第5射 熱く脈打つモノ
「視える、視えるぞ! 地に臥せるゴブリン共の姿が! フハハハハハッ!!」
勝利を確信した俺は高らかに笑った。
何故なら『超感覚』によるビジョンが明確であり、それに対する不安が1ミリもないからだ。
即ち、決して厨二病が再発したわけじゃないぞ、決して。
まぁ確かに? 側から見たら、頭のおかしい奴にしか見えないだろうなとは俺も思う。現に女のコ達やゴブリン共の表情は皆同様にキョトン顔だし。
あっ、でも違うとこもあるよ? それは同じキョトン顔でも、女の子達のはカワイイけどゴブリン共のはキモいってとこ。まさに天と地くらいの差があるね、マジで。
「「グゲゲ……グゲッ!」」
おっと、余計なことを考え過ぎたか……ゴブリン共が立ち上がっちまった。ただ、アソコの方は暫く立てなそうだけどww
とまぁそれは置いといて、これからすべきことを間違えないように気を引き締めなきゃだし、状況整理もしとかないとな。
先ずはゴブリン共から……警戒してるからか、今のところ襲ってくる気配はない。少しくらいなら考える時間はありそうだ。
次は俺が手にしてるこの剣だけど……全体的に錆は酷いし、所々に小さなヒビが入ってるな。これで戦うのはちょっと厳しいか?
それから女のコ達の方は……大人しくしてくれてるから取り敢えずは大丈夫そう。それに、何故かゴブリン共が後退してたから距離も空いてるし、人質に取られる心配も無さそうだ。
あと他には何かあったかなぁ……おっ、ゴブリン共の気配が変わった。しかも、どいつもこいつも襲う気満々の顔つきになってやがる。こりゃあ今にも襲い掛かってきそうだな。
「そんじゃ、こっちもやりますか! 時間魔法! オキザリン!」
魔法を唱えた直後、俺の脳内では2つの選択肢が生まれた。それは「Ja《はい》」と「Nein《いいえ》」だ……って、えっ!? なんでドイツ語!? 普通は日本語か英語じゃないの!?
「……やはり……おぬし……いがい……あたまーー」
「ーーうるせぇ黙れジジイ」
俺に感心? してた神様を、言葉の刃で斬り捨てる。そりゃもう見事なくらいバッサリと。
その後、すぐに『並列思考』を発動させて次の行動に取り掛かる。無駄なことに時間は使ってられないからな。てなわけで、早速行動開始だ!
牽制のため、構えていた剣を振り上げる。
「Nein」
左足を一歩前に踏み込む。
「Nein」
虚空に向かって剣を思い切り振り下ろす。
「Ja」
右足を前に引きつける。
「Nein」
振り下ろした剣を再び振り上げる。
「Nein」
右足を一歩後ろに戻す。
「Nein」
左足を後ろに引く。
「Nein」
これで1セット。この一連の動作と選択をあと6セット黙々と実施した。ただまぁ、1セット毎に身体の向きや剣の振り下ろす角度を変えながらだけどな。
勿論、その間も『並列思考』でゴブリン共への警戒は怠ってやしない。でも、その最中に……
「「グーッゲッゲッゲッゲッゲッーー」」
一連の動作を目にしたゴブリン共は、初めこそ驚いてたけど、次第に笑い出すようになり、動作を終える頃には爆笑しながら俺に指差して馬鹿にしてたよ。酷く醜い顔を晒して。
ただそれでも、ひたすら奴らを見据えるだけ。眉一つ動かさずに。何故なら待ってるからだ、奴らが襲い掛かってくるその機会を。
「「ーーゲッゲッゲッ……グゲッ……? グゲェェェーッ!!」」
馬鹿にされても何一つ反応しない俺に腹を立てたのか、いきなり叫び出したゴブリン共。
その瞬間、待ってましたとばかりに反応を見せる俺。パッと見じゃ気づかないほどの小さな笑みを浮かべ、バックステップで距離を取る。そして、トドメのこの一言。
