第2射 ちうとりある、そのに


「気もてぃ〜、これがヘッドスパってやつかぁ〜」


「違うじゃろ」


 ジジイはスルー。


「おい」


 自分の頭に掛けた『カイフック』によって快感を得られ、明らかに頭が軽くなった。それに、なんだか身体中がポカポカして気持ちいいんだ。

 けどなぁ、あんまりやりすぎると治癒中毒に罹って廃人になりそうだよなぁ……うん、気をつけよう。

 あ、でもたまにならいいよな? だって気持ちいいんだもん、でへへ……なんて自分の世界に入ってたら、スルーされてた神様が見兼ねて話し掛けてきたよ。


「のぉ、もうええか? 流石の儂でも聞くに耐えんぞ? 特に、でへへ……はきもくて寒気がしたわい」


 はぁ? なんか失礼なこと言ってんよ。まぁ、自分の世界に入ってた俺が悪いんだけどね。

 てか、それより早く次の魔法を教えてくれ。俺には大事な大事な使命があるんだからさ。


「お主、儂を落ち込ませたことをすっかり忘れておるな……まぁええ、それでは次に睡眠魔法の『あんみいん』を授けようぞ」


「あんみいん? なんだそれ……ん? アンミーンか? 要は、安眠できる魔法ってこと?」


「うむ、正解じゃ! なんと『あんみいん』は安眠できるだけではなく、寝ている間の生命力回復と魔力回復の速度を2倍にしてくれるというなんとも有難い魔法なのじゃ!」


「ふーん、あっそ」


「ふぉっ!? な、なんじゃ、その微塵も興味ない感じは……」


「……」


 もう話すのも面倒なくらいにどうでもいい魔法だ。やっぱ睡眠魔法は使えねぇ……せめて催眠魔法だったらムフフなことに使えたのによ。

 ……あっ! ムフフといえば、かの有名なムフフ三大能力は欠かせないよなぁ……時間停止・催眠術・透明化の三つ!

 例の『クイクイック』は惜しいとこいってんだけど『アンミーン』は全然ダメ。この魔法は催眠魔法じゃないから強制的に眠らせらんないっぽいし。

 けどまぁ、慣れない異世界で安眠が保証されてるだけマシかもしれないな。

 それに、微弱だけど睡眠を促す効果があるみたいだし? もしかしたら10発に1発くらいは眠らせられるかもだし? てなわけで、試しにルシフェラちゃんにでも掛けてみっか!


「ルシフェラちゃん! 俺の実験に付き合ってくれ! アンミーン!」


「!? Zzz……」


 ……あれれ? 1発で寝ちゃったぞ? どうなってんだ? よく分からんけど、もしや使える魔法なのか? それとも、俺様に隠された魔法の才能が遂に目覚めて……ゴクリッ……


「そんなもんあるわけなかろうが! ただの寝不足なだけじゃ! 何故ならそやつはーー」


 まーた勝手に説明し始めちゃったよ、この神様。けどさ、今回はルシフェラちゃんの話みたいだから、しっかり聞いちゃうわけで……




 ……なーるほど、つまりルシフェラちゃんが天界から追放された理由は、早寝早起きが基本の天使にも拘わらず、夜更かしのうえに夜な夜な男を漁りに行ってたことなのか……はぁ、なんてしょうもない理由なんだ……もうなんも言えねぇ……


「しかもさ、アヘ顔のまま寝てて怖いし……なんか萎えてきちゃったよ……気分もアソコも……」


 こうして、俺の愛棒の出番はなくなった。

 そして、俺の冒険も幕を閉じーー


「ーーるなぁぁぁぁぁーっ!! 何を勝手に終わらそうとしとるんじゃ! 幾らやる気をなくしたとはいえ、まだ冒険すらしとらんじゃろが! このっ、たわけが!!」


 絶妙なタイミングで割って入ったな……流石は神様だ。

 でもさ、神様? 殆ど使えない睡眠魔法に、くだらないルシフェラちゃんの話、そして見てよ、アヘ顔のまま爆睡するこの怖い寝顔。前世でアヘ顔晒したまま寝るコなんてみたことないし、もしいたら絶対に縁切るよ……


