第103話
結局衛宮は俺が二十階層のボス部屋の前にたどり着くまで俺についてきた。
その間何度も衛宮の命が危険に晒される場面はあったのだが、何やら衛宮は俺と同行することに使命のようなものを感じているきらいがあり、どんなに怖い目に遭おうとも俺の後についてきた。
もうこうなったら俺も今日一日中衛宮を連れ回すつもりでダンジョン探索を続け、そして気がつけば二十階層のボス部屋の目の前のまできていた。
ちなみに、ここまでの道中ですでにオーガ10体を倒しており、クエスト達成のための条件はすでにクリア済みだ。
が、もちろん俺には帰還するつもりは毛頭なく、魔石の換金代を稼ぐためにまだまだモンスターを倒し続けるつもりだった。
「さて、行くか…」
そして魔石をうって稼ぐのに1番効率のいいやり方は何か。
答えはボスを倒すことである。
俺は二十階層のボス部屋に一人で挑むつもりでいた。
なりたての中級冒険者が二十階層のボスに挑むなんて本来あり得ないことだが、しかし、俺には一刻も早く引っ越し代を稼がなくてはならない使命がある。
多少目立ってしまうのは承知の上で、俺はこの先のボスを討伐し、金を稼ぐ必要があるだろう。
そう思って踏み入ろうとしたのだが、背後の衛宮に止められた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ安藤さん!!」
「ん?何だ?」
「そっちはボス部屋っすよ…?まさか入るんですか?」
「そうだが?」
「いやいやいやいや!!!やばいですって!」
衛宮がこいつ正気か?という目で見てくる。
「ボス部屋っすよ…!?20階層の!!!ここまでのモンスターとは桁違いに強いやつがその奥にいるんです…!あんたソロでしょ!無謀すぎますよ…!」
「嫌ならついてくる必要はないが…?」
「…っ」
衛宮がぐっと唇を噛む。
ここまで迷いなくついてきた衛宮も、流石にボス部屋に踏み入るのは躊躇しているようだ。
それもそのはず、ボス部屋に一度踏み込めばボスを倒すまでは外には出られない。
俺とボス部屋へ踏み込み、俺が負けるようなことがあれば、それは衛宮の死に直結する。
おいそれと俺についていって足を踏み入れていい場所じゃないのだ、ボス部屋は。
「どうする?」
俺は衛宮に意思を確認する。
衛宮は頭をガシガシと掻き、それから自分の手に持った端末を見てしばし逡巡するような仕草を見せた後…
「あぁあああああ!!もうわかったよ!!入ってやるよボス部屋!!もうどうにでもなれ!」
やけくそになったようにそう呟いて、こちらへと歩いてきた。
「ついていきますよ安藤さん!ここまできたら…!俺はあんたを信じます…!」
「そうか」
衛宮がはっきりと自らの意思を示す。
それは同時に俺に命を預けるということでもあった。
信じてもらったのなら、応えたくなるのが人のサガというものか。
俺は衛宮を守りながらボスに勝つことを密かに心に誓った。
「では入ろうか」
「うっす!」
そうして俺は衛宮と共にボス部屋に足を踏み入れていく……
ボス部屋の中は暗闇で満ちていた。
俺たちは足音を殺して慎重に奥へと進んでく。
10階層のボス部屋と同じく、そこには四方を大きな4枚岩で囲まれた巨大な空間が存在していた。
今のところボスの気配は感じるものの姿は見えず、当たりを静寂が支配していた。
ボッボッボッボッ!!!
「…」
「…っ!?」
不意にボス部屋の中に光源が現れた。
壁の松明に火が灯り、全体が明るく照らし出される。
衛宮がおどろきに軽く飛び上がる中、俺は前方のボスと思しき『それ』に目を向ける。
「なるほど…二十階層はゴーレムの類か」
『ウゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!』
機械音のような咆哮が上がった。
それと同時に、中央に鎮座していたボスモンスター……巨大なゴーレムが動き出す。
「で、でたっ!キング・ゴーレム…!」
衛宮がそのモンスターの名前を口にする。
キング・ゴーレム。
ゴーレム種の王。
特徴は驚くほどの魔法耐性、と言ったところだろうか。
おそらく中級以下の魔法はほとんど通用しないはずである。
「あ、安藤さん…っ!知ってると思いますが一応言っておくと…ゴーレムって物理攻撃以外、あんまり効かないんすよ…だから、あんたのあの炎のスキルもおそらくあいつには…」
「まぁ、直接は効果ないだろうな」
俺がそう認めると、衛宮が心配そうな視線を向けてくる。
「な、何か策があるんすよね…?」
文字通り俺に命を預けている衛宮が、縋るような目で見てくる。
俺はそんな衛宮に対して大きく頷いた。
「ああ。もちろんだ。まぁ、見ててくれ」
『ウゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!』
俺は咆哮するゴーレムに向かって真正面から近づいていった。
〜あとがき〜
新作のクラス転移モノの
『え?クラス転移で俺だけスキル無し?役立たずは置いていく?いや、俺、異世界召喚二度目で強い魔法たくさん使えるから普通に無双するよ?』
が連載中です。
よろしくお願いします。
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