第74話
「確かに強力な能力だな」
他人の心を読む力。
スキルの中でもかなり異質な部類であることは間違いない。
「時間制限も特にないから、常時発動していられるんだ。この力があれば、安藤さん、あんたの考えを読むのもわけないぜ」
「…そうかい」
「ちなみに今の君はこう考えている。俺のスキルの話はわかったから、さっさと要件を済ませろよ、俺は疲れているんだ、と」
「…ああ、正解だよ」
俺は首をすくめる。
一ノ瀬はかなり得意げだ。
「それじゃあ、要件を済ませようか。俺の目的は安藤省吾。あんたの実力を確かめることだ」
「…またそれか」
「この間部下があんたと接触したみたいだけど…どうも報告が要領を得ない。安藤省吾はとるにたらない探索者だ。これ以上あいつに構うのは時間の無駄だ。そればっかりでね」
「…」
「あんた…俺の部下に何したんだ？」
一ノ瀬の目つきが厳しくなる。
「わざわざ言わなくともあんたなら俺の心を読めるんじゃないのか？」
「はっはっはっ。そうだったね…それじゃあ、読んでみようか…ふむふむ…自分の魔法の力を報告されるのが嫌だから記憶を改竄した…魔法？これは君のスキルに関することか？わからないけど、記憶を改竄したとある。なるほど…俺の部下の頭の中を弄ったと」
「…」
「へぇ…結構えげつないスキルなんだな。安藤省吾…しかし、わからないな。記憶を操作するスキルでどうやってモンスターを倒すんだ？」
「…」
「あんたにはスタンピードを一人で殲滅したとか、一日で中級探索者になったとか色々噂があるみたいだけど…いまいちあんたの頭の中の考えと整合性が取れないんだよなぁ…」
「…」
「ま、いいか。実際戦ってみればわかるでしょ」
そう言って一ノ瀬は構えを取った。
やれやれまたか…
俺はため息を吐く。
「なんで俺があんたと戦わなくちゃいけないんだ。心を読んだならわかるだろ。俺は疲れてるんだ」
「来ないならこっちから行くけど…？」
「…」
どうあっても戦いからは逃れられないらしい。
俺は仕方なしに一ノ瀬と向かい合う。
「あんたは今こう考えている」
「…？」
「心を読むスキルは確かに強力だが、しかし、そんなものでどうやって戦うんだ、と」
「…一個一個正解かどうか言った方がいいか？」
「俺には武術の心得があってね…この武術とスキルを組み合わせれば、相手の考えを見て先を読みながら、戦う…なんて戦術が取れるんだ」
「…」
「さあ、安藤省吾。あんたの頭の中を覗いてやる！！次にどんな手を打ってくるのか…！なんだってわかる！丸裸だ…！！」
「…」
「………ん？……あれ、え…？」
「おーい、俺の心の中は読めたのか？」
「…よ、読めたけど…なんだこれ…？俺の背後に瞬間転移して反応される前に手刀で意識を刈り取る…」
「…」
「こ、これがあんたの考え…？なんだこれ、妄想か？」
「いいや現実だ」
「ーーーーっ！？」
俺は一ノ瀬の言葉通り、転移の魔法を使って瞬時に一ノ瀬の背後に移動し、手刀を首筋にお見舞いした。
「がっ！？」
一ノ瀬は予想通り反応できず、白目を剥いて気絶する。
「…一丁上がりと」
俺は伸びている一ノ瀬を見下ろす。
他人の考えを読むスキル。
強力だが…でも、先を読んだところで対処のしようが無い攻撃に関しては無力だよなぁ…
仲間と共闘するときにはそれなりの力を発揮しそうだが…
「とりあえず記憶は貰っとくよ。もう頼むから俺には関わらないでくれ」
俺は前回同様一ノ瀬から俺と接触した記憶を抜き取り、その体を邪魔にならないよう道の脇に寄せてからその場を後にした。
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