第6話 エロ

「えっち! この絵、とってもえっちだわ!」


「大声でなに言ってんだ、お前」

 急いで部室にやって来た咲夜は、本日発売の月刊らららを鞄から出すや(校則違反である)、一心不乱に読み始めた。やがて、御神楽先輩と薄紅先輩がやって来て、遅れて宝来がやって来ても咲夜は顔も上げなかった。

 ららら発売日の咲夜はいつもこんな感じである。

 漫画部のみんなもこの半年で咲夜のそんな行動を分かってきている為、何も言わない。読み終わると、幸せそうな表情で俺に雑誌を手渡し、そして感想を求め、二人で語り合うのだ。

 月末の恒例行事みたいなもん。

 しかし、本日の咲夜はなんだかいつもと様子が違っていた。

 メイド服はむしろ見慣れてきた(結局演劇出演承諾したのだろうか……)。そうではない。

 鼻息荒く、妙に興奮しているのだ。

「この絵見てっ! とってもえっちなのっ……って、あ。ごめん。ネタバレとか気にしない? 先月から始まった『こまおくり、さきおくり』の話したいんだけど」

「今そこだけパパッと読めばいいだろ。ちょっと待ってろ」

 そうして、いつもなら前から順番に読み進めるところを今日は真ん中辺りから読み始める。

『こまおくり、さきおくり』とは、先月から月刊らららで始まった新連載である。

 江戸時代、独楽(こま)と早紀(さき)と呼ばれる二人の少女が理不尽な罪を着せられ、島流しに合うというなかなか攻めたストーリー。

 無人島かと思われた島には二人の少女が住んでいた。それが先月までの流れ。

 絵のタッチがとても繊細且つ、大胆なストーリーで、気にはなってた作品だ。

 読んでみる。

 ……む、むむむむ。むむむむむ。むむむむむむ。

 これは――

「……えっちだ」

「でしょう!? 良いのかしら良いのかしら!? こんなの!? ちょっとドキドキしちゃったんだけど!?」

 ちょっとじゃないと思う。

「へえ。僕にも読ませて下さい」

 冷静な声とは裏腹に、宝来が全力で挙手していた。中学生か。いや、男子高校生か。

 しかし、欲望に素直なのは良いことだ。だがな。

「ちょっと待て。読むなら先月号からにしろ……あった。ほれ」

 後ろの棚から引っ張ってきた雑誌を横からもの凄い勢いでむしり取られる。

「一応わたしもチェックしておこうかな」

「し、仕方ないなー。じゃ、じゃあ、あたしも」

 揃いも揃ってなんだこの部活は。

 それから漫画部室内で暫しの間、エロ漫画――じゃなかった……萌え四コマ雑誌の廻し読みが始まった。




 十五分後――。

「見事なお尻でした」

「そ、そこまで、え、えっちだったかなあ?」

「でもこの漫画、雑誌で浮いてない?」

「普通だと思うけど……。そんなに浮いてないよ」

「あ。やっぱそうね、この人。元エロ漫画家ね。元ってか現役かしら?」

 咲夜はみんなが読んでいる間に、スマホで作者を調べていたようだ。こちらに向け見せてくる。

 画面には作者のSNSが表示されていて、十八禁名義『夢久里知沙希(ゆめくりちさき)』での単行本の発売情報を作者自らが宣伝していた。エロとノーマルで名義を使い分けているようだ。女の子と女の子が絡み合って、見つめ合っていた。

「夢久里知沙希先生……ほう。百合メインですか。珍しいですね。ありがとうございます。覚えました」

 真横に宝来の顔があった。近い。

 買うなよ。俺らまだ十六だからな。

「しっかし、先月号は抑えてたんだな。今月からなんかもう作者の性癖大開放と言うか、抑えるのを止めたというか……」

 海、風呂、着替え、そこかしこで描かれる少女の艶めかしい裸体に絡み。わざわざコマぶち抜きを使って。なんと一話分の情報量である。

 いいのか、これ。薄紅先輩が言うように若干やり過ぎ感がある。

 江戸時代という時代設定もあり、下着を描かないようにしているのか、秘部だけは隠れるようにしているが、本当にそれだけだ。

「話はつまんない」

 薄紅先輩がバッサリと切り捨てた。

 そう。先月は良かったのに、今月からエロに走ったことでむしろ駄目になったような……俺個人の感想だが。裸を描きたいが為の展開っていうのが見え見えで、これはちょっとな……。