「そ、それはそうかも知れんが……ごほんっ、そ、それより、最後に教える魔法を知りたくはないかの?」


「えっ! 知りたい知りたい! 確か、避妊魔法だよな! 俺の使命に欠かせないやつ!」


「うむ、そうじゃな。しかも、この魔法はお主にとって切り札と同時にお主にしか使用できない『あるていめっとれあ』な魔法なのじゃ!」


「あるていめっとれあ……? ははぁ、アルティメットレアって言いたいのね? ふーん……って、それマジ!?」


「うむ、まじじゃ!」


 マジなのかよ……てか、天界で願った『アルティメットレア』がまさか避妊魔法だったとは……一体、どんな効果が……? って、そんなの分かり切ったことだろ! 避妊だよ!!

 あっ、つい一人ノリツッコミしちゃったよ……ちゃっかり右手まで振っちゃってさ……はははっ……


「……」


 ほらな、神様も無言になっちゃったし。

 でもさぁ、効果は分かるとしても使い方は幾つか考えられんだよな。

 たとえば、避妊させたい相手に魔法を掛ける系、孕まそうとする奴に魔法を掛ける系、アイテムに魔法を付与して所持者に効果を与える系……とかさ。

 まぁ、できれば全部欲しいとこなんだけど、それはきっと無理だろうな……だって、便利すぎるもん。


「いや、大丈夫じゃ! この魔法はお主の固有魔法でな、ある程度は融通がきくのじゃよ!」


「おぉっ! そりゃ凄いな……ん? ってことは、俺が想像さえできれば他にもなんか使えんの? 避妊魔法ってさ?」


「……分からん」


「わ、分からんて……で、でもさ、少なくともさっき俺が言った3つは使えんだよね?」


「多分な。だがどちらにせよ、今は魔法経験値が圧倒的に足らぬので1つの魔法しか使えんがの」


「や、やっぱそうなんだ……」


「そうじゃ。つまりは精進あるのみということじゃな!」


「お、おう……でさ、この魔法ってルシフェラちゃんに使ってみても大丈夫かな?」


「うむ、ええぞ。今使える魔法は『ぴいる』とゆうて、避妊させたい相手に唱える魔法のようじゃ。因みに副作用は皆無らしく、持続時間は丸1日みたいじゃから忘れるでないぞ?」


「おっ、押忍っ! 肝に銘じます!」


 てな感じで気合いも入れたし、早速ルシフェラちゃんに避妊魔法『ピール』を掛けてみよう……


「ルシフェラちゃん、また俺の実験に付き合ってくれ! ピール!」


「……」


 うーん、見た目はなんも変わってない……ん? ヘソ周りに、変な紋様が付いてる……?


「それは『避妊紋』っちうらしいぞい。それが付いている間は『淫紋』や『奴隷紋』など、謂わゆる『魔紋』を付けることができなくなるようじゃ」


「へぇ〜、じゃあさ、その逆はどうなのよ?」


「それは大丈夫みたいじゃ。じゃがの、既に付いている『魔紋』を無効化できるわけではないようじゃから、そこは間違えてはいかんぞ?」


「り!」


「り? なんじゃそれは?」


「……」

(了解! っつう意味だよ!)


 ま、まぁいいや……とりま、一通りの魔法を教えてもらったし、あとは冒険しながら慣れてけばいいよな?

