第9話 誓約
シオン、クレア、ペイモンの三人は練兵場に移動した。
陽春の心地良い微風が、練兵場に吹いている。
シオンは、クレアとペイモンに魔法の指導をしていた。神童で通っているシオンは二人の教師をしているのだ。
実際シオン以上の適任者はいないであろう。
「さて、では授業開始だ。昨日の授業内容を覚えているか?」
シオンが、クレアとペイモンに問う。
「はい」
とクレアが、謹厳な顔で答える。
「魔力の効率的な運用法についてです」
「その通りだ。クレアは賢いな」
シオンが褒めると、銀髪金瞳のエルフの少女は嬉しそうに頬を染めた。
シオンは眼に微笑を浮かべるとペイモンに視線を投じた。
「ペイモン。魔力の効率的な運用法とは具体的にはなんだ?」
「え~とですね~」
ペイモンは指を顎に当てて考え込む。やがて、口を開いた。
「魔力量が百の人がいたとします。その人でも、うまく魔力を使用すれば、魔力量が二百の人に勝てる……でしたか?」
ペイモンが、いささか自信がなさそうに答える。
「ああ、それで大体正解だ。ペイモンも優秀だな」
「えへへ~」
ペイモンが、満面の笑みを浮かべる。
本質的にシオンは褒めて伸ばすタイプの教師だ。褒めた方が生徒は、学習意欲が促進される。生徒を叱るばかりの教師など教師失格である。、
「つまり魔力の効率的な運用法を習得すれば、戦闘力は一気に跳ね上がるということだ」
シオンが説明する。
魔力量が、百の人間と二百の人間がいたとする。
百の人間が、魔力操作が上手く、百の魔力を十全に活用できるなら、百の力が出せる。
だが、二百の人間が、魔力操作が下手くそで、一割しか活用できないなら、二十の魔力しか実戦で使用できない。
この場合、戦闘になったら、前者が勝利する。
「そういう訳で魔力量を増やすのも重要だが、魔力操作も大事だという事だ」
「はい」
「は~い」
クレアとペイモンが揃って声を出す。
「魔力操作が上手くなれば、少ない魔力でも威力の強い魔法を使える。こんなふうにな」
シオンが、掌を
次の瞬間、轟音が響いた。
木人が爆発を起こして粉微塵に吹き飛ぶ。
初歩的な爆裂魔法で爆発を起こし、木人を吹き飛ばしたのだ。
クレアとペイモンは、畏怖と賛嘆の表情を浮かべて硬直した。
そして、爆発があった場所とシオンを交互に見る。
「凄い……」
「爆発した~」
クレアとペイモンが、尊敬と讃仰の思いを瞳に映し出す。
「最小限の魔力でも、魔力操作が上手いとこの程度の威力は出る」
シオンが微笑する。
「さて、精密な魔力操作を行うための基礎訓練をするぞ」
「「はい」」
クレアとペイモンが頷く。
2週間ほど前から、毎日、少しずつ行っている基礎訓練である。
「では目を閉じて、自分の体内に宿る魔力を認識しろ」
シオンがそう言うとすぐにクレアとペイモンが従う。
「体内に宿る魔力を感じたら、自分の手、足、胸などに動かしていくイメージを持つ。最初は、右手に魔力の全てを集中させるイメージだ。あくまでイメージだから、実際に出来なくても構わない。わずかでも右手に魔力を集めるんだ」
「「はい」」
シオンの指導の下、一時間ほどイメージトレーニングをした。
その後、シオン、クレア、ペイモンは馬に乗って移動した。目的地は北の森である。
シオンは馬の手綱を操りながら、隣を騎走するクレアとペイモンに問う。
「さぁて、授業の続きだ。一ヶ月前に俺とクレアとペイモンは【誓約】をかわした。【誓約】とは何か覚えているか?」
「誓約とは約束のことなのです」
ペイモンがポニーの上で答えた。
シオンが碧眼に微笑を揺らした。
「正解だ。だが、より詳しく説明すると?」
「【誓約】とは魔法による約束です。一ヶ月前に私とペイモンがシオン様とかわした誓約は、【
クレアは精緻な記憶力を駆使して答えた。
「素晴らしいぞ、クレア」
シオンが褒めると、エルフの少女は頬を染めて喜んだ。
「誓約とは、魔法儀式の一つだ。俺とクレアとペイモンは、《眷臣の盟約》という、【同志となる誓約】をかわしたので、運命共同体とでも言うべき間柄となった」
シオンは馬を進めながら説明を続ける。
《
1,
2,シオンの膨大な魔力を、クレアとペイモンに供給できる。
3,パーティーメンバーが倒した魔物の魔力を平等に受け取れる。
つまり、シオンが倒した魔物の魔力をクレアとペイモンも吸収できる。逆に、クレアが、魔物を倒した場合は、シオンもペイモンも、その魔力を吸収できる。
効率よくレベルアップできるという事だ。
説明しているうちにシオンの前方に森が見えてきた。
「だからこそ、森での魔物退治が重要なわけだ。俺が森で魔物を狩れば、その分だけクレアとペイモンは、魔物の魔力を吸収してレベルアップできる。実戦経験も積めるしな」
シオンは森の手前で馬を下り、クレアとペイモンにも下馬するように命じた。
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