第53話
「は…?ここで起きたことを…忘れる?」
戸惑う後藤に俺は近づいていく。
「ええ。俺はなるべく力を秘匿したいんです。
どこのクランにも所属せずに一人でやっていきたい。あなたの上司とやらに能力を知られるわけにはいかないんです」
俺は負傷して立っているのもやっとの後藤に、まずは回復魔法を施した。
「え…傷が治って…?」
「手加減はしたつもりだったんだが、やっぱり骨が折れてたみたいだ…」
「嘘だろ…?まさか、三つ目のスキル…省吾さん、あなたは…三つのスキルを持つ…と、トリプル…」
「まぁあなた方の常識だとそう解釈するしかなくなるんでしょうが、あいにくこれはスキルじゃないんです」
「へ…?」
「これは魔法って呼ばれる力ですね。スキルとは別物だ」
「ま、魔法…?」
「そう。世界にはスキル以外にも超常的な力が存在するんですよ」
「ま、魔法…そ、そんなものがあったとは…じょ、上司に報告せねば…」
「だから、させないと言ってるでしょ」
俺は後藤の額に手を当てて、過去30分ほどの記憶を消しとばした。
「…」
後藤の瞳が虚になる。
記憶消去の魔法は、脳に障害が残る場合もあるからあんまり使いたくないんだがな…
まぁ、やむを得ない。
俺は後藤から、俺と接触してから今までの記憶を全て抜き取り、空欄に文字を書くようにして新たな記憶を埋め込む。
「後藤さん。あなたは俺、安藤省吾と接触した」
「…はい」
「だが、安藤省吾は、とるにたらない探索者で、とても『青銅の鎧』に迎え入れられるような実力者ではなかった」
「…はい」
「よってあなたは安藤省吾をクランにスカウトするべきではないと考え、それを上司に報告する」
「…はい」
「よし。じゃあ、行ってもいいぞ」
「…はい」
後藤がふらふらとした足取りで帰っていく。
おそらく数分以内に記憶が蘇ってきて、また元の状態に戻るだろう。
だが、その時には俺と戦ったことも、俺の魔法のことも全て忘れている。
後藤は、俺が大した探索者じゃないことを報告し、俺が『青銅の鎧』に目をつけられることもなくなる。
我ながら完璧な作戦だな。
「報告、よろしくお願いしますよ。後藤さん」
俺は小さくなっていく後藤の背中を見ながらそう呟いたのだった。
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