第59話
「お兄ちゃん…!わ、私…外に出ようと思うのっ!!」
「は…?」
その日の朝。
妹の美久が突然宣言した。
その日は休日で、昼頃に起き出してきた俺は、生活用品を取り揃えるための外出の準備をしていた。
お金も入ったことだし、家にあるぼろぼろになるまで使い古した家具や調理器具をこの際に一新しようと思ったのだ。
そんな最中、美久が俺に向かって唐突に外出宣言をしたのだった。
「ど、どうしたんだ美久…?何かあったのか…?」
驚いた俺はそう尋ねる。
美久は決意の固まった表情で言った。
「お、お兄ちゃんが探索者として頑張ってるから…み、美久も頑張らなきゃと思って…」
「いや…べ、別に美久は頑張る必要ない
ぞ!?家でぬくぬくしていていいんだぞ!?」
いじめられて引きこもりになった美久は、それから極端に外出を嫌うようになった。
美久はストレスが溜まると自傷したり、自殺未遂を犯した過去もあるため、俺は美久になるべくストレスフリーな環境で生きてもらいたい。
無理して外に出る必要なんかないのだ。
お兄ちゃんが一生養ってやるぞ。
「ううん…お兄ちゃんが命がけで探索者頑張ってるのに…美久だけ家にいるなんてずるいよ…」
「いや、別に俺は…」
俺には勇者の力があるから、ダンジョンに潜る如きで命がかかったりはしないんだが…
それを美久に伝えるべきか…?
「って、美久…!?なんだその腕の傷は…!?」
俺はふと美久の手の甲に、何個かの切り傷があるのを見つけた。
「え、えへへ…この間、お兄ちゃんが探索に行ってるときにやっちゃった…」
「はぁ!?」
「お兄ちゃんが命がけで稼いでるのに何も頑張ってない卑怯者の美久への罰なんだぁ…」
傷口をさすりながらそんなことを言う美久。
オーマイガアアアアア!!
妹の自傷行為が再び!?
「みみみ、美久!!頼むっ、頼むから自傷行為はやめてくれっ!!」
「うぅ…だって、美久は卑怯者で…お兄ちゃんのお荷物で…」
「お荷物なんかじゃない!!美久はお兄ちゃんの宝物だ!!希望なんだっ!!」
俺は美久を抱きしめる。
「お兄ちゃんが頑張れているのは全部美久のおかげなんだぞ!?美久が家でお兄ちゃんの帰りを待っていてくれるからなんだぞ!?」
「ほんとぉ…?」
「ああ、本当だ」
「で、でも…美久辛いよ…一人だけお家にいて…なんだかお兄ちゃんに置いていかれてるみたいで…」
「そ、そんな…俺はそんなつもりは…」
「ねぇ、お兄ちゃん。美久、ちょっとでもいいから前に進みたいよ…また外に…出られるようになりたい…」
「美久…」
うるうるとした瞳に見つめられ、俺は完全に丸め込まれる。
「わ、わかった…ただし約束してくれ」
「何?」
「しばらくは外出する時はお兄ちゃんと一緒の時な?それから…少しでもストレス溜まったら言うこと。自傷行為はあんまりしないで欲しいかな…」
「う、うん…頑張る…」
「それから…美久。これが一番大切なことなんだが…」
「…?」
「じ、自殺とか…しようなんて考えないでくれよ…?美久が死んじゃったらお兄ちゃん、生きていけないぞ…?」
「うん。絶対しない。大好き、お兄ちゃん」
ギュッと美久が抱きついてくる。
俺はそんな美久の後頭部を撫でる。
そんなわけで…俺はその日、美久に買い物に付き添ってもらうことにした。
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