第14話 死体

「ビアンカ、お前は負傷兵の治癒をしろ」 


 シオンは軍馬から飛び降りた。


「はっ」


 ビアンカが軍馬から飛び降りて、負傷兵の治癒に駆けつける。

 シオンは、魔力を体内で練り上げた。

 巨大な魔力がシオンの体内で渦巻く。

 シオンの碧眼が、鋭く光り魔物達を見据えた。


「消えろ。魔物ども」


 シオンは右手を軽くあげた。

 同時に一五歳の少年の右手が青く光り輝く。


 シオンは無詠唱で、『雷撃』を放った。

 空に無数の雷撃の球が浮かび、即座に稲妻とかして流星のように魔物たちに頭上から降り注ぐ。


 三百匹をこえる魔物が一瞬で稲妻で焼かれ、黒焦げとなって絶命する。 その凄まじい威力にヴァーミリオン騎士団たちは絶句した。


 やがて、魔物達が物言わぬ死体と化して地面に転がると、騎士達が歓歓声を上げた。


「す、凄い」

「シオン様、万歳!」

「シオン様に栄光あれ!」


  騎士達が、感動に震えながら一五歳の少年を讃仰する。


「まさか、これ程とは……」


 ビアンカは茫然とした表情を浮かべた。シオンが強い事は理解していた。だが、ここ数年シオンが戦う姿を見ていないため、間近で見たシオンの戦闘力に驚愕したのだ。


 クレアとペイモンは、シオンが無敵なのは当然だと思っているので、特に何の感慨もなく冷静に観察していた。


「『雷撃』ですか。シオン様ほどの御方になると、このような初歩的な魔法でもこれだけ広範囲の敵を殲滅できるのですね」


 クレアが、研究者のような顔つきで言った。


「バチバチと綺麗だったのです~」


 ペイモンが、不思議な感想を述べた。


「全軍、しばらく待機」


 シオンが、騎士達に告げて一人、集落を歩き出す。


(何か、嫌な予感がするな)


 とシオンは思った。

 魔物達が、魔法付与の魔導具を持っていただけではない。

 もっと嫌な感覚がする。


 前世において三百年間戦い続けたシオンの直感が告げていた。

 この村落に何かある。


 やがて、シオンは集落の中で一番大きな建物に入った。

 木で出来た不潔な建造物だった。

 陽光が殆ど差し込まず、昼間なのに不自然な程に薄暗く、陰鬱な場所だった。


 シオンは照明魔法を使った。

 シオンの前に光球が現れて、室内を照らす。

 黒髪碧眼の少年の前に、夥しい数の人間の死体があった。

 巨大な穴が掘られており、そこに人間の死体が折り重なって廃棄してあったのだ。


(嫌な予感があたった……)


 シオンは目を閉じて吐息をついた。

 正確には分からないが、人間の死体の数は千を越えているだろう。

 魔物が人間を拉致していたぶるのはよくある事だ。

 だが、この人間の死体は不可思議な点がある。

 どれも、干からびた干物のようになっている。


(血を抜かれたか……)


 吸血系統の魔法を受けると人間はこのようにミイラのように干からびるのだ。


(この村落には大鬼(オーク)や小鬼(ゴブリン)しかいなかった。だが、吸血系統の魔法を、大鬼(オーク)や小鬼(ゴブリン)が使える筈がない。吸血系統の魔法を使える敵が別にいる!)


 シオンが、そう思った刹那、巨大な魔力を察知した。

 その魔力で邪悪で禍々しい凶兆をはらんでいた。

 大鬼(オーク)や小鬼(ゴブリン)とは比較にならない魔力量を持つ敵が接近している。


 シオンは、剣を握りしめて建物から飛び出した。

 身体強化の魔法を使って、疾風のように駆けた。

やがて、シオンの視界に、クレアとペイモン、ビアンカ、ヴァーミリオン騎士団たちが見えてくる。


 彼女達は明らかに動揺していた。

 クレア、ペイモン、ビアンカ、そして騎士達が空に視線を送っている。

 シオンは彼女達の視線を追った。

 視線の先にある空。

 そこに魔人族が、浮かんでいた。

 


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