第7章 - 2 真実(3)

 2 真実(3)

 



 だから彼は起こそうと思う。

 まずは邪魔なマスクを取り去り、ちょっと揺らせば目を覚ますだろう。

 そう思うまま、彼は優衣の顔からマスクを取ろうとするのだった。

 するとすぐに、なにやら後ろが騒がしくなった。

 優衣の父親が何かを叫んで、と同時に右腕をギュッと掴まれる。

 見れば看護師がすぐそばにいて、彼の腕を両手でしっかり掴んでいた。

 そしてその顔は医師に向けられ、見つめられたその医師は、ゆっくり視線を秀幸へと向けた。

「いいんです。お願いです。彼の、したいように、させてあげてください」

 秀幸はそう言ってから、その顔をゆっくり涼太へ向けた。

 それからほんの少しだけ微笑んで、美穂の肩に手を添え力を込めた。

 そうして彼の腕は自由になって、涼太はゆっくり酸素マスクを外していった。

 そこに現れた優衣の顔は、見たこともないほどに青白い。

 それでも実際、優衣の顔に違いなく、相変わらず可愛らしいと、彼は今さらながらそう思うのだ。

「おい、起きろよ……」

 可愛らしい彼女のために、涼太は静かにそう告げる。

 しかしまったく反応がなく、今度は少しだけ声を大きく言ってみた。

「んなあ、起きてくれって!」

 その時だった。

「もうやめてちょうだい!」

 そんな声がして、バタバタっと美穂がベッド脇まで走り寄った。

 すぐさま秀幸も飛んできて、涼太を押し退けようとする彼女を後ろからギュッと抱きしめる。

「どうしてよ! 離してよ! こいつを、ここから追い出すんだから!」

「もういい! もういいじゃないか! きっと優衣も、彼と話がしたいって言うに決まってる! なあ、そうだろう!?」

「馬鹿なこと言わないでよ! 話なんてできないでしょ? できるわけないじゃない! 息をするのだって、生きてるだけで精一杯なのよ!!」

「それでもだ! それでもなんだよ!」

「もうやめて!! やめてちょうだい!」

 あまりに大きい声だった。

 秀幸も一瞬息を呑み、それでもすぐに何かを言い掛ける。

 ところがそんな短い時を縫うように、フッと何かが入り込んだ。

 その静寂に、唯一ポツンと囁いたのだ。 

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