第51話
「青銅の鎧…」
俺は渡された名刺に書かれていたクラン名を読み上げる。
探索者クラン『青銅の鎧』。
探索者なら誰もが知っている超有名トップクランであり、日本最強の探索者と名高い女性探索者もこのクランに籍を置いている。
そんな有名クランのメンバーが一体俺に何のようだ?
「なんですか?急に。後をつけたりして」
「そう警戒しないでください。危害を加えたりとかそういうことではありませんので。尾行をしたことについては謝ります」
男は深々と頭を下げた。
もういいですよ、と俺がいうと顔を上げて俺の目をまっすぐに見てくる。
「私の名前は後藤と言って青銅の鎧のメンバーです。実は今日伺ったのは他でもありません…我々青銅の鎧はあなたをスカウトしたいと思っている」
「スカウト…!?」
これには俺も驚いてしまった。
スカウト、ということは俺を青銅の鎧のメンバーに加えるということか。
あの青銅の鎧が?
一体どうして…?
「なんで…俺なんですか?」
「あなたの噂を聞きまして…何でも、実習初日でスタンピードを一人で殲滅、一気に中級探索者のライセンスと手に入れたとか…」
「…」
あー。
なるほど。
その情報を聞きつけてきたのか。
どうして俺みたいな探索者になりたてのひよっこに、有名クランが声をかけてきたのかと思ったが、どうやら彼らは俺についての情報をある程度握っているようだ。
「ぜひ本人の口から聞きたい。あの噂はどこまでが本当なのですか?」
「それは…」
俺は逡巡する。
全否定するか。
それとも全肯定するか。
あるいは部分的に認めるか…
迷った挙句に、俺は噂を全否定は無理があると思い、部分的に肯定することにした。
「一日で中級探索者になったのは本当です…でもスタンピードを一人で殲滅したのは、流石に嘘ですね…俺はただ居合わせた一人の探索者見習いをスタンピードから救っただけです」
「なるほどなるほど…では、殲滅した、というのは噂に尾鰭がついた結果だと…」
「そういうことになります」
「ふむふむ…」
青銅の鎧の後藤は髭をさすりながら頷いている。
これでいい。
嘘をつくには真実を混ぜ合わせるのが一番いいって聞いたことがある。
全否定するよりは、一部真実を明かしておいた方が信憑性が出るだろう。
いうまでもないことだが…俺は『青銅の鎧』に入るつもりはない。
『青銅の鎧』になんて入った暁には、間違いなく目立ってしまう。
魔法の存在を秘匿したい俺は、絶対にソロの探索者に拘るつもりだ。
どこのクランにも入るつもりはない。
「わかりました。答えてくれてありがとうございます」
「そのことを知ってもまだ俺をスカウトするんですか?」
「…そうですね」
後藤がニヤリと笑った。
それからぐっと姿勢を低くして、戦闘態勢をとる。
「上司から私への指示は、あなたが青銅の鎧に入るに足る実力者かどうか、どんな手を使ってでも確かめろ、というものでした。なので…ちょっと腕試しをさせてもらいますよ」
「は…?」
俺が首を傾げる中、後藤が不敵に笑う。
「今から全力であなたを倒したいと思います。あなたも全力で抵抗してください」
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