 この絵柄で先月のように少女たちの交流を丁寧に描いて欲しかった。

 せっかく絵は上手いし、設定も面白いのに。

 エロは添え物であるべきだ。

 まして萌え四コマ漫画なら言わずもがな。

 入れなくても良いとさえ思っているぞ、俺は。ほ、本当だぞ。

 作者の得意分野であるとは言え、過剰なのは良くない。やり過ぎ、ダメ、絶対。


「えっちなのは好き! えっちな絵は正義! やっぱりえっちなのって大事!」


 今の俺の葛藤が台無しだ。

「ど、どうしたの? 咲夜ちゃん? なんだか知能指数下がってない?」

 御神楽先輩が失礼なことを言っていた。が、その通り。

「御神楽先輩。例えばですよ? 事前情報無しになんとなく見た映画がとんでも無く傑作だった時とか、評判に釣られて読んだけれど、そこまで期待してなかった漫画が夜眠れなくなるくらい面白くて興奮した経験とかありませんか?」

「あるけど……?」

「それですよ」

「どれ?」

「つまり今、咲夜は今月の『こまおくり、さきおくり』に当てられて興奮してるんです。普段の三割増しで阿呆になっています。たまにあるんです」

「えー……? これ、そんなに面白いかなあ?」

 薄紅先輩は再びぱらぱらと雑誌を捲って確認している。疑問符が頭の上にいくつも浮かんでいるのが見えた。

「えっちえっちえっちえっちえっちえっちえっちえっちえっちえっちなふとももふとももふとももふとももふとももふとももえっちなおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいえっちなお尻お尻お尻お尻お尻お尻……」

「ひい! 咲夜が壊れたっ!」

 妙な呪文を唱え、皆がドン引きする中、咲夜は原稿用紙に一心不乱に絵を描き始めた。

 数分後。

「ほう。これは」

「わあ……すごーい咲夜ちゃん。いつも描いてるのよりなんだか……」

「……」

 男性陣は勿論のこと、御神楽先輩も見入っていて、薄紅先輩は顔を真っ赤にしていた。そのくらいに咲夜の描いた絵は端的に言ってエロかった。

 女の子が全裸で体育座りしている。構図としては良く見られる。だが、ふとももに押し潰された胸がやたらめったら肉感的でエロいのだ。お尻もかなり際どい。

 しかも、描いたキャラはららら掲載で、近年アニメ化してヒットを飛ばした既存のキャラクター。漫画部の面子ならみんなが知っているだろう。こんな格好は作中で絶対しないだろうなって作品だ。

 ほんわか系の部活物なのだ。ファンアートでもここまでエロい絵は見たことない。いやあ、眼福。

「私、決めた! もっともっとえっちな絵が描けるようになる! それで、もっと自分の四コマでこんな感じのえっちなシーンを描くの!」

「やめといた方がいいと思うぞ」

 咲夜のわけのわからない箇所で説明過剰なその作風に、その上キャラのエロいシーンを盛り込みまくったら、もう要素もりもり過ぎて胃もたれするぞ。引くことを覚えろ、引くことを。この前のことと言い、全部足そうとするな。

 伝えると、咲夜はちっちっちと指を振った。

 俺、その動作する奴生まれて初めて見たよ。懐かしさすら覚える。最近見ないよな。

「香苗ー。そこを両立させるのが漫画家としての腕の見せ所じゃないの? 今月のは確かにやり過ぎだと私も思うけどさ。でもこのエロ漫画家、四コマ雑誌で連載持ってまだ二回目よ? まだまだ試行錯誤の時期なのよー。例えばこの先、ある程度四コマ漫画の定番が板に付いてきて、たまーにこういうえっちな絵を描いてくれるくらいになったらもう最高でしょ?」

