第101話


衛宮とともに俺はダンジョン探索を再開させる。


予定通りまずはオーガを10体討伐し、クエスト達成の条件を満たすことにした。


「うふふ…安藤さん…頑張ってください、取れ高期待していますよ…!」


暗い通路を進む中、衛宮がぶつぶつと何かを呟きながらついてくる。


「はぁ…」


俺は衛宮に聞こえないように小さくため息をついた。


はっきり言って衛宮は足手纏いだった。


衛宮には明らかにダンジョンのこの回想域で生き残っていけるだけの力がなかった。


それはつまるところ、俺が衛宮を守りながら進まなくてはいけないということで、これは相当な時間のロスになる。


かといって無下に断って置いていくのも気が引けた。


実力のない衛宮を放置すれば、このまま地上まで無事に帰れるかもわからない。


なぜ実力がないのにこんなところまで踏み込んだのか…それから、なぜ俺と出会ってからずっと興奮したように手元の端末を見つめているのか、色々わからないことだらけだが、乗りかかった船だ、俺はこの男をクエストに同行させ、その後無事に地上まで送り届ける

ことに決めていた。


「まぁ…いいか。今日の分は明日取り返そう」


幸いなことに、今日は休日で時間がある。


衛宮を同行させた状態でも最低、オーガ10体の討伐ぐらいは完遂できそうだ。


明日も休日だし、ロスした時間はこの二連休で十分に取り戻せるだろう。


『オグゥウウウ…』


そんなことを考えながらダンジョンの通路を進んでいると、ふと前方から低い唸り声が聞こえてきた。


この気配。


オーガで間違いないだろう。


若干普通のオーガよりも強いオーラを放っている気がするが、おそらく特別に強い個体とかだろうな。


「衛宮。さがってくれ。オーガだ」


俺は背後の衛宮に警告する。


「おっ!!そうっすか!!頑張ってくださいっ!!」


衛宮は何やら瞳を輝かせて脇にずれて、何かを楽しみにするように待機する。


相変わらず端末は俺に向けたままだ。


何をしているのか気になるが…今は目の前の戦闘に集中するとしよう。


『オグゥウウウウウ…』


果たして、暗闇の中から鳴き声の正体が姿を表した。


「うぇ!?」


背後で衛宮が素っ頓狂な声をあげる。


おそらく暗闇から現れたオーガが、普通の個体とは明らかに違う見た目をしていたからだろう。


「あ、赤いオーガ!?」


「変異種だな」


そう。


暗闇の奥から現れたのは、全身の体皮が赤く染まったオーガだった。


この手のモンスターは変異種と呼ばれ、通常種に比べて飛躍的に高い戦闘力を持つという特徴がある。


放つオーラがちょっと強めだなと思ったのは、変異種だったかららしい。


もちろん俺にとってオーガ如き、通常種だろうが変異種だろうが大した違いはない。


さっさと始末することにしよう。


「こここ、これは実物だぞ!!!実力派の中級探索者VS変異種のオーガ…!!!どっちが勝つんだ…!?安藤さん…頑張ってください!」


衛宮が後ろからエールを送ってくる。


若干声が震えているのは、俺が負ければ衛宮も死ぬことになるからだろう。


俺は衛宮を守ることを念頭におきながら、オーガの変異種と相対した。


『オグゥウウウウウ…』


とうとう数メートルほどの距離にきたオーガが、俺と背後の衛宮を交互に眺めた。


牙の生え揃ったその口元が一瞬歪んだように見えた。


『オガッ!!!!』


「ーーーーッ!」


オーガの変異種が掻き消えた。


地面が抉れ、巨体がこちらへと向かって急接近してくるのが見えた。


流石に早いな。


俺は受け身の体制になる。


が、オーガが狙ったのは俺ではなかった。


「へ…?」


『オガァアアアアアアアア!!!!』


オーガは俺を素通りして背後の衛宮へと肉薄した。


どうやら弱い方から先に仕留めるつもりのようだ。


「えっ…は…?」


全く反応が追いついていない衛宮に対して、オーガがその巨腕を振り下ろそうとする。


ギィン!


「俺を無視するな」


バァンッ!


地面を蹴って瞬時にその間に割って入った俺は、おそらくそのまま振り下ろされていれば衛宮の頭部を粉々に打ち砕くことになっていただろうオーガの腕を両腕をクロスして受け止めた。


『オガ…!?』


まさか俺が間に合うと思っていなかったのか、オーガの両眼が驚きに見開かれる。


「う、うわぁあああああ!?」


遅れて、ようやく死にかけたことに気づいたらしい衛宮が背後で叫び声を上げた。



〜あとがき〜


新作のクラス転移モノの


『え?クラス転移で俺だけスキル無し?役立たずは置いていく?いや、俺、異世界召喚二度目で強い魔法たくさん使えるから普通に無双するよ?』


が連載中です。


よろしくお願いします。





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