Act.05:イージスデバイス①
「システム、進路共に異常なし。安定航行状態を確認。……マスター、無事ワープが完了しました」
「お疲れ様。早いね……」
うん、何というか……1600光年移動するのに1分も経過しなかった。ワープしゅごい。
いやまあ、確かにSFA内では一瞬で移動するけどね……読み込みとかで少し時間かかるけど、これを言ったら野暮っていうものだろうか。
どうも、この宇宙船のワープはワープ空間と呼ばれる、別空間に侵入して近道しているみたいなのだ。その辺は詳しく分からないけど……某国民的アニメの宇宙みたいな。
原理は分からん。だって、架空技術だし……と言いつつ実際、僕はその技術で今移動した瞬間を見ているのだが。
「ふふん! 何せ私は凄いんですから、これくらい余裕ですよ」
「はいはい……凄いのは認めるよ」
「えへへ」
何か子供が出来たみたいな感覚だな……でも僕は結婚してないし、好きな相手も居ないし……ボッチが基本だし……やめよう、考えるほど虚しくなっていく。
良くある中小企業に就職して13年……地球ではもう37歳になってたなー……でも、特にブラックという訳ではなくホワイトよりである。
ボーナスもあったし、昇給もあった。会社内での関係もそこそこ良い感じだったと思う。気付いたら課長になっていたが……他には社内イベントも前は良くあったんだけど、あのコから始まるウイルスのせいで去年も今年も中止になってしまった。
「地球の僕はどうなったんだろうか」
ぽつりと呟く。
別に過労なんてしてないし、健康的には問題はなかったはず。精神面でも……知らぬ間に悪くなっている可能性も考えられるけど、少なくともストレスとかそういうのは少しくらいしかなかった気がする。
課長という立場上、仕事に不都合が出てなければ良いのだが……。
ここに居るのも謎が多い。でも、それを今考えたところで何にもならないので今考えるのはやめておく。
「マスター、見えました。あれが惑星ノアですよ!」
「おー……思ったより小さい?」
「ですね。惑星ノアの直径はおおよそ、5200キロになります」
「エリルとグレスは?」
「惑星エリルはおおよそ1万キロ、グレスはおおよそ4万キロになります」
「グレスだけ極端に大きいね……」
「そうですねえ」
やっぱりグレスは木星とか土星とか、その辺りに似てるのかな? 比較対象が太陽系の惑星しかないが、僕としてはそれくらいしかないので、仕方がない。
ガラス越しで見える惑星ノアは、何処か黒ずんでいる感じな惑星で、やっぱりというか水星を連想させるような見た目だった。
大気が薄いっていうのも、水星と似てるしね。
「着陸しますか?」
「え? 着陸?」
「はい! 宇宙船なのですから、離着陸できるのは普通じゃないですか?」
「そ、それはそうだよね」
いや、そうなんだけどね。
SFA内でも、惑星に宇宙船を着陸させられたし、させた後は宇宙船から降りて惑星探索を出来るようになるけどそれは、ゲームでの話。
実際考えて欲しいのが、酸素とかそう言ったものがあるのかという事。それがないと、死んじゃうよ……そうでなくても、ノアの温度って昼間が600℃、夜が-200℃って言ってたよね。普通に死ぬって。
「あーなんだそんな事ですか。探索したい場合は、これがありますよ!」
「ん?」
アストラルがそう言いながら、彼女の周りに出現しているパネル? のようなものを操作する。何かを取り出したのかな? 操作を終えると、手には何かスマホくらいのサイズの長方形の形をした道具を持っていた。
「これは?」
「携行保護フィールド展開装置”イージス”です」
「携行なんだって?」
「携行保護フィールド展開装置”イージス”です。略してCPFDDAです。まあ、これでも長いのでイージスデバイスと言った方が良いですね」
「イージスデバイス……?」
「はい。これはワープドライブや、宇宙船のシールドエネルギー等にも使われている
「何それ……どういう仕様なの?」
「そうですね……分かりません!」
「分からないのかい!!」
おい、分からないのかよ!
「詳しい原理は分かりませんが、
「ほぇ……」
「この
「変わってる?」
いやそもそも、カエナイト鉱石ってなんだ……なるほど、宇宙にはまだ見ぬ鉱石があると言う事か。いやそりゃ当たり前か……前にも言ったように地球ではまだ宇宙の1%すら、解明できてないのだから。
「はい。周囲の気体を吸収して、酸素に変換して吐き出すと言う、植物に似た特性を持っています」
「酸素を?」
「そうですよ。それで現在分かっているのが、その吐き出される酸素が程良い感じとなっている訳です。なので問題無く呼吸が出来る訳です」
「でも、鉱石だよね?
「それについては、T-エネルギーが関わってきます。このエネルギー自体は、発見こそされたのはかなり昔ですが、今でも分からない事が多いです。そんな謎の一つに、変化すると言う特性を持ちます」
「変化?」
「はい。一緒に組み合わせた物によって、その特性を引き継ぐのですよね。例えば……今回の
周囲の気体を吸収して酸素にする特性を持つカエナイト鉱石と、合わせた物によって変化するT-エネルギー……それらを組み合わせたら。
「カエナイト鉱石の特性を持つエネルギーになる……」
「そうです。カエナイト鉱石の特性を持つエネルギーが生まれます。T-エネルギーは組み合わせた物によって特性を引き継ぎますが、T-エネルギー自体は変わりませんので、そのままワープドライブ用にエネルギーを使う事も出来ますし、シールドエネルギーを補充する事も可能です」
「なるほど?」
うーん、何となくは分かった気がする。
T-エネルギーは特殊な特性を持ち、組み合わせた物の特性を引き継ぐ……今回の例だと、カエナイト鉱石に特性だな、それとT-エネルギーが組み合わさると、さっきの酸素に変換すると言う特性がT-エネルギーに引き継がれると言うか、くっつくと言うか……。
でだ。そんなくっついたT-エネルギーを使って展開する
「まあ、物は試しという事で行ってみましょう!」
「えっ!? ちょっと心の準備が……」
「百聞は一見に如かず、さあ行きますよ、マスター! 私を信じてください!!」
「分かった、分かったから押さないで!?」
そんな訳で僕はアストラルに連れ去られるがままに、宇宙船の出入り口まで向かうのだった。
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