第104話


魔法耐性のあるキング・ゴーレムに魔法を使っても無意味である。


実を言うとこの認識は間違いである。


確かにキング・ゴーレムには魔法に対する強靭な耐性があり、生半可な魔法では少しのダメージも与えることは出来ない。


ただそれは、生半可な魔法に限った話で、生半可でない魔法……例を挙げるならば古代魔法などを使えば魔法耐性を貫通してキング・ゴーレムを倒すことが出来る。


しかし、もちろん衛宮が同行している以上、この戦いにおいて古代魔法を使うわけにはいかない。


あくまで炎を操る、という俺のスキルに可能な範囲での闘い方をすることになるだろう。


「普通に殴って倒してもいいが…少し工夫を凝らすか…」


正面から肉弾戦を挑んだとて、数秒程度で倒せる自信がある。


しかし、衛宮の前であまり力を使いたくなかったために、俺はキング・ゴーレム如きを倒すためにちょっとした工夫を凝らすことにした。


『ウゴゴゴゴオオオ!!!』


低い咆哮と共にゆっくりと近づいてくるキング・ゴーレム。


俺は10メートル以上の巨躯と真正面から対峙した。


『ウゴォ……』


徐にキング・ゴーレムが巨腕を振り上げた。


俺はじっとしたまま動かない。


「ちょ、何してるんすか!?安藤さん!?」


背後で衛宮が焦りの声をあげる。


「早く逃げてください!?食らったら死にますよ!?」


明らかな攻撃動作を見ても動かない俺に、衛宮が声をあらげる。


「あ、あんたが死んだら俺も終わりなんだ…!何してんだよ!!動け!!動いてくれえええええええええ!!」


「落ち着け衛宮。大丈夫だ、問題ない」


「何を言っ」


ドゴォオオオオオオオオオン!!!


キング・ゴーレムの巨腕が振り下ろされた。

轟音とともに周囲の地面がぐらぐらと揺れる。


「お、終わった…嘘だろ…」


『ウゴォオオ……』


地面に空いた大きな穴を見て、衛宮が呆然と呟く。


おそらく俺がそのまま潰されてしまったとでも思ったんだろうな。


「あ…俺も死ぬ…」


俺は絶望してその場に膝をついた衛宮の肩を背後から叩く。


「おい。俺は死んでないぞ」


「…っ!?うわぁあああああああ!?」


大声をあげて飛びのく衛宮。


いちいち反応が大袈裟なやつだな。


「い、いつの間に!?」


「攻撃をギリギリで避けたんだ」


「ぎ、ギリギリで…?なんのために…?」


「見ろ」


理解できないと言った表情の衛宮。


俺はキング・ゴーレムを見るよう指さした。


「キング・ゴーレムは巨大で強靭だが、しかし動きが緩慢だ。一度攻撃を振りかぶると、次の攻撃までにかなりのタイムラグがある」


俺の指さした先では、キング・ゴーレムが巨大な腕をゆっくりと持ち上げていた。


「いやっ!?解説してる場合じゃないっすよ!?今のうちに攻撃しなくてどうするんですか!?真剣にやってください、こっちも命がかかってるんだ!!」


衛宮が悲鳴のような声をあげる。


自分の命がかかっているからか、随分な焦りようだ。


「落ち着け、衛宮。仕掛けるのは今からでも遅くない」


「け、けど…接近して攻撃するんじゃ…」


「いや、こうするんだ」


俺は炎を操るスキル……ということにしている火属性の魔法をボス部屋の天井に向かって使う。 


「ファイア・アロー!!」


生成された炎の矢が天井に向かって飛んでいき、岩に亀裂を入れる。


「何をして…?」


「見てろ」


首を傾げる衛宮にそう言って、俺は次々と炎の矢を岩の天井に打ち込んだ。


「ファイア・アロー。ファイア・アロー。ファイア、アロー」


合計で十発近く、俺は炎の矢を放った。


ビキビキっと岩の天井に大きな筋が入る。


「まさか…!」


衛宮が目を見開いた。


どうやら俺の狙いに気付いたようだ。


「トドメだな」


俺はほとんど崩れかかったボス部屋の天井に対して、最後の一撃を叩き込む。


「ファイア・アロー」


直後、天井が崩壊し、大岩がキング・ゴーレムに向かって落下した。



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