終章 - 3 高尾山(5)
3 高尾山(5)
そして運のいいことに、優衣の両親は揃って在宅。
最初こそ、かなり驚いた顔をしていたが、玄関口で事情をザッと説明すると、相手もすぐにただ事ではないと感じたらしい。
とりあえず居間へ通されて、優衣の父、秀幸がさっそく声にした。
「彼は本当に、医者になっていたんですね……」
「はい、でも、どうやら医者も辞める気のようです」
医師免許証が破り捨ててあったと告げて、
「それで伺いたいのですが、実はうちの息子が、優衣さんに会いに行くと申していたようなんです。もしも、そんなところがあるとすれば、それはいったい、どこだと思われますか?」
「いなくなったのは、今日、なんですよね?」
「はい、昨日までは、普通に勤務していたようです」
「そうですか……それでお二人は、これからまだ、お時間ありますか?」
そう言われて、真弓と謙治の表情が微妙に揺れた。
「思い付くところが、一箇所だけあるんです。その同僚の方がおっしゃっていたように、二人がデートらしいデートをしたところと言えば、そこしか、ありませんから……」
その次の瞬間には、謙治が思わず声にする。
「やっぱりそうなんですか? それで、二人は頂上まで?」
そう言って、謙治は秀幸の言葉を待ったのだ。
ところが彼が返事をしてくる前に、妻である美穂が先に口を開いた。
「わたしたちも一緒にまいります。そちらがよろしければ、ですけど……?」
そう言ってから、秀幸の方に向き直り、二人して何か合図のような仕草を見せた。
実際のところ、謙治らにとっても有難い話なのだ。
二人とも、高尾山には近付いたこともなかったし、どこをどう探したらいいかもわからない。
結果、謙治らの車で一緒に行くことで話が付いた。
「彼には、本当に感謝しているんです。いろいろと、たくさん助けてもらいましたし、だから、このくらいはさせてください」
申し訳ないからと断る謙治に、秀幸はそう言って、逆に頭を下げたのだった。
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