第96話


「助けに来たぞ、美久…!」


「お兄ちゃんっ!!お兄ちゃんっ!!」


美久が俺の元へ走ってこようとする。


だが、すぐにその細い体を誘拐犯が捕まえて首を締め上げた。


「あうっ!?」


美久が誘拐犯に捕まえられて苦しげにうめく。


誘拐犯が手に持ったナイフを美久の首元に当てながら喚いた。


「くくく、来るなぁあああ!!!」


美久を人質に取り、俺に向かって叫ぶ。


「す、スキルの力だなっ!?スキルの力でここがわかったんだなっ!?」


突然の俺の出現で混乱しているらしい誘拐犯が、美久の首筋に刃をあてがったまま叫び散らす。


「ははっ!!すげーな中級探索者は!!あそこから一瞬でここまで移動するなんて、化け物じみているなっ!!だがっ、それ以上は動くなっ!!スキルも使うなっ!!もし変な動きを少しでもしたら、てめーの妹をぶっ殺すぞっ!!」


「あうっ…苦しいっ…」


喉元を締め付けられ、美久が喘ぐ。


「ぐ…」


目の前に美久がいるのに…俺は動けなかった。


何か魔法を使おうと思ったが、誘拐犯と美久の体がピッタリと重なっていて、このままだと美久まで巻き込んでしまう。


「…っ」


安易に時間停止の魔法を使うべきではなかったかと俺が後悔していると…


「うおおっ!?なんだこれぇ!?」


誘拐犯が地面を見て急に声を上げた。


「…!?」


見れば地面にできた誘拐犯の影がぐにゃりぐにゃりと変な動きを見せていた。


まさか…


これは美久のスキル…!!


「私はいつまでもお兄ちゃんのお荷物じゃない…っ!!」


「あだぁああああああ!?!?」


誘拐犯が悲鳴を上げた。


美久が、誘拐犯の手に思いっきり噛み付いたのだ。


「てめぇえええええ!!!」


誘拐犯が、もう片方の手で美久を殴ろうとする。


が、影から生まれた黒い蠢く物体が、誘拐犯の腕に突如絡み付いた。


「ひぃいいいいい!?俺に触れるんじゃんぇええええええ!?」


誘拐犯が悲鳴をあげる。


空中へと浮かび上がった黒い影は、そのまま蛇のように形を開けて誘拐犯の体にまとわり付いた。


「くそっ、離れろっ!!離せぇえええ!!」


動きを封じられた誘拐犯がバタンと転倒し、ジタバタともがく。


誘拐犯に向かって手を翳し、歯を食い縛っている美久が俺に言った。


「お兄ちゃん!私が拘束しているから、今のうちに…!」


「ああ!!でかしたぞ、美久…!」


頼もしい妹に頷いて、俺は地面に転がっている誘拐犯に接近。


そのこめかみに手刀をお見舞いした。


「あぐ…」


誘拐犯が白目を剥いて気絶した。


「ふぅ…」


俺は無事にことが済んだことに安堵の息を吐く。


「お兄ちゃん!!」


美久が駆け寄ってきて俺に抱きついてくる。


俺は胸に顔を埋めてくる妹を受け止めながら、その頭を撫でた。


「ごめんな美久。怖かったよな…何もされなかったか?」


「うん…大丈夫…お兄ちゃんが助けに来てくれたから…」


「よかった。お前が無事で本当によかった…!」


「あうぅ…私、もうお兄ちゃんに会えないんじゃないかと思って…怖くて…」


今までずっと我慢していたのだろう。


美久がシクシクと泣き出した。


俺は美久が泣き止み、落ち着くまでずっと優しく美久の体を抱きしめていた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る