第102話


『オガッ!』


初撃を俺によって防がれたオーガの変異種は、バッと背後に飛びのいて、こちらをじっと観察し始めた。


「ひぃいいいっ!?あっ…あっ…ああっ」


背後では死ぬ寸前だった衛宮が、尻餅をついて引き攣った声を漏らしている。


「ふむ…」


今のは少し危なかった。


あの一撃が衛宮に直撃していた場合、間違いなく即死していたことだろう。


所詮オーガだと思って油断していた。


「少し気を引き締めないとな…」


俺は誰かを守りながら戦うと言う感覚を久しぶりに思い出していた。


『オグゥ……』


「悪いが、さっさと仕留めさせてもらうぞ」


戦闘が長引けば長引くほどに衛宮に危険が及ぶことになる。


あまり他人の前で力を見せたくはないが、俺は多少強引にでもこのオーガの変異種を手早く仕留めてしまうことにした。


『オガァ……グゥウウ……』


オーガはいまだに遠くからこちらを伺って出方を見ている。


俺はそんなオーガに対して、自分のスキルということになっている火属性の魔法を放った。


「ファイア・ボール」


火球が三発生成され、オーガに向かって飛んでいく。


『オガッ!!』


オーガは身を翻して器用に火球を避けた。


この距離だ。


もとより当たると思っていない。


『オガッ!?』


体制を立て直したオーガが、自身の目の前に迫っている俺に、目を見開いた。


先ほどのファイア・ボールはただ単に気を引くために撃っただけだ。


本来の目的は、オーガが回避行動に専念している間にこうして接近することにあった。


「おらっ!!」


オーガとの距離を一気に詰めた俺は、その胴体に向かって思いっきり拳を放った。


ズブッ!!


『オガァアアアアアアア!!!!』


放った拳が筋肉に包まれた胴体に突き刺さり、オーガが絶叫する。


普通の個体だったらこの一撃で絶命しているところだろう。


だが、俺が今相手にしているのは通常個体ではない。


普通の個体の何倍もの体力を兼ね備えた変異種である。


当然この程度で戦闘不能になることはないだろう。


『オガァアアアア!!』


実際、オーガは腹に穴を開けられながらも、右拳を振り上げて俺に襲いかかってきた。


なので、俺はオーガの体内に拳を突き刺したまま、魔法を発動する。


「ファイア」


『オガァアアアアアアアアア!!!』


オーガの体内が灼熱の炎に包まれた。


オーガは天に向かって絶叫し、その目から、口から炎が溢れ出した。


「ふぅ」


俺は手を引き抜く。


一瞬で内臓を黒炭に変えられたオーガが、支えを失って背後に倒れた。


そのままピクリとも動かなくなる。


完全に絶命していた。


討伐完了だ。


「大丈」


「すげぇえええええええええ!!!」


背後を振り返り、衛宮に安否を確認しようとした俺の声は、衛宮の興奮した大声によって塗り替えられる。


「何だよ今の!?一撃でオーガの体を貫くとかマジかよ!?」


相変わらず端末だけは大事そうに手放さないまま、興奮した声をあげている。


「こんな戦い見たことない…!安藤さん、あんた本当に中級かよ…!信じられない!!」


「はぁ…」


「取れ高やばい…!同接も二万突破したぞ…!こりゃ、瞬く間に拡散されるぜ…」


「拡散…?さっきから一体何を…」


「あっ。いや、こっちの話っす」


俺が端末を覗き込もうとすると、衛宮は慌てて引っ込めた。


「…?」


気にはなったが、まぁいいか。


「怪我がなさそうで何よりだ。先を急ごう」


「ういっす!!」


勢いよく返事する衛宮。


歩みを再開させる俺にぴったりついてきたながら、これで俺も有名配信者に、とか、取れ高半端ない、とかよくわからないことをぶつぶつと呟いていた。



〜あとがき〜


新作のクラス転移モノの


『え?クラス転移で俺だけスキル無し?役立たずは置いていく?いや、俺、異世界召喚二度目で強い魔法たくさん使えるから普通に無双するよ?』


が連載中です。


よろしくお願いします。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る