 言いたいことは分かる。

 たまに見れる方がありがたみが出るってやつな。

 萌え四コマ特有のほんわかした雰囲気。

 そして、たまに間に挟まれるキャラの際どいシーン。

 良い。それならば良いと思える。

「そうだな。やっぱり積み重ねが大事だよな」

「でしょ? 出せばいいってもんじゃないことくらい私にだって解るわ。モロよりちょい出しよね」

「あんた達、よく男女でエロ談義できるね……」

 薄紅先輩の呆れて言う。

「少女漫画とかだって、それっぽいシーン多いですよね?」

「う……まあ」

「割とエグ目なやつもあったりしますよね。ちっちゃい頃、初めて少女漫画雑誌親に買って貰って読んだ時、結構びっくりしませんでした? 私、今でも記憶に鮮明に残ってるんですけど。タイトルからどういう回でどういう流れでそう至ったのか事細かに説明できるくらいには」

「し、知らないっ!」

 再び顔が朱に染まる薄紅先輩。

 教室でもこんな感じで同姓からいびられてるんだろうなあ。

「香苗は……家族がオタクだからそういうの目にする機会はいっぱいあったでしょうね」

 まあな。父も母も姉も兄も妹もオタクだから昔っからそういう漫画、アニメは手の届く範囲にいつでもあった。

 でも、薄紅先輩が珍しいだけで、俺たちネット世代はみんなそんなもんだと思うぞ。エロは割と手の届く範囲にある。アクセスしたらすぐそこに。

「でもその中でどれが一番印象に残ってるかって言ったら、そりゃあ十歳にも満たないエロガキなんだもの。ストーリーがどうこうより、一番えっちな漫画が印象に残ってるんじゃない?」

「十歳の俺に謝れ。全く反論できないぜ」

「香苗くん……」

 やめてください御神楽先輩。俺をそんな目で見ないで下さい。なんにも知らないガキなんてそんなもんです。知らないものを知りたくて仕方がないんです。

「私、結構目にする機会があるのよね。とある掲示板のまとめサイトとかの記事で、『お前らが初めて萌えたキャラクターは?』とか『少年漫画のお色気シーンで一番印象に残ってるシーンは?』とか『お前らが初めて精つ」

「やめい」

 言いたいことはわかったから今すぐ止めろ。

「青春?」

 薄紅先輩が素敵な勘違いをしていた。どうかそのままでいて。

「そういうネットの記事眺めてると、やっぱり人間の記憶に強く印象付けるにはソフトなエロより、ある程度ハードなエロの方がいいのかなーって思ってたのね? こういうの必要悪って言うのかしら?」

「言わない」

 エロを悪と定義すんな。

 言わんとすることは分かるよ。初めて漫画雑誌を読むのならやっぱり人気どころの週刊少年誌が多いと思うんだが、今も昔も結構過激なお色気シーンが載ってるよな。

 初めて買った漫画雑誌に初めて見る漫画のお色気シーン。少年の記憶には強く刻み込まれるだろう。

「でも、ネットが発達して、いつでも高純度なエロが供給出来るようになった昨今、そういう衝撃を受けるような体験ってしにくいわけじゃない? 子供たちにとって」

 俺がそうだったかな。

 深夜アニメを家族は居間で見まくってたし、パンチラから時にはベッドシーンまで見飽きる程に見てきた。しかし――。

「それはもう時代の流れ的に覆せないんじゃないか? 大方、子供たちに衝撃を与えられるくらいにえっちな絵を描けるようになるとか言うつもりなのかもしらんが、今後ネットが衰退していくなんてことは無いわけだし。

