第95話


それから1時間後…


俺は誘拐犯に指定された場所へとやってきていた。


言われた通りに、金は手元の袋の中に入っている。


トロールやオークを討伐して稼いだこの金は、俺が収納魔法によって常に携帯していたものだ。


誘拐犯は俺の家に押し入ったが金を盗むことが出来なかったために妹を攫ったのだろう。


…ともかく今は美久のために誘拐犯を刺激するわけにはいかない。


今のところ、俺は大人しく指示に従っていた。


「さて…近くにある紫色の自販機…あれか…!」


誘拐犯の指示では、指定の場所にある紫色の自販機、その下に金の入った袋を入れておけと言うことだった。


金を確認し次第、妹を解放するとそう言う約束だ。


しかし、俺は誘拐犯の言葉に全て従おうとは考えていなかった。


すべていうとおりにして妹が無事である保証はどこにもない。


金を渡したところで、誘拐犯は口止めのために妹を殺すかもしれないのだ。


故に俺は自分の能力を存分に使い、自力で誘拐犯から妹を救い出すつもりだった。


「…」


俺は指定の自販機にゆっくりと近づいていく。


右手で金の入った袋を持ちながら、左手にはあるものを持っていた。


「これで…美久の居場所を突き止める…」


左手の中に握っているのは美久の髪留めだった。


俺は持ち物から所有者を特定する魔法、「サーチ」を発動させる。


「サーチ」


そう唱えると、空中に浮かび上がった白い線が、妹の現在地を俺に教えてくれる。


「あそこか…」


細く白い糸のような線は、近くのマンションの一室に向かって伸びていた。


どうやらあそこに美久が…そしておそらく誘拐犯がいることだろう。


「やはり近くにいたか…」


予想通りだ。


誘拐犯は、必ず俺に指定した場所を観察できるところにいると踏んだのだ。


これで美久と誘拐犯の居場所は割れた。


後は能力を使って救い出すだけだ。


「さて…待ってろよ、美久。今お兄ちゃんが助けるからな」


俺は自販機の下に金の入った袋を置いた。


それからサーチの魔法が指し示す、マンションの一室を見上げた。


あそこに…美久が…誘拐犯がいる。


「クロック・ロック」


俺は時を止める古代魔法を使った。


瞬間、世界が静止し、静寂が当たりを支配する。


俺は止まった時の中で浮遊魔法を使って美久の囚われているマンションの一室…そのベランダへと降り立った。


「おらあっ!!」


回し蹴りで、ベランダの窓ガラスを破壊する。


バリィイイイン!!!


鋭い破壊音が周囲を蹂躙すると同時に、時を止める限界が来て世界が動き出した。


「お兄ちゃん!?」


「うおおわああああっ!?なんだお前!?」


突然部屋の窓ガラスを割って現れた俺に、美久が目を見開き、誘拐犯と思しき人物が驚きの声を上げた。





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