Act.03:出会うTSロリ少女


「ん?」


 一通り操作に慣れたところで、見慣れない名前のアイテムがあったのでそれに目が止まる。


「意思の卵?」


 何これ。

 こんなのあったっけ? いや、インベントリー内に入ってるアイテム全てを記憶している訳じゃないから何とも言えないんだけどさ。


 気になったので取り出してみると、透明のカプセルの中に入った一つの卵が手元に現れる。何処からどう見ても卵です、ありがとうございました。


「食用? うーむ?」


 ツンツン


「アームさん、どうかしたの?」


 何とも言えない気分で卵を見ていると、背中をツンツンされる。アームさんが肩の近くまで伸びていて、卵の方を指していた。


「これ?」


 ガシャン。


「何か分かるの?」


 そう言うとアームさんがまた伸びて、操縦席の端っこの方にある何か良く分からないカプセルが半出しになっている所を指し示す。


「ここ? ……あれ? この大きさ……」


 手元にある卵を入れているカプセルと見比べてみる。もしかして同じサイズか? 半分だけ出ているカプセルに触れ、上に引っ張ると何ともまあ、あっさりと取れる。


 取れたカプセルと手元のカプセルをくっつけて確認すると、やっぱりというか同じサイズだったようだ。


 次にカプセルの入ってたその穴に卵の入ってるカプセルを合わせてみると、こっちもまたぴったりだった。いやまあ、カプセルが同じサイズなんだからぴったりなのは当たり前なんだけどさ。

 何の機能か分からないけど、アームさんがそこを入れるようにといった感じに動作しているので、入れて見る事にする。


「うお!? 消えた? いや中に入ったのか」


 カプセルを嵌め込んでみると、そのまま穴の中に自動的に入って行ってしまった。


「眩しっ!?」


 何も起こらないな、と思ったら突然光りだして僕は咄嗟に目を瞑る。目を瞑っていても分かるくらいの眩しい光……閉じて正解だったかもしれない。


「マスター!! 会いたかったですよ!!」

「うぎゃ!?」


 しかし、そんな僕の身体に体当りされたような衝撃が襲ってくる。目を瞑っていた僕は対応出来ず、そのまま衝撃と共に後方へと倒れてしまう。


「イタタタ……一体何が? は? え?」


 僕にがっしりとしがみついている一人の少女が目に入る。見た感じ、今の僕と同じくらいの身長だが、髪色は銀ではなく綺麗な金色をしている。

 いや、誰だよ。


 僕にこんな女の子に知り合いが居る訳ないだろう。というかそもそも、ここ宇宙船の中だよ!? 君何処から出てきたの!?


「んふふふ~マスター」

「えっと……君は? それとマスターって何?」


 さっきから僕の事をマスターって呼んでるけど、何それ。いや僕の趣味じゃないよ!? 勝手にこの子が呼んでいるだけだし……マスターってなんだ、マスターって……。


「私のこと分かりませんか?」

「うん、ごめん。何処かで会った事ある?」


 僕の記憶にはない。


「さっきまで一緒に居たじゃないですか!」

「え?」



 さっきまで一緒に居た? 何の事だ? 僕は一人だったはずだけど……いや待て。もう一人居たかもしれない。あれ人と言って良いのか分からないが、それしか思い当たるのがないんだよね。


「アームさん?」

「正解です! 鏡を欲しいと言っていたので出しましたし、使い方が分からなかったみたいなので、教えたじゃないですか。アームでしか動けなかったのがもどかしかったです」

「あれは君が操作していたの?」

「そうですよ? とは言え、正確にはアームが本体という訳ではないんですが」


 そう言えばずっと一緒についてきていたな。何処から出てきてるのか謎だったけど……それで、あのアームが本体ではないとの事。それならこの子は何者だ?


「改めまして、マスター。私の名前はアストラルです。この名前、聞き覚えありませんか?」

「アストラル……」


 何処かで聞いた事がある。んーと、何だったっけ……ええとついさっきまでやっていた中にあったよね、長い間一緒というか相棒だった……そこでハッとなる。


「もしかして……この宇宙船?」

「思い出しましたか? 嬉しいです! その通りですよ。私の名前はアストラル……マスターに付けて頂いた大切な名前です」


 SFAには、自分で作った宇宙船に名前をつけられる機能がある。一度付けると、再命名するには課金アイテムが必要になるが、そこまで高くはない。

 一人のプレイヤーが持てる宇宙船は拡張なしのデフォルトであれば十隻まで。それ以降、持ちたい時は課金通貨を使って、拡張するしかない。

 で、複数の宇宙船は持てるが、当然操作できるのは一隻のみだ。用途別に分けてる人や、気分で乗り換えてる人、コレクションしてる人等、様々ではあるけど。


 それぞれの宇宙船には一度だけ無料で名前をつけられる訳だ。それで僕の宇宙船の名前が、アストラルだ。だけどアストラルは知っての通り宇宙船であって、こんな女の子ではないはずだが。


「私はこの宇宙船『アストラル』のコアです。このように、宇宙船内の様々な物にアクセスできます」


 アストラルと名乗る少女が手を動かすと、宇宙船内に浮かんでいる半透明なウィンドウが勝手に動き出す。他にも何も映ってなかったモニターに色んなものが映し出される。


「コア……」

「はい、宇宙船が私の本体という事になります。先程、入れてくれた意思の卵がインプットされたので私という存在がこうやって生まれました」


 コア……そんな単語はゲーム内では聞いた事がない。いや、コアという言葉自体は使われてたりするけど、こうやって意思を持って人型になれるなんて、流石にゲームではないぞ。


「やっぱりここは現実なのか」

「はい? 現実ですよ? 何かおかしいですか?」

「いや、何でもないよ」

「そうですか? それはそうと、会いたかったですよマスター!!」

「うあああっ! 暴れるなって!」


 アストラルは再び僕に抱きついては、身体をジタバタさせてくる。嬉しいのは分かった、分かったから一度離れなさい!




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