第13話 魔物の村落
偵察隊の騎士によると小鬼(ゴブリン)と大鬼(オーク)はおそらく三百名前後。集落には粗末な小屋が建てられており、そこに魔物どもが居住しているという。
堀や城壁などはなく、侵入は容易いとの事だ。
「如何致しますか? シオン様?」
ビアンカがシオンに尋ねる。
シオンは弱冠十五歳だが、当主代行である以上、この討伐軍の総帥である。作戦はシオンが決めねばならない。
「即時、魔物どもの集落に進撃する」
シオンは宣言すると即座に軍馬を走らせた。
ヴァーミリオン騎士団五十騎がシオンに続いて森を騎行した。
魔物達の村落まで、あと五分という距離でシオンは探知魔法を発動した。
シオンは一瞬で、魔物達の村落を感知する。
(魔物の総数は243匹。予想よりも多いが問題はない)
この程度ならシオンがいなくても、ヴァーミリオン騎士団だけで十分に勝てる。
「魔物どもを鏖殺しろ。我がパリス王国の民を殺した罪を魔物どもに贖わせるのだ!」
シオンが、抜刀して吼える。
応じて、ヴァーミリオンの騎士五〇騎が咆吼して剣、槍、盾を構える。
魔物達の村落は、堀も城壁もないため侵攻は容易かった。
騎馬は堀や城壁があれば突撃できないが、平地ならばその突撃力と機動力を十全に発揮できる。
魔物達の村落で、魔物が騒ぎ出した音が聞こえる。
魔物の偵察隊がいて、こちらに気付いたのだろう。
だが、もう遅い。
ヴァーミリオン騎士団は、シオンを先頭にして、魔物達の村落に突撃した。
薄汚い泥と木の小屋から小鬼(ゴブリン)と大鬼(オーク)が、出てきた。その半数が武器を持っていない。明らかに狼狽している。
魔物達は、ヴァーミリオン騎士団の奇襲攻撃に動転しているのだ。
シオンが、大鬼(オーク)にむかって軍馬を走らせた。
馬上からシオンの長剣が一閃し、大鬼(オーク)が真っ二つに両断される。体長二メートルをこえる巨大な大鬼(オーク)が、両断されて地面に転がるのを見て、魔物達が恐怖の叫びをもらした。
シオンは、二撃目の斬撃を馬上から振り下ろした。
シオンの長剣から斬撃が飛び、光の刃となって宙空を走る。飛翔する斬撃は小鬼(ゴブリン)五匹の首を易々とはね飛ばした。
シオンの後ろにいるクレアとペイモンが、武器を構えた。
クレアは、弓。ペイモンは細剣(レイピア)である。
「クレア、ペイモン! お前達は俺の背後から離れるな。後衛として戦う事に徹しろ」
シオンが長剣の血をはらう。
クレアとペイモンは、既に大鬼(オーク)や小鬼(ゴブリン)程度なら軽々と倒せる強さを持っている。
だが、万が一を警戒してシオンは二人に後衛として戦うように命じた。
「はい」
「分かりました~」
クレアとペイモンが答える。
「シオン様も私の後衛にいて下さい!」
ビアンカが、弓矢で小鬼(ゴブリン)を射殺しながら言う。
「俺はもうビアンカよりも強いぞ」
シオンが苦笑する。
「それでも心配なんです! 親の心子知らずとはこの事です!」
ビアンカが少し怒ったように言って矢を射放つ。矢は小鬼(ゴブリン)の額に命中し、小鬼(ゴブリン)が絶命する。
「ビアンカが、俺の母親とは知らなかった」
シオンが、軽口を叩いて肩をすくめる。
「ちゃかさないで下さい。シオン様がいなくても、この程度の魔物ならば我らだけで十分です。どうか後衛で待機して下さい」
ビアンカが、弓を速射して次々と小鬼(ゴブリン)と大鬼(オーク)を射殺す。
エルフは生まれつき人間に数倍する魔力と身体能力を保有している。
その上、ビアンカは実戦経験が豊富にある。麾下のヴァーミリオンの騎士達も、練度の高い猛者達である。
シオンが戦わなくても大丈夫である以上、当主代理たるシオンを守護しようとするのは当然だった。
「了解。俺は暫く後衛で様子見をする」
シオンが、剣を片手の軍馬を下がらせ、クレアとペイモンの脇にならぶ。その間もドンドン、魔物達は討ち取られ、数を減らしていく。
(確かに俺がいなくても余裕かな)
そうシオンが楽観視した時、後方から騎士の悲鳴が聞こえた。
シオンが、後方に軍馬ごと振り返る。
クレアとペイモンも軍馬を操り悲鳴をした方向に顔をむけた。
三人の視線の先で、ヴァーミリオン騎士団の騎士が、鮮血を吹き出して地面に倒れていた。
騎士の大腿部が、鎧ごと切り裂かれて出血している。
小鬼(ゴブリン)が、負傷した騎士めがけて、剣を振り下ろした。
シオンの宝玉のような碧眼が光った。
シオンの手から稲妻が迸り、小鬼(ゴブリン)に直撃する。小鬼(ゴブリン)は悲鳴を上げる暇も無く絶命して地面に転がる。
シオンは、すぐさま馬を走らせて、負傷した騎士を治癒魔法で治癒する。負傷した騎士は気絶しており、仲間達がすぐに円陣の中にかくまう。
(小鬼(ゴブリン)がなぜ、こんな武器を持っている?)
シオンの碧眼に疑念の色が浮かぶ。
死体となった小鬼(ゴブリン)の手に、魔法付与がなされた剣が握りしめられていた。
中級レベルの魔法付与がなされた剣だった。
小鬼(ゴブリン)や、大鬼(オーク)のような知能の低い魔物が、魔法付与という高度な術式をできるわけがない。
シオンは視線を周囲に巡らした。
大鬼(オーク)や小鬼(ゴブリン)の中に、魔法付与された武器、防具を装備している者たちがいる。
魔物達のもつ魔法付与がなされた武器は、切れ味と硬度が強化されており、ヴァーミリオン騎士たちの鋼の鎧を貫き、鋼の盾を切り裂いた。
騎士達の間から悲鳴と鮮血が湧き起こる。騎士達が次々と負傷していく。
「ちっ」
シオンが舌打ちをした。
(もう悠長に様子見などしていられん)
「方陣を組め!」
シオンが号令を下した。
騎士達が負傷した仲間を庇いながら、方陣を組む。
50名の騎士達が、円形の陣形を組んで防御態勢を取る。
シオンは即座に、魔法障壁を発動した。
青い半球形の魔法障壁が宙空に浮かび、ヴァーミリオン騎士団を囲い込んで守る。
大鬼(オーク)や小鬼(ゴブリン)たちが剣や槍、斧で攻撃するが、シオンの張った魔法障壁の結界に弾かれて手出しができない。
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