第7話 12歳
月日は流れ、シオンは十二歳になった。
シオンは、城の図書室の椅子に座り、静かに本を読んでいた。
既にシオンは「神童」、「天才」と周囲の人間に認識されており、学問、武芸、魔法は教師をつけずに独学をしていた。
独学が出来て自由な時間が多いことはシオンにとっては有り難い事だった。特に魔法においては現世の魔法文明が劣弱過ぎて、教師に習う事など何もない。
シオンは、パラリと本のページをめくった。
この本は、大陸の歴史について書かれた本で、シオンのお気に入りの本の一つである。
シオンが今読んでいる箇所には、一万年前にあった伝説の戦争、「覇権戦争」についての文章があった。
シオンは十二歳になるまで多くの本を読んで知識を得た。
シオンの前世、朝木玲司が生きていた時代はおよそ二万年前。
そして、約一万年前にあった「覇権戦争」という大戦こそが、現代の魔法文明が衰退した要因だった。
一万年前、大陸は二つの国家によって、ほぼ等分に支配されていた。
東にエリアドール王国。
西にオルドロス帝国。
エリアドール王国、オルドロス帝国は、ある時、突如として戦争状態に突入した。開戦の経緯は諸説あって定かでは無い。
エリアドール王国が先に侵略して、オルドロス帝国に攻め込んだという説もある。また、逆にオルドロス帝国こそが、エリアドール王国に先制攻撃を仕掛けて侵略を開始したとの説もある。
大陸史上最大の戦争である「覇権戦争」は熾烈を極めた。強大な魔法を駆使して軍隊が衝突し、一つの会戦で、十万人もの死者が出たことさえあった。
エリアドール王国、オルドロス帝国はともに死力を尽くして戦った。すなわち総力戦である。
軍隊には全ての魔導師が、軍人、市民を問わず徴兵された。その後、手練れの魔導師の多くが戦死し、魔法が使える者が不足。ついには魔法が使えるなら子供まで徴兵されて戦争にかり出された。
覇権戦争は二十年以上続いた。
両国ともに、敵国の都市も、街も村も無差別に攻撃し、敵国の人間ならば、女子供老人、赤子に至るまで殺し合った。
ついには、地球の原子爆弾に相当する超位魔法、魔導兵器を使用し、エリアドール王国、オルドロス帝国は双方ともに滅亡した。
両国の滅亡と同時に、覇権戦争は終結した。
覇権戦争によって大陸の人口の六割が、死亡したとも言われている。
この時を境に魔法文明は衰退の一途をたどる。
覇権戦争で、魔法を使用できる人間の大部分が死亡し、魔導書を含めて、魔法に関する書物が焼かれ、それを保管する図書館も灰燼と化した。
シオンは、本を閉じると肩を竦めた。
(これでは魔法が衰退するのも当然だな)
この本を読み返す度に、シオンはそう思う。
十二歳になり、知識と情報を得て、現代の世界について少しは詳しくなってきた。
現代は、二万年前と比べて魔法文明は衰退しているが、それ以外は二万年前とそう変わらない。
人間族、亜人と呼ばれるエルフ、ドワーフがいて国家を形成している。
政治システムは、王族、皇族が支配する専制国家が多い。
そして、魔獣、魔物が、存在すること。
魔人族という人間に近い外見をもった邪悪な種族が存在して、人間と敵対していること。
その他にも文明形態、文化、風習において、二万年前と近似した部分が多い。そのためシオンは、現代に溶け込みやすく生活し易かった。
シオンが、本を閉じて、次の本を読もうとした時、ノックの音が図書室に響いた。
「入れ」
シオンが言う。
ドアが開き、メイド服を着た二人の少女が室内に足を踏み入れた。
「失礼致します、シオン様」
「失礼致します~、シオン様」
二人の少女はシオンに綺麗な一礼をした。
二人とも美しい外貌をしていた。
一人は銀髪金瞳のエルフの少女だった。
彼女の名は、クレア=ペルガモン。年齢は、八歳。
ビアンカの娘で、母親に似た夢幻的な美貌の所有者だった。
長い銀髪を背中に垂らし、尖った耳が、銀髪の間から覗いている。
もう一人の少女は、ペイモン=トリグラフという。
年齢は八歳。
翠緑色(エメラルドグリーン)の瞳をしており、亜麻色の髪をやや短めに切り揃えている。
ペイモンの先祖は奴隷階級から、ヴァーミリオン伯爵家に買われて自由市民となり、ヴァーミリオン伯爵家に仕えるようになった。
二人とも、生まれた時からシオンの近衛侍女となるように定められており、一年前からシオン専属の近衛侍女見習いとして仕えている。
「シオン様、お食事の用意が出来ました。どうぞ、食堂へお越し下さい」
クレアが、八歳とは思えない謹厳な表情を浮かべて言う。
「早く食べないと、冷めちゃうのですよ~」
ペイモンは、八歳の少女らしい口調で告げる。
「そうか。もう昼食の時間か……」
シオンは窓を見た。太陽が中天に浮かび、図書室に強い日差しが差し込んでいた。
「シオン様は、相変わらず、本を読むと時間をお忘れになるのですね。眼が悪くなりますので、どうかご注意を」
クレアが、実直な口調で指摘する。
「ペイモンは、眼鏡をかけたシオン様も、カッコイイと思うのです~」
ペイモンが些か間の抜けたセリフをはいた。
シオンは苦笑すると、
「二人とも大分近衛侍女らしくなってきたな」
と言って食堂にむかった。
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