第6章 - 3 沖縄(3)

 3 沖縄(3)




 秀幸からの電話など、高尾山の一件以来、ずいぶん久しぶりのことだから、

 ――何か、あったのか!? 

 そんな思いにドキドキしていた涼太に向けて、秀幸の声は意外にも明るい。

「最近、具合もそこそこいい感じなんで、沖縄で静養させようと思うんだよ、だから涼太くん、群馬はしばらく留守にするんで……」

 気温が低いのはよくないからと、秀幸はそれだけ告げて、さっさと電話を切ってしまった。

 ――帰ったら連絡するから? そんなことあいつ、なんも言ってなかったのに……。 

 そんな涼太の不安を見透かすように、次の日の朝早く、今度は優衣本人から電話があるのだ。

 優衣は内緒で掛けていると言い、小さな声で沖縄について教えてくれた。

「ごめんなさい、パパが、先走って電話しちゃって……」

 ところが本当は、内緒などではまったくない。

 受話器を握り締める彼女の声を、傍で聞いている人物が何人もいたのだ。

 それでも優衣は構うことなく、涼太への言葉を重ねていった。

「そうなの、うん、群馬ってけっこう寒いから、やっぱり暖かい方が心臓にもいいんだって。でも、やっぱり病院はヤダし、それでなの……うん、発表の頃までには戻ってくるから、そう、たった三ヶ月間……」

 ――嘘だろ? そんなに長い間行ってるのかあ? 

 そこそこショックを受けていた。

「そう、たった三ヶ月だし、わたしも電話しないから、涼太くんも試験まで、わたしのことなんか忘れて、絶対、勉強がんばってね」

 そう言って、優衣は名残惜しそうに電話を切った。

 試験までの三ヶ月間は電話しない。

 というのはもちろん、勉強に専念させたいという一心からだ。

 それにしたって、

 ――たまの電話くらい、したっていいじゃないか……。  

 そんな思いがないわけではなかった。

 しかし新しい高校に受かってしまえば、これまで以上に会うことだってできる。

 ところがだ。

 もしも不合格なんてことになれば、

 ――俺は、プー太郎ってことになる……。

 そうなってしまえば、そうそう優衣とは会えなくなるし、もう一回受験して、高校一年生をやり直しだ。

 だから絶対に避けなければならない。

 そして高校に入っても、精一杯優衣と一緒に勉強して、

 できることなら……、一緒に大学生活を送りたい。

 とにかく何がなんでも、彼女の生活にいつも寄り添っていたかった。



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