「グゲグゲうるせぇんだよ! このソーローどもがっ!!」
「グゲッ!? グッ……グゲェェェェェーッ!!」
俺の言葉は分からずとも、ニュアンス的に罵倒されたことは理解できたらしく、ゴブリン共は怒りに任せて突っ込んできた。
ヤリ部屋自体があんまり広くないから充分に距離が取れず、速攻で距離を詰められたんだ。
しかも、奴ら全員が我先にと前のめりになって迫ってくるし、先頭にいる奴なんて汚い爪で俺の顔を思いっ切り引っ掻こうと腕を振り上げてやがる。けどな……
「……これで終わりだ」
「「ゲッ!?」」
俺が終わりを告げた直後、6匹のゴブリンは漏れなく何かに斬り裂かれて地に臥せた。
「「ブッ、ブゲェェェェェーッッッ……」」
ゔっ、なんて酷い断末魔だ……それに傷痕も……うぷっ……
ど、どうにか吐くのは我慢できた……でも、斬る物の質が粗悪なのか、斬った者の技量不足なのか、もしくはその両方なのかは定かじゃないけど、ゴブリン共の身体に刻まれた斬撃痕はグチャグチャになってて見るに耐えない状態だ。
まさか、本当にスプラッタ化しちまうなんて……まっ、自業自得ってやつだけどな。
「「グゲ……ゲ……」」
苦しそうに力尽きていくゴブリン共。
6匹全員が微動だにしなくなったその時、突然「バキッ!」と何かが割れる音が聞こえてきた。
「うおっ!? ビックリしたぁ……」
すぐさま割れた音がした方向に目を向ける。その音はとても近くで鳴って……いや、正確には左手の方から鳴った、だ。
「やっぱダメだったか……はぁ……」
ため息を吐いた後、剣は折れて地面に落ちた。
まぁ、9割の確率でこうなると思ってたんだ。剣が限界を迎えて折れるなんてこたぁさ。
「あわよくば、剣に負担を掛けずに斬撃を固定できたらよかったんだけど……なんて、異世界人生そう甘くはないかぁ……」
そんな独り言を呟いて「ははは……」と苦笑いしてたら、1人の女のコが声を掛けてきたんだ。
「あ、あの、助けてくださったんですよね……あ、ありがとうございます!」
その女のコは謂わゆる眼鏡っ娘というやつで、全裸のまま横座りの姿勢で感謝の意を伝えてきた。たわわに実った双丘をどうにか右腕で隠しながら……デヘヘ……
なーんて、つい緩み顔になってたら、再びその眼鏡っ娘が声を掛けてきたよ。
「あの、どうかしましたか……?」
「ふぇっ!? いっ、いえっ、どうもいたしません!」
「は、はぁ……?」
「あは、あはは……」
眼鏡っ娘には不思議そうな顔をされたけど、笑ってどうにか誤魔化したぜ……ってそれより、全裸のままじゃ風邪引かせちゃうから、急いでみんなに服を着せてあげなきゃな。
そう思い立って周囲を見渡すと、脱がされた衣服や装備品がご丁寧に1箇所に集められてるのを確認。
で、せめて衣服だけでも回収しに行こうと後ろを振り返った途端、いきなり眼鏡っ娘が大声を上げたんだ。
「!? 危ないっ!! 後ろっ!!」
眼鏡っ娘の声が響いた直後、1匹のゴブリンが叫びながら俺の背後を狙って飛び掛かってきた。
「……ごぶりん……そうろう……」
ナイス神様。
神様の話だと、どうやらあの早漏野郎のようだ。なんてしつこい奴……
「グギャァァァァァーッ!!」
「げっ、めっちゃ怒るじゃん……」
すっげぇ怒号。俺を馬鹿にしてた時とは別人……いや、別ゴブリンのようだ。
それに、さっきの怒号からは背中越しでも分かるほどの怒気や殺気を感じたし、殺意まで漏れ出てたから背筋が痛いし寒い。
