第3章  -   4  変化(3)

 4  変化(3)




「あ、ごめん、もうすぐお母さんたちが来るかもしれない」

 慌ててそう言う優衣に向かって、

「ま、別にいいんだけどさ、挨拶ぐらいしたっても……」

 なんてことを返しながらも、涼太はさっさと優衣に別れを告げたのだった。

 そうして病室を出て、ナースステーションの方へ歩こうとした時だ。

 彼はその後すぐに、後ろを向いてしまうのだ。

 ――あ、そうだ、忘れ物を思い出した!

 なんて感じで、そのまま反対方向へ歩き出す。

 ナースステーションの向こう側から、どうにも見覚えのある顔が歩いてきたのだ。

 きっとまだ、彼だと知ってはいないだろう。こっちが気付いたその瞬間、その顔が横を向き、窓口に屈んで何か言葉をかけていた。

 きっと隣にいるのは優衣の父親で、これ以上ないくらいの間一髪なのだ。

 アブナイ! アブナイ! と顔を歪ませながら、涼太はそのまま歩き続けた。正面は行き止まりだから、しばらくそこから窓の外でも見ていよう。

 そう思っていたところに、一番奥にある病室の扉がいきなり開く。

 中から夏川麻衣子が現れて、彼は思わず声にしてしまった。

 ちょっと話があるんですけど……なんて、ぜんぜん考えてなかったのに、気付けば声になっていて、

「あら、そうなの? じゃあ、ナースステーションで聞くわ」

 と言う返しを驚きながら涼太は聞いた。

 幸い、二人して歩き出した頃には、両親の姿はなくなっている。

 となれば、後は何を話すかだったが、こっちの方もなかなかどうして、スッと頭に浮かんできたのだ。

 ――女の人が病室にいたんだけど、あれってやっぱり……?

 優衣のお母さんかと思ったが、挨拶しないで出てきてしまったと、そんな報告をしようと即行決める。

 ところがナースステーションに入った途端、夏川が若い看護師に呼ばれてしまった。

 医師から内線が入っていると言われて、彼女はさっさと受話器を取った。

 ――どっか適当に座ってて。

 そんな視線を涼太へ向けるが、どっか適当になんて座っていられる場所じゃない。

 だから邪魔にならないよう注意しながら、夏川の後ろに涼太は立った。

 辺りはそこそこ騒がしい。

 ところが相手の声が大きいせいか……?

 受話器の性能が凄すぎるのか……?

 やたらと話が聞こえてくるのだ。

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