第58話
「仲間…?」
助けた女探索者は首を傾げる。
「ああ。あんたの仲間二人が教えてくれたんだ。あんたが自ら囮になって二人を逃したって」
「自ら…囮に…そ、その二人は私が自分から囮になったと言ったんですか?」
「そう聞いたが?違うのか?」
「い、いえ…違いません…あの、助けていただいてありがとうございました!お名前をお伺いしても良いでしょうか?」
俺の手をとり、女探索者は立ち上がった。
見た目的にはさほど俺と歳は変わらないように見える。
おそらく十代の少女だろう。
軽くウェーブのかかった黒髪。
整って静謐そうな雰囲気のある顔立ち。
どことなく高級感の漂う佇まいだ。
「俺は安藤だ。安藤省吾。あんたは?」
「私は四ツ井恵理子と言います。安藤さん。命を助けていただき本当にありがとうございました。この恩は絶対に忘れません。後日必ず俺にお伺いしますね」
「は、はぁ…」
一体どうやってお伺いしようというのだろうか。
まぁ、社交辞令のようなものか。
「怪我はないか?」
「はい。特には」
「そうか。じゃあ、仲間のところまで送るから合流しよう」
「…ありがとうございます」
ここは七階層で、おそらく下級探索者である四ツ井が彷徨いていては危ない場所だ。
ひとまず安全地帯である五階層まで送り届けた方がいいだろう。
そう判断した俺は、四ツ井とともに上の階層を目指す。
五階層の入り口で、仲間の二人組が待ち構えていた。
「よ、四ツ井さん!!生きていたのか!!」
「ぶ、無事で何よりだよ…ははは」
「…」
四ツ井の帰還を喜ぶ二人だったが、四ツ井はなぜか二人をギロリと睨んだ。
うっと二人が行き詰まる。
「どうかしたのか?」
普通死にかけた仲間と再会したらもっと喜ぶものなんだろうが…なぜか三人の間には気まずい空気が流れていた。
「いえ…なんでもありませんよ、安藤さん。私たちは地上を目指すので。ここまで送ってくださってありがとうございました」
四ツ井が丁寧に腰をおってお礼を言ってくる。
「おう…地上まで送ろうか?」
「いえ…ここから先は私たちの適正階層なので問題ありません。これ以上安藤さんのお手を煩わせるわけにはいきませんから」
「そうか。わかった。じゃあ、気をつけてな」
俺は三人と別れて、下の階層を目指す。
うーん…あの三人。
あんまり仲が良くないクランなのか?
まぁ、いいか。
部外者の俺が気にしたって仕方がない。
本来の目的であるオーク狩りに戻るとするか。
「ずいぶん時間をロスしたし、少し急ぐか」
結局俺はその後、四ツ井を助けたときに狩った二匹を合わせて、合計で八匹のオークを狩ることに成功。
オークの魔石は全て約三万円で買い取ってもらい、結果的に24万円の報酬を得ることができた。
前回に比べたら少ない報酬だが、しかし、俺にとっては十分すぎる額だった。
俺はまた家でまつ美久を驚かしてやろうとワクワクしながら帰路につくのだった。
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