第73話


「あぁ…疲れた…」


放課後。


ぐったりとした体を引き摺るようにして俺は帰路を歩く。


今日は、財閥令嬢の転校生、四ツ井に振り回される一日だった。


結局午後の授業でも教科書を持っていない四ツ井に俺は机をくっつけて教科書を見せなくてはならない羽目になり、クラス中に俺と四ツ井は赤の他人ではなくなんらかの関係がある、と言う認識が広まってしまった。


いや、クラスどころじゃない。


すでに学校中に広まっているんじゃないだろうか。


おかげでさっきから周囲を歩く生徒からの視線がすごい。


ひそひそと何やら噂をしあっているが、時折、『四ツ井』とか『安藤』と言う単語が聞こえてくるため、まず間違いなく俺と四ツ井についての話題だ。


あぁ、不幸だ。


なぜ次から次へと面倒ごとが俺の元には舞い込んでくるのだろうか。


目立ちたくないのに、知らず知らずのうちにどんどん周囲からの注目を集めてしまっている気がする。


「今日は探索に行くのはよそう…」


疲れを癒すために、俺はいつもの放課後のルーティーンであるダンジョン探索へ行かないことにした。


今日は家に帰ってゆっくりと疲れを癒したい。


そして明日からの四ツ井の対処も考えなくては…


現状を放置していては、俺は延々と四ツ井に付き纏われ、注目を集めるばかりだ。


なんとか四ツ井の興味を俺から逸らす必要がある。


だが…あいつは俺目当てで転校してきたわけだからな…


関わりを断つのは至難の業だぞ…


「はぁ…そして面倒ごとがもう一つ」


その『後ろからついてくる気配』に気づいた時、俺は思わず重苦しいため息をついてしまった。


ただでさえ、四ツ井のことで一杯一杯なのに、どうやらまた一つ、面倒ごとが俺の元に舞い込んできたようだ。


「おい、あんた…俺に用があるんだろ?隠れてないで、出てこいよ」


「おお!この距離で気づくか!!」


俺が振り向いてそう言うと、30メートルくらい離れた物陰から男がひょいっと姿を表した。


ラフな格好の男で、スキップ調の足取りでこちらまで歩いてくる。


「お見それしたぜ!安藤省吾!!お前、相当な実力者だな!」


「…誰ですかあなた」


気さくにそんなことを言う男を、俺は睨む。


男は朗らかに笑いながら、名刺を差し出してきた。


「俺、青銅の鎧の参謀、一ノ瀬ってんだ!!以後よろしく!!」


「青銅の鎧…」


ああ。


どうやら本当に面倒ごとのようだ。


青銅の鎧。


なんで有名クランがこうも俺に付き纏ってくるんだよ。


「今日はあんたに話があってきたんだ!」


「帰っていいですか?」


「つれないなぁ…」


帰ろうとする俺の腕を男が掴んでくる。


「話してください」


「ちょっとだけ!ちょっとだけ話を聞いてよ!ね?」


「はぁ…なんですか」


俺がうんざりした表情をするが、相手は全然意に返さない。


「一応なんだけど…青銅の鎧って知ってる?」


「知ってますよ…有名探索者クランでしょ」


「わお!知ってくれてるんだ!!嬉しいなぁ」


「白々しい…あんたらのとこの人間がこの間、俺のとこに来たぞ。そっちが送ったんだろ?」


「あー、そうそう。そうだったね」


「…」


惚けたようにそんなことを言う一ノ瀬。



しかし、前の後藤だっけか?


あいつは普通のメンバーだったようだが、今度は参謀か…


相当上の役職のようだが…


そんなのが一体俺になんのようだ?


「有名クランの参謀が、一体俺になんのようだ?今そう思ったでしょ」


「…!」


心を完全に読み当てられ俺は驚く。


なんだこいつ。


今まるで俺の頭の中を覗いたみたいに完璧に考えを言い当てていた。


「なんだこいつ。今俺の頭の中を覗いたみたいに完璧に考えを言い当てたぞ!!今度はそう思ったね」


「…っ!」


またしても心を読まれ、俺は一ノ瀬に対する警戒レベルを一気に上げる。


読唇術とかそんなものじゃない。


これはスキルだ。


「そう。読唇術じゃないよ。俺のスキルの力だ」


一ノ瀬がニヤリと笑った。


「俺は他人の頭の中を覗けるんだよ。何を考えているのかが手にとるようにわかる。すごいでしょ」


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