第52話


「いやいや、待ってください!急になんですか?」


実力を試すとか言って本当に戦闘態勢になる後藤に俺は待ったをかける。


一体何なんだ?


尾行して、スカウトするとか言い出して…挙げ句の果てに腕試し?


自分勝手にも程があるだろう。


「こちらは本気であなたを倒しに行きます…殺しはしませんが…気絶させるくらいはするつもりです。ですのであなたも本気で来てもらいたい、省吾さん」


「ちょっと待ってくださいよ。なんでいきなり腕試しなんて話になるんですか!?」


「あなたの実力を試すためだ…行きますよ!!」


だめだこの人全然話を聞かない。


一回無力化したほうが手っ取り早そうだ。


俺も構えをとって臨戦態勢になると、後藤さんがニヤッと笑った。


「行きますよ…スキル、暗転!!」


後藤がスキルを放った。


直後、俺の視界がブラック・アウトする。


一切の光が消え失せて、何も見ることは出来ない。


「なんだ、これ…?」


「私のスキルです。対象の視界を奪うことができます…さあ、行きますよ!!」


後藤が接近してくる気配がした。


俺は背を剃り返して、後藤の攻撃を交わす。


すっと、顔面のすぐ近くを何かが通り抜けていった。


おそらく後藤の右足だろう。


「ほう…今のを避けますか。視界が奪われた状態で」


「…」


「一体どうやったのですか?」


「見えなくとも気配が分かったんですよ」


「…なるほど」


後藤が感心したように息を吐く音が聞こえた。


「あなたが一日で中級探索者になった理由がわかったような気がする」


直後、後藤の気配が再び接近してくる。


いいかげん、反撃してもいいよな。


俺は接近する後藤の気配に向かって軽く回し蹴りを放った。


ドゴッ!!


「ごっほっ!?」


ヒット。


後藤の体が吹っ飛んでく。


手加減したため、そこまでダメージはないはずだ。


せいぜい骨にヒビが入った程度だろう。


「スキル・キャンセラー」


俺は後藤が再起する前に、スキル・キャンセラーを使ってスキルを解除する。


途端に、視界が元通りになった。


少し離れたところに、地面に膝をついて苦しそうに呼吸をしている後藤がいる。


「腕試しはすみましたか?」


俺が尋ねると、後藤が徐に立ち上がり、手を挙げた。


「降参です。あなたの実力は本物だ」


「…」


「し、しかし…驚きました。まさか視界を潰された状態であそこまで力を発揮できる体術をお持ちとは」


「…はぁ」


「これなら実習初日で中級探索者となったのも納得です。あなたは否定しましたが…スタンピードを一人で殲滅した噂も事実なんじゃないですか?」


「そんなことどうでもいいです。それよりも…何なんですかあなた。尾行してきていきなり襲いかかってくるとか…これ以上するなら警察に相談しますよ?」


俺はこれ以上突っかかられたらたまらないため、警察に連絡することをちらつかせる。


「本当にすみません、無礼をお詫びしますよ。もう襲いかかったりしませんから、警察はご勘弁を」


「頼みますよ…本当に」


「しかし、先程の体術以上に驚いたことがる…省吾さん。あなた、ダブルだったのですね」


「はい?」


「私のスキル…解除したのはあなた自身のスキルの力でしょう?」


「…」


「面白い。スキルを解除するスキルですか。事前情報ではあなたは炎を操るスキルを持っていると聞いていたが…まさかスキルを二つもつダブルだったとは…」


「…」


それも知ってるのか。


どうやら俺のことをずいぶん入念に調べたみたいだな。


まぁ、正確には炎を操る方のは単なる魔法なんだけどな。


「それで…結局あなたは何がしたいんです?」


俺は改めて後藤に尋ねる。


スカウトすると言ったり襲いかかってきたり。


結局目的は何なんだ?


「スカウトの件は嘘ではありません。しかし…私にあなたを青銅の鎧に招けるような権限はない。今日の目的はただ単にあなたの実力を見極めることでした。そして私は十分に目的を果たした」


「俺の力を見極められたってことですか?」


「ええ。あなたがダブルだと分かっただけで収穫だ。上司に報告して、正式にあなたをスカウトするかどうか、判断を仰ぎます」


「…なるほど。上司に報告ですか」


「ええ…では私はこれで」


「おい、待てよ」


流石に見逃すわけにはいかなかった。


この後藤という男は、人のことを尾行して、襲いかかってきて、今度は俺がダブルだという誤った情報を上司とやらに伝えようとしている。


流石に暴挙が過ぎる。


俺はなるべく目立たずにソロとして活動していきたいんだ。


俺の実力を大っぴらに知られるわけにはいかない。


「悪いんですけど、他人に報告なんてさせないですよ」


「は…?」


「ここで起きたことは忘れてもらいます」


俺はあまり使いたくなかった記憶操作の魔法を使うことにした。



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