 それに、新しく覚える魔法も楽しみだ! って、なんかそう考えたらさ、今すぐ冒険したくなっちゃったよ。


「ねぇ、神様……もう行っていい? 俺、もう我慢できないよ……」


「お主がそれを言うと、卑猥な台詞にしか聞こえんのじゃが……」


「……エロジジイ」


「ふぉぉぉぉぉーっ!?」


 ……あ、神様との交信が途切れた。余程ショックだったんだな。申し訳ない。

 けどまぁ、どうせこれからすぐに出発するし、いつまでも頭ん中から声がすんのも邪魔なだけだしな。つまりは好都合ってことだ。

 でも、出発前にもう一度だけ魔法の確認はしとくか。脳内でリスト化してさ。えーっと、確か……



【ショルダーハック・窃視魔法・鬼レア】

【クイクイック・時間魔法・爆レア】

【カイフック・治癒魔法・超レア】

【アンミーン・睡眠魔法・レア】

【ピール・避妊魔法・極レア】


【非レア≪レア<高レア<超レア<激レア<爆レア<鬼レア<極レア】



 ……とまぁ、こんな感じかな。魔法の効果は大体分かるから別にいっか。

 それにしても意外だ。時間魔法よりも窃視魔法の方がレア度が高いなんてな。

 あー、あとはなんかあったかな……ん? そういえば、今着てる服ってなんなんだ? 明らかに黒ジャージだよな、これ。しかも白の3本ラインじゃなくて、2本ラインのやつ。

 更に言うと、何故か襟がモコモコになってるんだよなぁ。もしかして首は冷やすなってこと? それとも首を守れってことか? うーん、神様の考えはよく分からん……

 てかさ、今時の若者に黒ジャージを着せるってどういうわけ? いつの時代を参考にしたんだ? あの神様……


「たわけぇぇぇぇぇーっ!! よいからさっさと出発せんか! いつまで油を売っとるつもりじゃ! この馬鹿ちんがっ!!」


「馬鹿ち……えっ!? パクリ!?」


「なっ!? しっ、しもうた! じゃのうて、違う! 儂のおりじなるじゃ! ……ごほんっ! そ、それでは良い冒険をするのじゃよ?」


 ……あ、また交信が途切れた。逃げやがったな、あのジジイ。

 幾らパクリがバレたからって、一方的に交信を切るのは大人としてどうよ? ったく、これだから神様ってやつは自分勝手なんだから……まぁいっか、今は愚痴ってるヒマなんてないからな。なんせ、夜までに寝床を確保しなきゃいけないんだし。

 そう考えたらなんかさ、早く行かなきゃって思えてきたんだよね。だから、もう行くよ……


「ルシフェラちゃん、またね……」


 ご就寝中のルシフェラちゃんに別れを告げた後、その場から離れて最初の街に行き始めたんだ。ただまぁ、アテなんか全くないんだけど……





「……ん? なんだ? もしかして冒険者か? あの4人は……?」


 あの不思議な場所から出て少し歩いたらさ、森の中に洞窟が見えてきたわけ。

 で、その洞窟の前に4人の冒険者っぽい奴らがいるんだよね……でも、なんか揉めてるような……



「ねぇ、やっぱりやめましょうよ! 今の私達じゃこのダンジョンはまだ早いわ!」


「何言ってんだ! ここまで来たんだから行くしかないだろ!」


「で、でも、中にはゴブリン達が……」


「いいから行くぞ! じゃないとお前だけ置いてくからな!」


「!? わ、分かったわよ……」


 ……あ、4人が洞窟の中に入ってった。

 どうやらあの洞窟はダンジョンで、さっきの4人はソコを攻略しようとしてるんだな。

 で、ソコにはゴブリンがワラワラいるから女のコは行きたくないってわけね。

 てかあの4人……男3に女1って、明らかに女のコの取り合いになってんだろ……見たところ全員未成年っぽいし、きっとサカってんだろうな……ん? この世界って何歳から成人認定されてんだ? もしや、もう成人なのか? あの4人って……?


「まぁ、それは後で分かることだし、今はこれからのことを考えなきゃな……」


 ダンジョンに興味があるから、あの4人を追って洞窟に入るか、寝床を優先してこのまま街を探すかのどっちかだな。


「うーん、どっちにすっかなぁ……」


 瞳を閉じ、腕組みして悩む俺であった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る