第46話
「何に使おう…」
日曜日の午前中。
今俺は、目の前にある札束をじっと見つめながら、もう1時間以上も考え事をしていた。
さて、このお金を何に使うか。
長年貧乏生活を強いられてきた俺には、いきなりこのような大金が懐に入ってきて、これをどう使っていいか分からなかった。
たった一回の探索で手に入れた250万。
あれから一応日々の食事はお腹いっぱいになるほどに贅沢になったが、しかし、それ以外の生活は何も変わってない。
美久に何か欲しいものはないかと聞いたが、ご飯がお腹いっぱい食べられるだけで幸せだと言われた。
我が妹ながら、欲がなく慎ましやかに育ったものだ。
けれど、俺としてはせっかくに手に入れたのだし、何かに使わなければもったいない気がする。
そういうわけで、何か欲しいものはなかったかと現在考えている最中だった。
「うーん…もっといいアパートに引っ越すとか…?」
俺は改めて長年住んできたボロアパートを見渡してみる。
とにかく狭く、壁のあちこちが禿げて、隣の住人の足音が平気で聞こえてくる。
お金のない大学生だってもうちょっといいところに住んでいるだろう、というぐらいぼろっちぃアパートだが、しかし、住めば都。
今のところさして不自由だとは思わない。
美久もここで問題ないと言っているし、引っ越しには手間暇もお金もかかる。
そういうわけで引っ越しは断念した。
「まぁ…とりあえず貯金かな」
色々考えた末に、結局俺は無理にお金を浪費することなく貯金に回すことにした。
今は使わずに残しておいて、後で入用ができたときに使えばいいだろう。
「よし…それじゃ、今日も探索に行くか」
俺はお金を戸棚にしまって、探索へいく準備をする。
前回は放課後だったためにあまりダンジョンに長居できなかったが、今日は丸一日ダンジョンに潜ってられる。
モンスターを狩りまくって魔石を売り、さらにがっぽり稼がせてもらうとしよう。
「え、お兄ちゃん…どこ行くの?」
俺がアパートを出ようとすると、美久が腕を掴んで引き留めてきた。
「ん?探索だが?」
「ええ!?テレビ見なくていいの!?」
「ん?テレビ…?」
「うん!第二ダンジョンの攻略組が五十階層のボスに挑むんだって…!それがテレビで報道されるみたいだよ?」
「ん?そうなのか?」
攻略組、というのはダンジョンの未開拓領域でモンスター狩りをしている最前線の探索者またはクランのことをいう。
現在日本にあるダンジョンにおいて、一番開拓が進んでいるのが、東京第二ダンジョンであり、攻略階層は39層。
そして今日、第二ダンジョンの攻略組が四十階層のボスに挑むとういことで、その様子がテレビで報道されるそうだ。
「見ようよ!見ないともったいないよ!」
「うーん…そうだなぁ…」
ダンジョンでモンスターと戦う探索者をそのまま放送するこの手の番組は、非常に国民に人気があり、毎度高視聴率を記録する。
特に攻略組の戦闘を映すとなると、視聴率は70%にも80%にもなる。
今回はボス戦らしいから視聴率は80パーをゆうに超えるだろうな。
俺も興味がないわけじゃない。
だが、絶対に見たいというほどでもない。
多くの国民にとっては目新しい未開拓領域の映像も、ダンジョンを知り尽くした俺には新鮮ではないし、攻略組の戦いもレベルが低く見えるからな。
見ていて興奮はしない。
…けれど、美久がこんなに楽しみにしているわけだし、この間大金が入ったおかげで、焦って探索する必要も無くなった。
本格的に探索を始めたら、美久と一緒に過ごす時間も減るだろうし、今日ぐらいは一緒にみてやってもいいか。
「よしわかった。見るか」
「うん!見よう!」
そういうわけで、俺は今日は探索には行かずに、美久と一緒に攻略組のボス戦をテレビで観戦することにした。
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