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「えーーーーー!」


 大声になってしまった。


「嘘だと思う? ほら」


 そう言って彼女が差し出したスマホの画面には、見慣れたシャケトワールの作品管理画面。そして、ユーザー名は…… Maxwell ……


「うそ……」


 そう言ったきり、私は二の句が告げられない。


「もしかして、他の誰かだと思った?」言いながら、みっちょんは小首をかしげる。


「……え、ええ」


「誰?」


「それは……」


「もしかして……米泉先生?」


「!」


 いきなり図星を差されて動揺してしまった。それをみっちょんは見逃さなかったようだ。したり顔でうなずく。


「やっぱりね……でもね、それは間違いじゃない。だって、確かに Maxwell は、本来彼のアカウントだったからね」


「!!」


---


「どういうこと……ですか?」


 呆然としながらも私がそう言うと、みっちょんは話し始めた。


 米泉先生は確かに Maxwell としてシャケトワールで活動していた。だけど、3か月くらい前に、いわゆる「ゆるパク」の被害にあったらしい。文章そのものをパクるわけじゃなく、ストーリーの流れとか登場人物の設定とかをパクる、というヤツだ。しかもその「ゆるパク」した小説が、コンテストで入選してしまったという。


 一度は彼も運営に通報しようと思ったらしいが、著作権に詳しい知り合いに聞いたところ、著作権侵害に当たるかは微妙なところらしい。それで彼は作品投稿を辞めてしまった。だけど、退会してしまうとそれまでフォロワーに残したコメントやらメッセージやらが消えてしまうし、他のユーザーからメッセージが飛んでくることもあるので、アカウントを彼女に託したのだという。その辺りは几帳面な彼らしい、と思う。


「ほら、彼は女子に冷たいでしょ?」みっちょんが私をちらりと見ながら続ける。「でもね、それは男子に対しても似たようなもの。彼は基本的に人間が嫌いなのよ。それはね、彼が今まで色んな人から嫉妬されたり、裏切られたりしてきたから」


 ドキッとした。やっぱり、そうなんだ……


「そんな彼が教員っていう仕事を選んだのも意外な感じがするけど、どうもね、彼にとって教え子は、人間と言うよりは商品って感覚らしい。確かに、学校を製造業メーカーと考えれば、製品プロダクトは生徒だわね。そんな風に割り切ってるみたいよ」


「……」


「どうしたの?」


 うつむいて黙り込んだ私の横顔を、みっちょんが怪訝な表情で覗き込む。


「私と、同じだ、って……思いました……」


「え? どういうこと?」みっちょんが驚いた顔になる。


「私も……中学の時にいじめられて……それ以来、人が信じられなくなって……だから、同中おなちゅうの生徒がいない、地元から離れた高校に入ったんです」


「ああ、そう言えばあなた、下宿生だったわね……でもあなた、クラスではいつも友だちと一緒に、楽しそうにしてるよね?」


「そう見せかけているだけです。本当に心を許している友だちなんか……いません。一緒にいれば、私にも色々メリットがある、っていう……割り切った、付き合いなんです」


「……」


 今度は、みっちょんが黙り込んでしまう番だった。


「Maxwellさんの作品読んで、なんか、私とすごく似ているな、って思ったんです。人が信じられなくて……裏切られて、苦しんで……この人なら私のこと、分かってくれそう……ううん、私ならこの人のこと、分かってあげられる、って……」


「それは幻想よ」ピシャリ、とみっちょんが言った。「人と人が100パーセント分かり合える、なんて言うのは、ね。恋愛も同じ。幻想に過ぎない。でもね」


 そこでみっちょんが優しく微笑む。


「人は幻想なしに生きていけないのも確かよ。あなた、タカちゃんが……いえ、Maxwell さんが好きなのね」

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