終章 - 3 高尾山(4)

 3 高尾山(4)




 さらに慌てて帰宅した謙治が開口一番、

「確か、優衣さんだろ? 永井、優衣さんだ」

 などと言ってきたものだから、真弓の動揺は一気に極限まで高まってしまった。

 永野芽依だから、永井優衣という名は絶対似ている。

 それに二十年ぶりに、とくれば、

「優衣さんはもう死んでるんですよ! 死んでいる人に会えるって、二十年ぶりに会えるって言ったら、自分も死んじゃうってことじゃないですか!?」

 絶対にそうだと決めつけて、探しに出ようと謙治へ必死に訴えた。

 謙治の方もただ事ではないと感じたらしく、

「優衣さんの両親は今、どちらにいらっしゃるんだろうか?」

 真剣な顔してそんなことを真弓に尋ねる。

「そういえば一度、あちらから手紙が届いたことがあったわ。確か、お父様からだったと思うんだけど」

 そんな手紙さえ見つかれば、少なくともその頃住んでいた住所はわかる。

 しかし家の中どこを探しても見つからず、謙治が思わず声にしたのだ。

「それってまさか、涼太宛じゃないんだよな?」

「あら、そうよ、そうだわ! 涼太宛……わたし、何やってるのかしら」

「それじゃあ、こんなところにある筈ないだろう!」

 それから二人は無言のままで、涼太の部屋へと駆け込んだ。

 するとなんとも呆気なく、永井秀幸からの手紙は見つかる。

 机の引き出しの一番上に、なぜか大学の卒業証書と一緒に収まっていた。

 そうして二人は車に飛び乗り、手紙に書かれた住所へ向かうのだ。

 すでに夜七時を回っている。

 なのにいきなり訪ねて、息子の行き先を知らないかなどと聞こうとしていた。

 普通に考えれば非常識と思える行為だが、行き先を知るにはこれしかないというのが二人の出した結論だった。

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