第4話 夢現、それは想いが叶う願いのカタチ。
意識の覚醒は一瞬だった。
起床する時特有の眠気も体のだるさも無い。
ベットに横たわり布団がかけられている。
何故……
思考を支配するのは純粋な疑問。
「……懐かしい……」
視界にひろがる景色は何処か懐かしさを感じさせるもので。
これが何処なのか理解した時、形容しがたい思いが涙とともに溢れ出た。
涙も引き、落ち着きを取り戻した頃。
私は、ようやく状況を飲み込めた。
「ここは私の部屋……。」
そう、ここは確かに私の部屋だ。
だけどどうして。私は娘の病室にいたのに……。
枕元に置いてあるぬいぐるみのクマさんには見覚えがある。
娘からの誕生日プレゼントだ。忘れる筈がない。
壁に掛けられた予定がビッシリ詰まったカレンダーだって……。
その内容は大半がお見舞いだ。こんなカレンダー、私以外に持っているわけないだろう……
それに、これは――。
そっと、思い出に手を伸ばした。
「……………………。」
それは幼い頃の写真。
年相応に無邪気な表情を見せる少女と、それを見守り顔色を次々と変える母親の姿。
それは少し成長した、けれど未だ幼さを残す頃。
真新しい制服に身を包んで望んだ入学式。
初めての子達に囲まれた中で、その表情は少し固い。
笑って、泣いて、喧嘩しては仲直りして、そうやって成長した少女の一生。
見て触れて、思い出す。
切り取られた一枚は、確かに温かさを感じさせる。
私は、幸せだった――。
そう、考えずにはいられない。
――ふと。
馴染み深い甘い匂いに思考は中断された。
同時に、微かな物音も聞こえてくる。
甘い匂いはパンケーキ、微かな物音はソレを焼く時のものだろう。
高鳴る胸をそのままに部屋を飛び出した。
視界に映る人影は慌ててやってきた私に気づいた様子はない。
しかし、私は知っている。
間違えるはずがない。
腰まで伸びたその長い髪を。
次の工程を確認するように呟く、その声を。
そして――
「あ、起きた? もうすぐで出来るからちょっと待っててね」
振り返りざまに見せる、慣れ親しんだその笑みを。
「大丈夫だよぉ。今回は自信作だから」
唇を噛み締める。
――今すぐにでも泣き出してしまいそうになるから。
そっと息を吐く。
――ざわついた心を落ち着かせるために。
「そうだね、心配してない。」
ありがとう。と彼女は言った。
ここが夢の中なら……。
口から出かけた言葉を思いと共に飲み込んだ。
「うん。おはよう」
笑った。
屈託のない純粋な笑みで。
交わした。
話すことさえ叶わぬと知ったあの日以来。
触れる。
そこに確かな温もりがある。
いるのだ、ここに――。
私の目の前に。
触れた熱を、胸の内に抱き止めた。
これは
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