第2章  -  3 過去(4)

 3 過去(4)




 そうして麻衣子はそのまま、喫茶室から優衣の病室へ足を向けた。

 外は容赦ないくらいのザーザー降りで、その雨音が建物の中まで響いて聞こえる。


 きっとそのせいなのか……麻衣子が扉を開けた時、彼女はまるで気付かなかった。

 扉にしっかり背中を見せて、窓から何かを見下ろしている。


 え? と思って、麻衣子はそのまま扉を閉めて、慌てて一階まで走ったのだ。 それから急患入り口に立ち、思わずその嬉しさに涙が出そうになっていた。


 視線の先に彼がいた。


 透明の雨がっぱを着込んで、必死にサッカーボールを蹴っている。


 ――こんな雨の日にまで、やらなくたっていいのにね……。


 そんなふうに思いながら、麻衣子はほんの少しだけ頭を垂れて、


 ――ありがとう。


 胸いっぱいにそう告げたのだった。

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