第2話 恋バナ

「ラブコメの参考にしたいから香苗と宝来で恋バナしてみてくれない?」


「は?」

 放課後。

 部室に向かう廊下にて咲夜が突然俺に言ってきた。本人はなんでもないことを言ったとでもいうように、俺の方を見てもいない。

「そっち系の趣味に目覚めたのか?」

「は?」

 何言ってんの? といった顔で今度は俺が訊き返される。

「なに勘違いしてんのか知らないけど。違うわよ。ラブコメよ、ラブコメ。女子同士がよくやるでしょ? 修学旅行、夜の旅館で、クラスの誰が好きーとかそういうの。漫画でもアニメでも小説でも現実でも。定番でしょう?」

 もちろん冗談だ。

 こいつが変なことを言い出す時は大抵漫画のネタにしたいからだ。

 だが。

「だったら女子同士でやればいいだろ?」

 咲夜が描いているのはジャンルとしては萌え四コマの筈だ。男同士の恋バナなんか参考にならないだろう。

「女子同士の恋バナってなんかドロドロしてて私の中だと違うのよねー。中学生だったらまだ違ってくるんでしょうけど、高校生にもなるとねー。気になるっちゃ気になるけど、私としてはそんなこと知りたくないし、知りたくもなかった話まで聞けちゃうというか。もっとあまーい、ふわふわーっとしてるのが聞きたいというか」

 それはそれで聞きたいが。

 フィクションとリアルは違うってか。そっちはあまり掘り下げたくないな。

「……俺と宝来が二人で恋バナしたとして、女子中学生がするようなあまーい、ふわふわーっとした恋バナが聞けると思うのか?」

「香苗はともかく、宝来は夢見がちだし、するんじゃないかなと思って。だからやって」

 宝来に対するこの扱いは俺たち一年生の共通認識になってきている。いじめとかじゃ無しに『うん、まあ、宝来だしね』で済まされる男というか。

「やってて。ネタ振りするくらいは出来るだろうけど、どこでするんだよ」

「今から。部室で。私も聞いてなくちゃ意味ないでしょ? みか先輩と林檎ちゃんにはもう休み時間に伝えてあるから」

 休み時間からそんなこと考えてたのか。

「……まあ、いいけどな。あんまり期待するなよ」

 わけのわからんことに付き合わされるのには慣れているが、今回のこれはその中でも問題のない部類だろう。

 この時はそう思っていた。

 そう。予想を裏切る男。津毬宝来である。

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