第140話


「よ、よろしくな宇崎…はは…」


何人かの同級生と昼食を食べるなんてほとんど初めての経験だった。


俺は緊張を隠すために愛想笑いをしながら、宇崎の隣に腰を下ろした。


そして持ってきたパンの包みを破り、食べ始める。


俺以外の生徒たちは、俺という異分子がいることも特にきかけず、楽しそうに談笑している。


無理に混ざっても場の空気を凍らせるだけだとわかっているので、俺は一人でパンをもそもそと食べた。


あまりでかいパンでもなかったため、すぐに食べ終わってしまった。


これで俺の昼ごはんはおしまい。


長い間の貧乏生活のおかげで、この程度の食事でも腹が減ることはない。


「あれ…?安藤くん、お昼ご飯たったのそれだけ?」


俺がパンの包みを捨てるために席を立とうとすると、宇崎がそう尋ねてきた。


「そうだが?」


「少ないよ…!男の子なのに…!もっと食べないと成長出来ないよ…?」


「うーん…と言ってもな…俺はこれで十分だか

ら…」


「ほら、私のおかず、分けてあげる…!」


「え…?」


宇崎が自分の弁当の中の肉ボールを挟んで、俺の口元へと運んでくる。


「いやいや、宇崎…!?」


「いいから…!早くっ…私も恥ずかしいし…」


「え…」


気づけば、周囲の生徒たちが少し期待するような顔で俺を見ている。


「わ、わかったよ…」


俺は覚悟を決めて宇崎の肉ボールを口に含んだ。


もぐもぐと咀嚼し、飲み込む。


「ど、どう…?」


宇崎が訪ねてくる。


「お、美味しかった…ありがとう…」


俺がそういうと、宇崎がほっとしたように胸を撫で下ろした。


「手作りだから…美味しくなかったらどうしようかと…」


「そうか…手作りなのか…」


「えへへ…安藤くんに喜んでもらえて嬉しいな…」


「…っ」


屈託なく笑う宇崎に、少しどきりとさせられる。


「いえーい!」


「こりゃ順調だな!」


「フーフー!」


周りでは、北川や他の生徒たちが何やらハイタッチをしたり、俺たち二人を冷やかしてきたりしている。


「…っ!?」


一瞬だけ、背後から刺すような視線を感じだ。


怖いので俺は振り返らないことにした。


…振り返らない。


振り返らないぞ…


「なぁ、安藤!」


「ん?」


俺が背後から突き刺さるさっきに怯えていると、他の生徒たちが次々に話しかけてきた。


「宇崎のこと、火事の中から助けたんだろ…?」


「すげぇよお前!!」


「漫画の主人公みたいじゃん…!」


「どうやったんだよ?詳しく教えろよ…!」


「なぁ、安藤。俺も実は探索者目指してんだ!先輩の中級探索者として色々教えてくれよ!」


「ちょ、待ってくれ!?質問は一人ずつにしてくれ!!」


聖徳太子じゃないので、そういっぺんに尋ねられても答えられない。


俺が一気に押し寄せた質問に困っている中、北川は「はっはっはっ。人気者だな安藤!」と陽気に笑っており、宇崎は「頑張れ安藤くん!」と謎にエールを送ってきた。


そして背後からはずっと刺すような視線を浴び続けていた。


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