だが、それでも平然とした表情で振り返りもしない俺と、その背後まで目前に迫るゴブリン。そんな危機的状況に耐え兼ねた眼鏡っ娘は、次に起こるであろう惨状から顔を背けた。
「ダメ、もう間に合わない……」
瞳を強く閉じながら眼鏡っ娘はそう呟く。
他の女のコも同じ気持ち同じ表情で同じことを想像してるのだろう。これから聞こえてくる断末魔はきっと、俺のであると……
「ーーーーーーッッッ……」
案の定、断末魔が部屋中に響き渡る。
少し間を置いて静かになった頃、女のコ達はゆっくりと瞳を開けた。
「「……え?」」
女のコ達は声を揃えて驚き、そして唖然とする。
何故なら、自身の想像とは真逆の結果であったからだ。
まぁ結論から言うと、その場に倒れてるのは俺……ではなく、ゴブリンの方だったってわけ。上手くいってよかったよかった。
「……さっきので本当に終わりだ」
最後に一言添えることで格好良さを演出。男なら女性の前ではカッコつけたいもんね、えへへ……
「ーークチュンッ」
……なんだ? 今のカワユイくしゃみは……一体誰が……?
倒したゴブリンをよそに、くしゃみの聞こえた方に目を向けると……
「……!! あ、あのコがあんなカワユイくしゃみを……」
なんと、そこに居たのはあの眼鏡っ娘……のすぐ隣で体育座りをしている、少々肉づきのいいおっとり系美少女だった。しかも細目の。
「ヤ、ヤバい……超絶タイプだわ……冗談抜きで……」
「……はぃ? いまぁ、何か言いましたかぁ? クチュンッ……ごめんなさいねぇ、寒くてぇ……」
あっぶね〜……タイプすぎて思わず口に出してたよ、心の声を……って、そうじゃねぇ! またくしゃみしちゃってんじゃん! 早く服を着せなきゃ!
急いで衣服を取りに走り出す。瞬発力には自信アリだ。
んで、部屋が広くないからすぐ着いた……けど、そこである問題に直面する。
「うーん、どうやって運ぶかなぁ……せめて入れ物があれば助かるんだけど……」
問題とは何か……それは「女性の衣服を男が触れても大丈夫なのか?」問題である。
家族や恋人であれば問題ないと思うが、俺は他人のうえに初対面だから尚更だろう。
でもなぁ、今はそんなこと言ってる場合じゃないんだよなぁ……早くこのダンジョンから脱出しなきゃ奥からゴブリン共がワラワラ出てきて鬼ヤバいことに……はぁ、今すぐ脱出したい……
なんて、勝手にネガティブモードに突入してたら「クチュンッ」と3度目のくしゃみが聞こえてきた。
「ゔぅぅ……えーい! ままよ!」
半ばヤケクソになってガバッと衣服の山を両手で持ち上げる。もうどうにでもなれ! ってね。
それで「あれ? 異世界の服って意外と軽いんだなぁ……」って、つい余計なことを考えてた隙に、1枚の布がポロッと衣服の山から下山したんだ。
「あっ、しまった! 早く拾わなきゃ!」
反射的に衣服の山を右腕で抱くように持ち変え、それと同時に下山した布を左手で拾い上げる。そして、なんの気なしにその布を見てみたところ……
「……ん? んんっ!? これって、もしかしなくても……パッ、パパパパパンティーッ!?」
てっきりハンカチか何かだと思ってたのになんでパンティー!? もう動揺しまくりまくりすてぃーなんですけど!? 水色でシルクのような手触りなんですけど!?
あまりの動揺に思考回路が完全にバグる。その影響で『並列思考』も解除された。まさに踏んだり蹴ったりだ。
しかし、そんな俺でもこれだけは完璧に分かる。この下半身で奮い立つ、熱く脈打つモノだけは……
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