第141話


「ふぅ…ようやくか…」


校門をくぐって高校を後にした俺は、安堵の吐息を吐く。


今日一日中、俺の周りの空気が張り詰めていて全然気が休まらなかった。


原因は四ツ井だ。


昼休みに俺が北川たちの誘いに乗って彼らと食事をとった後から、ずっと無言で俺を睨み続けていた。


授業中も休み時間も問わずずっとだ。


俺はなんとか四ツ井と目を合わせないようにして午後の授業を乗り切った。


そしてホームルームが終わると同時に、逃げるようにしてここまできたというわけだった。


「やれやれ…宇崎をどうするかだな…」


宇崎に対する俺の見解は正直自惚なんじゃないかと思っていたが、今日の態度で確信に変わった。


それ自体は、正直言って嬉しい。


異性に気を寄せられて嬉しくない男なんていない。


だが…問題は四ツ井だ。


宇崎はまだ俺に自分の気持ちを告げるようなことはしていないが、四ツ井ははっきりと俺に「好きだ」

と伝えてきている。


ゆえに厄介なのだ。


宇崎のように遠慮することなくガンガン攻めてくるし、宇崎が俺に近づいてきた時明らかに敵対心を剥き出しにしていた。


四ツ井は財閥の令嬢で力がある。


だから扱いには気をつけないといけない。


これ以上宇崎が俺に接近してきて四ツ井の機嫌を損ねると、何をされるかわからない。


「対応を…考えておかないとな…」


宇崎の気持ちを知った上で、いつまでもはっきりしない態度を取るのははっきり言って失礼だ。


どこかで自分の気持ちをはっきりと伝えないとなと俺は思った。


「ま、それはいい。今はそれよりも…」


俺は一旦そのことを保留して思考を切り替える。


すでに俺の歩みは帰路を外れており、ある場所へと向かっていた。


「ここら辺にある最後の集合住宅…狙われる可能性は高い、か」


最近立て続けに起こった二件の火事。


テレビでも指摘されていたように、俺も同一犯による放火なのではないかと疑っていた。


そして付近にはもう一つ、まだ燃えていない集合住宅がある。


もし先の二件が同一犯による放火という仮定が正しいのなら、数日以内にその集合住宅が狙われる可能性が高い。


「杞憂で済むならそれでいい…ともかくまずは見てみることだな…」


このまま多くの住人の住んでいる建物が燃やされることは望まない。


その放火犯が、俺たちのマンションに火をつけないとも限らないため、出来ることなら見つけて対処しておきたかった。


「警察も捜査しているだろうから…俺自身が犯人と間違われないように…怪しい行動は取れないな…」


俺はあくまで帰宅途中の学生を演じながら、その最後の集合住宅の周りを調べるつもりだった。



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異世界で魔王を倒して日本に帰ってきたら、地上にダンジョンが出現しました taki @taki210

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