第61話


「きゃああああああ!!!」


「うわああああああ!!!」


デパートのフロア内は一瞬で大混乱に陥った。


唐突の銃声に、客たちは悲鳴をあげて逃げ惑う。


だが、次の瞬間、フロアの至ところで発砲音が同時に響いた。


ズダダダダダダダ!!!


「全員床に伏せろ!!」


「命令に従え!!撃ち殺されてーのか!!」


「動くんじゃねぇえ!!俺たちはアンノウンだぞ!!!」


銃を持った男たちの怒声がフロア内に響き渡る。


客たちは動きを止めて、地面に伏せて男たちの指示に従う。


「ようし…それでいい」


「聞け、お前ら!!このデパートは我々アンノウンが占拠した!!」


「お前らは俺たちの人質になってもらう!!」


「妙な真似したやつは撃ち殺すからな!!」


アンノウンを名乗る男たちは、大人しくなった客たちをみて満足そうに頷いた後、フロア内を彷徨き、妙な動きをするやつがいないかどうか確認するように周囲をぐるぐると歩き始めた。


「な、何これ…何これぇ…お兄ちゃん…」


俺の腕の中で美久が震える。


「大丈夫…大丈夫だからな…」


俺は美久をギュッと抱きしめながら、テロリストどもを観察する。


先ほど男たちはアンノウンと名乗っていた。


どこかできたことがあると思ったが、思い出してみると、確か彼らのことはニュースで報道されていた。


最近全国の津々浦々に現れて、テロを起こすテロ集団。


今までに十件以上も、爆破事件や立て籠り事件を起こしているという。


報道では、全員が密輸した銃や手榴弾などで武装している上に、強力なスキルを持っていると言っていた。


専門家の解説では、もともとあったヤクザのような反社勢力が、スキルの出現によって社会が混乱する中、勢力を拡大し、国家転覆や現体制の破壊などなんらかの目的のために活動をし始めたのではないかと言うことだった。


…いや、彼らの目的なんてのはどうでもいい。


アンノウンだがなんだか知らないが、お前らは最もやってはいけない罪を犯した。


「ふぇえ…怖い…お兄ちゃん、怖いよぉ…」


「…っ」


そう。


お前らは俺の妹を泣かせた。


殲滅理由はそれだけで十分だろ。


「お兄ちゃん…あの人たち…ニュースのテロの人達なの…?私たち、全員殺されちゃうの…?」


美久が泣きながらそんなことを聞いてくる。


「大丈夫…大丈夫だから…お兄ちゃんがあいつらをやっつけるからな?」


俺は美久を抱きしめて、頭を撫でる。


「だ、だめだよぉ…お兄ちゃん。戦っちゃだめ…あいつら、銃持ってるよ…?勝てないよ…」


「大丈夫だ…美久。俺はな…」


その時だった。


「うわああああああああ!!!」


一人の男が、テロリストの一人に向かって走っていった。


「な、なんだこいつ!?」


「死ねぇえええええ!!!」


男がテロリストに向かって右腕を振りかぶる。


見れば、男の右拳は、鋭利な刃物に変化していた。


あれはスキルの力か…!


どうやら勇気のある客が一人、テロリストに立ち向かったようだった。


だが、周りに何人も銃を持った仲間がいる状況でその行動は無謀でしかない。


「よせ、やめろ!!」


俺は叫ぶが遅かった。


ズダダダダ!!!


容赦ない銃声が響いた。


「がっはっ!!」


四方から撃ち抜かれた男が、血を吐いて倒れる。


「きゃあああああああ!!!」


「いやああああっ!!!」


血が地面に広がって、血溜まりを作る。


近くにいた客が、青ざめた声で悲鳴をあげた。


テロリストたちが高笑いをする。


「はっはっはっ!!俺たちに逆らうからこうなるんだ!!」


「おい、スキルの力があるからって歯向かってくるんじゃねーぞ!!」


「誰もこうなりたくはないだろう!?」


テロリストが男の死体を蹴り飛ばしながら叫ぶ。


「あうぅ…お兄ちゃん…っ」


美久の俺に抱きつく力が強くなる。


俺はそろそろ行動を起こすことにした。


もうここまできたら、魔法の力を隠すとかは関係ない。


俺はテロリストどもを制圧することにした。


「美久。起きた時には全て終わってるから…少し眠っていてくれ。スリープ」


「すぅ…」


俺は美久を眠らして、近くの物陰に隠すようにして横たわらせた後、立ち上がりテロリストの元へ向かって歩いていく。


「あ?なんだ?お前も死にてーのか?」


テロリストがニヤリと笑って俺に銃口を向けた。




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