 それに、子供たちが萌え四コマ漫画って読むか? 萌え四コマ雑誌の読者層って二十代以上の男がメインだろ?」

 たぶんな。

 偏見である。

 俺たちみたいなのは特殊な例で、割とディープなオタや、仕事や私生活に疲れたリーマンが癒やしを求めて買ってるって印象がある。

「だからね? アニメ化して原作に手を出してみたら思いの外エロくてドキドキした――って、あの感覚を子供たちに届けたいのよ。切っ掛けの一つとしてはあるでしょ? アニメから原作に手を伸ばすのって」

「まるでサンタクロースですね」

 宝来が言った。サンタも良い迷惑だな。

 溜息を押し殺して言ってやる。

「取らぬ狸のなんとやらってやつだな。今からアニメのことなんて考えていても仕方がないだろう? ま、それを承知で言わせてもらうが、原作に手を出したら思いの外エロかったって経験は俺にもあるよ。なんというか、嬉しい誤算みたいな感覚で、特した気分にもなるし、子供の頃にそういう経験があると、下手すれば一生ものの思い出となる作品になるかもしれん。

 今は配信サービスの時代だ。深夜アニメは深夜しか見れないという感覚もほぼ無いと言っていい。カラオケの時もお前は言っていたが、子供たちが自ら視聴するものを選ぶ時代。初めて見たアニメが萌え四コマ漫画原作ということもあるだろう。ゴールデンタイムにアニメなんて殆ど放送されていないことだしな。

 近い将来、咲夜の作品がらららで掲載され、人気作品になり、アニメ化する――そんな未来もあるかもしれん。原作が萌え四コマ漫画だと知った子供たちが、少ないお小遣いで購入してみたのが咲夜の漫画で、思いの外エロくて衝撃を受けるなんてこともな。

 だが、咲夜の言ってるそれは意表性を突くやり方だろ? 要はアニメでは健全な萌え四コマ漫画としての体を崩さないわけだ。すると、咲夜の言う自分の作品でお色気シーンをたくさん描くということと矛盾してくるんじゃないか?」

「今日はいつになく語るわね……矛盾しないわよ。萌え四コマ漫画のアニメ化ってだいたい原作の一巻から二巻ぐらいの範囲でしょ? いってもせいぜい三巻まで」

「ああ。ん? つまり……」

「そう。三巻以降、キャラたちの絡みも熟れてきて、読者がその作品のキャラたちの関係性を把握し、愛着も湧いてきたところで、少しずつえっちな流れを作品に組み込むのよ! そして、コミックスのおまけページとかでもちょいちょい本気のえっち絵を見せつけていく!」

「なに、こいつら。きもい」

「いき過ぎた愛というものですね」

「あはは……まあ、でも……」

「言ってることは割と普通です」

 なんだか三人から遠巻きにされている気がする。

 しかし、最後に宝来が言ったことはまさにその通りだった。コミックスの話と話の間の余白にキャラのサービスシーンが描かれることは結構あるし――もしくはカバー裏とか。

 話が進んで来たところで、水着回を挟むなど、展開やテクニックとしては割とありがちの部類だ。

「うむ。咲夜にしては健全だな。普通過ぎてこれ以上この話に発展性が無いとも言えよう」

 テンションの割に今日はいつになくまともな意見だった。

 しかし、そんなことを思っていたのも束の間、それまでテンションの高かった咲夜はへなへなとテーブルに突っ伏した。

 形の良い胸が潰れ、物憂げに溜息を吐いた。俺は何気なく訊く。

「どうした」

「でもねえ。やっぱり、少年漫画のラブコメのエロシーンには勝てないのよねー」

 沈黙してしまう。

「……どういうことだ?」

「いやね? 少年漫画、特にラブコメにおけるエロシーンって作者がそれまで溜めに溜めていた究極の見せ場だと思うのね? 

