魔女様から以前に頂いた痛み止めの薬があります! 差し上げますので今すぐ飲んでください!」
腰に付けたポシェットの中を慌てて弄り始める眼鏡っ娘。その表情は真剣そのもの。
あぁ、そんなマジになるほど俺を心配してくれるなんて……そう思ったら、急に風船みたく罪悪感が膨らんで、逆に愛棒が萎んだんだ。多分、空気を読んだ愛棒が出番じゃないことを自覚したからだと思う。よかった、これで万事解決ーー
「ーーあった! ありました! はい、この薬をどうぞ! 早く飲んでください! あっ、あとこれ水です!」
奇妙な香りのする怪しい黒い丸薬を1錠と、なんらかの動物の何かで作られた革袋製の水筒を眼鏡っ娘から手渡された。
うっ、今更腹痛が治ったとは言えないし、流石にこれを断るわけにはいかないよな……くっ、こうなったら……
「南無三っ!!」
そう叫んだ直後、丸薬と水を一気に飲み込む……フリをした。とはいっても、フリをしたのは丸薬だけで水は本当に飲んだんだけどね。だってさ、眼鏡っ娘と間接キスができんだぜ? そりゃ飲むしかないっしょ? フへへ……
因みに丸薬の方は、右手に隠し持ってから左手で水を飲むと同時にズボンの右ポケに突っ込んだ。あまりの手際の良さに誰も気づかなかったはずだ。ニヤリ……
「あのぉ、何かハッピーなことでもあったんですかぁ? お顔が緩んだり笑ったりしてましたけどぉ?」
いきなり顔を近づけてきたおっとり系美少女。俺のコロコロ変わる表情が気になって話し掛けてきたようだ。
正直めっちゃ嬉しいけど、下心でそんな幸せそうな顔してたんかなぁ、俺……
「そんなことより、今はここから脱出することを考えましょう! こんな生臭い匂いをこれ以上吸いたくないわ!」
がはっ! 俺の顔が「そんなこと」呼ばわりされた……ショック……
「確かにぃ、そんなことよりもぉ、早くここから出たいですねぇ」
がふっ! また「そんなこと」呼ばわりされちゃった……うぅ、泣きそう……
「……ん、んん……えっ? こ、ここは……?」
俺が心の中でベソ掻いてると、気絶してた女のコが目を覚ました。
全裸の時は小柄でスリムな美少女って感じがしたけど、衣服や装備品を身につけた今じゃ魔女っ娘の方がしっくりくるな。
フリル付きの黒いキャミドレスに紫リボンを巻いた黒いとんがり帽子、そして何故かグルグル頭に加工された木製の長杖……うむ、彼女こそが正真正銘の魔女っ娘であーる。
「気がついてよかったです……あっ、服は私達が着せましたので安心してくださいね?」
「そうですぅ、私達が着せましたぁ。スタイルが良くて羨ましいですねぇ」
「……あ、ありがとう……? って、あれ? 私はなんで服を着せて……そ、そうだ……私、ゴブリンに捕まって、それで……あ、あぁ、あぁぁ……!」
記憶を辿る内に、魔女っ娘の顔は見る見る青ざめていく。
そしてカタカタと全身を震わせる姿は、前世で見た噴火直前の火山を思い出させた。そう、それはとても良くないものを吐き出す前兆ーー
「ーーいやぁぁぁぁぁーっ!! 私の中にゴブリンの精子がぁぁぁーっ!! いやっ! いやっ! 孕まされるなんていやぁぁぁーっ!! 私っ、もう死ぬしかーー」
「ーー大丈夫! 絶対に孕んだりしない! 死ぬ必要だってない! だから、だから落ち着け……な?」
壊れたように泣き叫ぶ魔女っ娘の背後へ素早く回り込み、左手で強めに口を塞ぎ、右手で優しく頭を撫でながら慰めの言葉を口にする俺。
すると、初めは口を塞いでも泣き叫んでいた魔女っ娘だが、頭を撫で続けると次第に落ち着きを取り戻していった……
「……落ち着いたか?」
「……うん、取り乱してごめんなさい……」
頃合いを見計らって口を塞ぐ手を退け、優しい口調で声を掛けると、魔女っ娘は申し訳なさそうに返答する。
そんなラブロマンスが始まりそうなやり取りをする傍らでは、眼鏡っ娘とおっとり系美少女が心配そうに魔女っ娘を見つめていた。
まぁ、あんなに取り乱してたんだから心配すんのも無理ないよな……初対面の俺でさえ超心配したくらいだし。
てか今更だけど、この美少女達は知り合い同士……だよな? でもさぁ、どうも会話や雰囲気からして知り合いって感じじゃないんだよなぁ……うーん、これは確認した方がいいかも……
「い、いきなりなんだけど、みんな知り合いってことでいいんだよな……?」
「えっ? あ、あの、それは……」
……ん? なんだ? この眼鏡っ娘の微妙な反応は……?
「そ、そうですねぇ……」
……んん? おっとり系美少女も微妙な反応を……?
「あ〜、まぁ、知り合いといえば知り合い……なのかな?」
……ふむ、これはアレだな? 今の魔女っ娘の反応からして、街で何度も見かけるけど話したことはないってやつだ。なるほど、それなら他2人の反応にも納得がいくな。うんうん。
てな感じで勝手に納得してる間に、3人の美少女は意気投合して盛り上がっていた。
気になって聞き耳を立てると、何やら3人とも「気にはなってたけど緊張しちゃって声を掛けらんなかった」ってことらしい。
つまり、デバフスキル『人見知り』が発動してたってわけだな。よくあるよくある〜。
なーんて、またもや勝手に納得してると、思い出したように魔女っ娘が声を上げる。
「……あっ! そうだ、あいつらのこと忘れてた! ヤッバ〜、早く助けに行かなくっちゃ!」
慌てて魔女っ娘は駆け出す……が、その前にと俺達の方を振り返って、一言。
「こんな穢れた女を助けてくれてありがとね……それじゃあ、バイバイッ!!」
満面の笑みを浮かべる魔女っ娘。
しかし、その笑顔は不自然なほど明るく、まるで最期の別れを誤魔化したかのようだった……
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