第62話


「それ以上近づくと撃つぞ」


テロリストが銃を構えながら脅してくる。


「こいつみたいになりたいか?」


テロリストが足元の死体を蹴飛ばした。


べちゃっと血溜まりの中で死体が跳ねる。


「…」


俺は何も答えずに無言で近づいていく。


「けっ…死にたがりが…地獄へ行け!!」


テロリストの指が引き金にかかる。


銃口から弾が発射される前に、俺は古代魔法を使った。


「クロック・ロック」


しーーーん…


次の瞬間、時が止まり、世界が静かになる。


テロリストも、客も、何もかもが動きを止めて、静寂が周囲を支配した。


静止した世界の中でただ一人動ける俺は、自らに銃口を向けるテロリストの男に麻痺の魔法を使う。


「パラライズ」


これでこの男は指先一つ動かすことができなくなった。


魔法を発動した直後、五秒間が経過し、時を止める限界がやってくる。


「死ねぇええええ!!……って、あれ!?なんだぁ!?体が動かねぇ!?」


時が動き出した。


銃の引き金を引こうとしたテロリストは、自らの体が少しも動かないことに戸惑いの声をあげる。


「なっ…なんだこれ!?てめぇ、何しやがった…うおおおお!?」


転倒し、地面に横倒しになる。


「くそっ…体が…少しも動かねぇ…てめぇ、なにかしやがったなっ…」


ギロリと俺を睨む。


「寝てろ。スリープ」


「すぅ…」


俺は眠りの魔法で男を完全に無効化し、他のテロリストどもと対峙する。


「こいつ…」


「なんだ…?スキルを使ったのか?」 


「知らねーよ!!殺しちまえ!!」


「死ねやあああ!!!」


テロリストが銃の一斉射撃を開始する。


ズダダダダダダダ!!!


無数の弾丸が俺に向かって飛んでくるが、ただの一つも俺に命中するものはない。 


「な、なんだあれ!?」


「バリア!?」


テロリストどもが驚愕の声をあげる。


彼らの放った弾丸は、全て俺に届く前に空中で静止していた。


俺の展開した障壁魔法に絡め取られたのだ。 


「くそくそくそっ!!」


「化け物がっ!!」


テロリストはやけになって銃を撃ちまくるが、しかし、どんなに撃っても結果は変わらない。


結局彼らはマガジンが空になるまで、銃による攻撃が無駄だと言うことに気がつかなかった。


「な、なんなんだこいつ!?」


「スキルの力か…!?」


「こ、こっちにくるぞっ!!」


テロリストが混乱に陥る。


俺は彼らを一人一人、麻痺と眠りの魔法によって無力化していった。


「パラライズ!スリープ!」


「ぐっ…すぅ」


「パラライズ!スリープ!」


「あっ…すぅ」


「パラライズ!スリープ!」


「おっ…すぅ」


一人、また一人と倒れているテロリストたち。


1分もたたないうちに、フロア内に残った覆面男は一人だけになった。


「な、ななな、なんなんだお前は…っ」


「…」


「や、やめろっ、やめてくれっ」


「…」


俺は無言で近づいていく。


テロリストの顔が恐怖に歪む。


「こ、降参だっ、殺さないでくれっ!!」


銃を捨てて跪き、命乞いを始めるテロリスト。


俺はそんな男の額に人差し指を当てて、奴隷の紋章を刻む。


「我が下僕となれ」


「…あ」


男の目が一瞬見開かれ、そして虚になる。


「抵抗するな。今からお前は俺の下僕だ。従者だ。命令を遂行するだけの犬だ。いいな?」


「はい。ご主人様」


「よし…」


久しぶりに使った隷属の魔法。


すっかり従順になったテロリストに、俺は満足する。


よし。


ではこいつを利用して、この建物にいるテロリストどもを全員始末するとしようか。

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