 今までは主人公とヒロインのそれまでのすれ違いを丁寧に描いてきた。そして、唐突に訪れたハプニング的な二人の急接近イベント。体育倉庫イベントとか掃除用具ロッカーイベントとか思わず隠れちゃって体と体が密着的なあれね? 口ではあーだこーだ言いつつも、いざそれっぽい雰囲気に陥ってしまう二人。

 ものっすごい近くにヒロインの顔があって、手が変なところに当たってヒロインは嬌声をあげて、薄暗がりの中、二人のありとあらゆる感覚が鋭敏になって、オノマトペでコマいっぱいに描かれた『ドキドキ』の文字のオンパレード……もう読んでてめっちゃドキドキするわ」

 男子中学生か。

 例が具体的過ぎる。

 何か実際にある漫画を思い浮かべているんだろう。宝来はうんうん頷き、御神楽先輩は「あー……」と該当する漫画を思い浮かべている様子。この場で薄紅先輩だけがぴんと来ていないようだ。

「シチュエーションから来るリビドーってやつかしら。その点、萌え四コマ漫画だとどうしてもねー。ヒロインのエロ描写って言っても、お風呂に水着? 後は身体測定とか? 着替えイベントの時に普段着ないような際どい服を着せてみるとか? でもいくら普段は見せないおっぱいやお尻や裸を見せたところで、パッパッと一コマだけ描いて終わりでしょ? いくら私が本気出してコミックスの余白にえっちな絵を描こうが、このネット社会、もっともっと高純度なエロはすぐに手に入っちゃうし、えっちな流れを漫画に組み込もうとしても、四コマだとたかが知れてるの……少年漫画ラブコメのエロには勝てない……これじゃあ少年たちを満足してあげられない……」

 エロ漫画でやれよ。

「十分えっちじゃないの? 裸におっぱいだよ?」

 薄紅先輩の素朴な疑問。

「うーん、なんて言うんでしょう……萌え四コマ漫画は健康的なエロス? 違うな……なんていうか、かわいいだけでエロくないんですよ! わかりますか!?」

「? わかんない。結局男女の絡みが必要ってことならそれを描けばいいんじゃないの?」

「萌え四コマ漫画は基本的に女の子同士のゆるいコメディですよ。男が出てくるラブコメちっくな作品もありますが、そこは私の目指すべき場所じゃありません」

 目指すべき場所がはっきりしているなら、変に迷走する必要はあるんだろうか。基本に忠実なのは別に悪いことじゃない。

「ジャンル間違ってんじゃないか」

「そんなことはわかってんのよ。私はね? それでも萌え四コマ界のレジェンドエロスの称号を勝ち取っていきたいのよ!」

 初めて聞いたぞその情報。そして今作っただろ、その造語。誰だよ、萌え四コマ界のレジェンドエロスって。○○に○○か?

「あのー、女の子同士の絡みじゃダメなの?」

 それまで聞きに回っていた御神楽先輩が小さく手を挙げた。

「ダメじゃないです。むしろいいです。けれどあんまりやりすぎるのもよくないです。やり過ぎると雑誌が違ってきます。月刊百合苺とかでやった方がいいです」

「あー百合苺」

 百合苺は主に女の子通しを描いた作品が集まった雑誌である。それだけ聞くとらららと変わらないように思えるが、萌え四コマ雑誌よりは若干恋愛方面での絡みが強い。

 コメディがガチかの違いである。やるとこ間違えんなよってことだ。

 御神楽先輩はそっち方面にも詳しいようだ。流石。

 しかし、難しいんじゃないか? アニメ化云々は置いておくとしても、今咲夜が言ってることは、ラブコメ漫画の積み重ねとシチュエーションから来るエロスと同等か、それ以上のエロスを、萌え四コマ漫画でも再現出来ないだろうか、ということだ。

 かと言って過度な百合は駄目だと言う。

 エロスの追求は漫画家にとって、重要な課題なのだろうが、掲載雑誌の違いという壁はどうしたって存在するし、エロスを追求する余り、『こまおくり、さきおくり』みたいな作品の雰囲気に合わないエロを入れるのも何か違うだろう。


「わかっておりませんね」


 宝来がぽつりと呟いた。

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